4、富山の海の幸、山の幸 より
5、レイカを山荘行きに誘う
有給明けの溜まった仕事は何とか午前中には片付けた。午後は、少し余裕もできた。レイカに話すかどうか最後の気持ちの整理をしていた。バアバも元気そうではあったが、いつ大事に至るか分からない。母親代わりを長年務めてくれたバアバには、せめて元気なうちにレイカを紹介しておきたい。
仕事を定時に終わり、レイカを夕食に誘った。電話に出るなり、
「飯に誘うなら昼にでも連絡をくれよ。朝電話した時も一言言えばいいのに。全く気が利かないんだから」
膨れ面が電話を通しても分かる。
「悪い悪い。こちらもいろいろと忙しくてさ。相変わらず口の悪い看護師さんだね。結婚相手が見つからないぞ(笑)」
「それは困る(笑)。でも職場ではキープスマイルよ。昼飯も食べていなくてお腹が空きすぎていたんだ。飯にありつけるなら喜んで御供するわ」
「分かった。ちょっと話したいこともあるし。近くにある焼肉店にしよう。午後七時に待っている」

私が先に着いて、席を確保しておいた。ほどなくして、レイカが自転車を店の駐輪場に止めて入ってきた。アパートに寄り白衣から私服に着替えて来ていた。空色のジーンズジャケットに黒のパンツというスタイルだ。オシャレには縁遠い。ショートヘアーで、化粧はほとんどしないが、大きな目に黒い瞳が光り、意思の強そうな顔立ちだ。席に着くなり、水をゴクゴクと二杯飲み干した。
「相変わらず忙しそうだね」
「今日は昼に長時間の手術が入り大変だったの。それで、話というのは」
「突然だけれど、立山に帰る時、一緒に行ってくれないか。祖母にも会って欲しくて」
「いいわよ。でもあくまでもコウスケの友人としてね。まだ看護師として未熟なのでもっと勉強したい。気持ちが未整理なの」
レイカは続けてバアバのことを聞いてきた。
「お祖母ちゃんがお母さん代わりだった?」
「そうだよ。ものごころつく前から、バアバが母親だった」
「いつ頃、祖母だと気がついたの」
「小学校に行くようになって。自然に」
「きっかけは無かったの」
「やはり母の遭難死を聞いてからかな」
母のことを思うと青い塊や呼び声が聞こえることも話した。
レイカは、まっすぐ私の方を見つめて、深く頷いてから、
「お母さんは、どうして山荘を継ぐことにしたのかしら」
レイカの問いにバアバから聞いたことを話した。

6、登山者の命綱、山荘 に続く