加納実紀代資料室サゴリは広島駅の北口側の双葉山という小さな山の中腹にある。
公式サイトに「徒歩約25分(丘の上です)」と書かれていたので素直に駅からタクシーに乗る。
タクシーの運転手さんに地図を見せても場所がわからないようだったのでナビに住所を入れてもらい向かっていると、この近くに仏舎利塔があるけどここは宗教施設なの? と聞かれ、違います、と答える。
信号待ちのあいだに建物の外観の写真を見せると、道が進むにつれて、あああそこかな、知ってる知ってる、と運転手さんは納得した様子だった。ときどき近くまで観光客を送り届けることがあって、通りかかったことがあるらしい。
しばらく勾配のきつい坂を登ると黄色い建物が見えてきて、その前で降ろしてもらう。
建物の前で看板の写真を撮っていると、タクシーは近くの駐車場でUターンしたあと、わたしが入口に向かう階段を下りるまで様子を伺うようにその場にとどまっていた。なんとなくだけど気にかけてくれていたのかもしれない。

中に入ると高雄さんが出迎えてくれ、あたたかいコーヒーを淹れてくれる。駅からタクシーで来たことを話すと、賢明な判断ね、と言われる。
窓辺に立つと木々の向こう側に広島の街並みと遠くに瀬戸内海が見える。もともと留学生のための寮だったというこの場所は、高雄さんが手に入れた頃にはたくさんのごみがあって、片付けに一年ほどかかったという。ぎっしり資料が詰まった棚のあちこちに加納さんのものだったという帽子が飾られている。

京城で生まれ、五歳のときに広島で被爆した女性史研究家の加納実紀代さんが残した蔵書や資料が集まるこの場所は、加納さんも寄稿したことがあるというミニコミ「月刊家族」を長年広島で発行し続けていた高雄さんが主宰している。
サゴリとは韓国語で交差点を意味していて、サゴリのWEBサイトの言葉を引用すると〈「ヒロシマ・ジェンダー・フェミニズム・女性史・植民地主義」がクロスする資料室〉としてこの名が付けられたという。


展示を行うことのできるスペースもあって、わたしが訪れた日は南米のアーティストによるZINEをはじめとした作品を集めた「他人の2日後」展が行われていた。
この展示を企画したカプチャさんもあとからやってきて、作品の解説をしてくれる。長年ペルーで暮らしてきたカプチャさんによって集められたペルー、メキシコ、チリ、コロンビアのアーティストたちの作品。ペルーではカトリックが大多数を占めるため、女性の貞操や堕胎にかんして厳しい目が向けられるのだという。アマゾンで暮らす女性たちによってつくられたZINEもある。
去年カポエイラを習い始めてからブラジルの歴史に触れつつあるなかで、奴隷制が廃止されたあと、失われた労働力を賄うために故郷で食いつめた日本人が移民としてブラジルに渡り、コーヒー農園などで過酷な労働に従事したことは知っていたのだけど、隣り合うペルーでも近しい状況が起きていて、奴隷に変わる労働者として連れてこられた中国人の移民がいたという歴史をクリスティーナ・サバラ・ポルトガルさんの漫画作品によって知る。
もともと資料室に収集されていた、1970年代に広島大学で配られたという「女子学生の皆さんへ」と題された手書きのアンケートが興味深く、夢中になる。
学校教育の中で女性差別を感じたことがありますか。「女のくせに」とか「女だてらに」とかの言い方でやりたいことを制限されたことがありますか。女性の解放にとって社会的労働に参加することは不可欠だと思いますか。
帰り際にここの敷地でとれたという無農薬のレモンを高雄さんがくれた。この黄色い建物にはレモンハウスという名がついている。
