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中編 神々の宿る山 8、バアバの入院

7、AIも人間も大自然の創造物  より

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8、バアバの入院

 

暑い夏になり、仕事のペースも少し落とそうと思っていた矢先、心配な知らせが父から来た。先月、帰省した際は元気そうだったバアバがめまいを起こして山麓にある実家で倒れた。山荘には出かけていなかったので、大事をとってすぐ町内の病院に入院した。やはり八五歳という高齢と疲れが蓄積したのだろう。命には別条は無いので見舞いはよいとのことだった。

しかし、山小屋は夏場を迎えて今が利用のピークを迎えようとしている。知らせを聞いてほっておくことは出来ない。祖父と父の二人では、手が足らないかもしれない。私がすぐに手伝えるわけでもないが、何か善後策を講じる相談くらいなら出来るかもしれない。

イカに連絡をとったら、公休がとれるので一緒に行こうという。入院先は、アパートから高速を使うと小一時間ほどのところだ。仕事を片付けて、昼過ぎには、山麓にある病院に着いた。

バアバは、病院の窓際にあるベッドに静かに横たわっており、真新しいシーツが入院したばかりなことを物語っていた。ベッドから窓を通して立山連峰の白い雪渓、新緑に覆われた山肌がよく見えた。ベッドの横の椅子に付き添いの祖父が座っていた。


祖父は、

「大丈夫だとは思うが」と続けて「やはり年は年だから大事をとったよ」と作り笑いの笑顔を見せながら言った。

私は、見舞いの挨拶もそこそこにバアバのベッドに近寄った。

バアバは、白髪も乱れて、頰も痩せており、先月会った時から比べても一挙に歳をとったように感じた。

「バアバ」と大きな声で呼びかけた。

少し目を開けて、「コウスケか」と弱々しく呟くように答えた。

少しの間沈黙が続いたが、バアバは、結んでいた口をしっかり開きながら、「頼みがあるよ」と私の方を向いて言った。

「なんだい。出来ることなら何でもするよ」

 バアバは、再び目と口を閉じて黙ってしまったが、やがて、

「私を雄山山荘に連れて行っておくれ。やっぱり立山を近くで見たいのよ」とベッドから顔を窓の外に向けながら呟くように言った。

バアバの気持ちを察すると痛いほど理解はできる。しかし、体調を考えると安易に了解はできない。無理をすると命に係わるかもしれない。

それに私が一人で決められることでもない。

「無理だよ。お医者さんの許可が出ないよ」と答えるしかなかった。

「大丈夫よ。疲れからちょっとめまいがしただけだから」

 バアバは、今度は、努めて元気そうな声を出しながら懇願する口調だった。

「お医者さんも今のところ大丈夫だけれど無理はできないと言われている」

祖父が困ったように付け加えた。

イカが声を掛けた。

「おばあちゃん。コウスケの友人のレイカです。今は無理は出来ません」と看護師として病人に対応している時のような話し方だった。

「コウスケから聞いているわよ。友人だなんて水臭いことを。私はお嫁さんだと思っていますよ。レイカさんからも頼んでみて。お願い」

バアバは、レイカの方に向かって手を合わせた。

イカはしばらく黙ってバアバの顔を見つめていた。バアバは、その間もず~と目を瞑りながら「お願い、お願い」と呟き続けていた。

イカは、困ったように私を見つめて、私の意思を確認したいようだった。

私も病室の天井を仰いでため息をついたが、山荘に行きたいというバアバの気持ちはよく分かる。

父と祖父に「どうする」と聞いた。二人とも困っていたが、祖父が「どうしてもいうなら主治医に聞いてみようか」と口を開き、

「レイカさんから同じ医療従事者として聞いてみてくれないだろうか」とお願いした。

イカは「分かりました。主治医の先生に頼んでみますわ」と意を決したように答えた。

部屋を出て主治医のところに行った。10分くらい時間が経っただろうか、レイカが数主治医とともに病室に帰ってきた。

主治医は、患者本人やご家族の意見はお聞きしました、患者の容態は今のところはとくに問題はないが高齢なので用心に越したことはない、と話して、

「条件として、ご家族の同意が得られること、一泊二日だけの外出、看護師さんが同行するということなら、許可しましょう」と続けた。くれぐれも無理をしないで、何か急変があればすぐ連絡をと付け加えた。

私は、バアバに耳元に行き「主治医の許可が出たので一泊だけという条件で山荘に行くことにしよう」と伝えた。

バアバは、ベッドの上から、周りのみんなに顔を向けながら「有難う、有難う、お世話を掛けるね」と何度も何度も言った。

バアバは、急いで身支度をして、公安委員会発行の許可証を得ている雄山山荘のジープに私とレイカと3人が乗り込んだ。もう一台許可を得ている父の車に祖父が乗った。

雄山山荘に帰るには、立山山麓の道を一時間半ほどかかる。バアバは、ずっと目を瞑ったまま何かを思い出しているようだった。目には、涙が光っていた。

 

 





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