さて、今回の「ロック問はず語り」は、もうすぐ新譜が出る我が愛しの Lou Reed 先生の偏屈ぶりをごらんにいただく。今日の画像は例によって Wikimedia Commons より。
この人のジャーナリストに対する当たりの厳しさは有名で、少しケースは違うが2003年の来日時も、鼻を一度啜ったというだけで大手新聞社の記者を部屋から追い出している(風邪を移されまいということか)。
今回まず取り上げるのは、ロッキング・オン1990年10月号に掲載されたインタビューである。インタビュアーは岩見吉朗で、当時のロキノン読者は熱く突っ走る文章の記憶とともに彼の名前を思い出すのではないか。彼の文章に対しては好き嫌いがはっきり分かれていたが、当時はワタシも今よりは遥かに熱い高校生だったから、熱く読ませてもらっていた。
彼は確かこの翌年クラッシュ原稿とともにロッキング・オン社を退社している。その後どうなったんだろうと思っていたら、『ラーメン発見伝』などの漫画の原作者になり、大学講師などもしているようだ。
当時彼は編集部でも「バクダン」と呼ばれた危険人物だったわけだが、ルー・リード親父の手にかかってはこわっぱ同然なのだ。
●少し話題は戻りますが、あなたは自分にまつわるイメージに頭を悩ませたりすることはなかったんですか。
「うーん……俺としては、イメージなんてものは真面目に受け取るもんじゃないって思うけどな」
●でも、人々がイメージを受け取ってしまうことには変わりはないわけでしょう?
「じゃあ、俺にどうしろってんだ」
●……。
「特に気にしないようにはしているな。そうじゃなきゃ、逆にそれを利用してみるだけだよ。といっても真面目にじゃなくて、まぁ面白半分でね」
●それでうまくいくんですか?
「まぁ……半々ってとこかな」
●じゃあ、実際に面白半分でやってみてうまくいくのは、具体的に言うとどういう時なんですか。
「あん?……まぁ、俺は冗談をわかって貰えないことが多いんだ」
これの最後あたりルー親父がインタビュアーを見切っている感じがありありなのだが、ワタシがインタビュアーだったら、「じゃあ、俺にどうしろってんだ」と面と向かって切り返された時点で失禁していると思う。
このインタビューは、インタビュアーとインタビューイの呼吸が合わず、どんどんグダグダになる典型で、インタビュアーの岩見さんがもがく様が痛々しい。
●それでは……。
「ちょっとこっちからも訊きたいことがあるんだけどね、いいかな?」
●はい、何でしょう?
「君は本当に俺のことが好きなのかな?」
●いや、ものすごく好きですよ。
「じゃあ、一番訊きたいことを訊いてくれないか」
あのサングラスの奥からギョロリと睨まれて詰問調――想像しただけで呼吸が止まる。
順番が反対になったが、このインタビューは Sire 移籍第一作にして久方ぶりのゴールドディスクとなった『New York』、ジョン・ケイルとのアンディ・ウォーホル追悼作『Songs For Drella』という二大傑作を受けての来日時のもので、15年ぶりの単独公演とジョン・ケイルとの『Songs For Drella』公演の両方が行われている。
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この後彼は単独では四度来日しライブを行っており、ワタシはそのうち三度に足を運んでいるが、全部観た人によると、この1990年のときが一番地味だったが一番凄かったらしい。
『New York』で二曲参加したとはいえ、80年代をほぼ主婦として過ごしていたモーリン・タッカーをドラムに据えるという暴挙が奇跡的に功を奏し、彼女の木魚ドラムとルーのノイズギターの絡みにヴェルヴェット・アンダーグラウンドのマジックが垣間見えたそうだ。1990年7月27日の NHK ホールでの一曲目 "Romeo Had Juliette" の後、「クソババアー!」という温かい野次が飛んだのは語り草になっている。
さて、血祭りインタビューに戻ろう。
●なるほど。それで……
「君、本当に俺が好きなんだろうな」
●……どうして、そればっかり訊くんですか。
「一応、冗談のつもりなんだ」
●ハハ……ヒャヒヒャヒ。
「やっと笑ってくれたな。俺の冗談はどうも人にわかって貰えないんだ」
●……(笑)。それで、『ニュー・ヨーク』であなたはアメリカの頽廃的な側面をかなり鋭く描き出しましたが、あれをやる時に無意識的にしろ意識的にしろ、現状を変えていきたいという使命感に近い気持はあったんでしょうか。それともただ、書かずにはいられないようなことだったんでしょうか。
「まぁ……俺はものごとを変えるためにものを書こうとは思わない。そういう風な気持では何も書いたことがないな。俺が自分が書くことで何かを変えられると思い込むほど思い上がっちゃいないよ。(中略)俺はただ書くだけなんだ。でも、明日にでも大統領には俺を選ぶべきだとは思うな。間違いなく」
●じゃあ、あなたにとって……。
「今のも冗談だったんだけどな」
●(笑)す、すいません。(以下略)
完全に遊ばれています。この前後の凍りついたやり取りに挟まれた「ヒャヒヒャヒ」という力ない笑いに絶望を感じる。それにしてもルー親父は性格がひね曲がってるな。最高だ。
さて、実は岩見吉朗はこのインタビューの前に既にルー・リードから手ひどい仕打ちを受けていたのである。というわけで次は同号のタッグ・ランダムというコーナーを引用させてもらう。
これは編集部員二人が適当なことをくっちゃべるコーナーなのだが、山崎洋一郎×岩見吉朗の回は特に笑えたのを覚えている。そして今回紹介するのもその爆裂コンビの回で、タイトルは「神様か? ネズミ男か? 催眠博士か? ルー・リード来日徹底検証」である。
山崎――お前、ルー・リードの来日パンフに原稿書くってイキまいてたろう。(中略)俺パンフ見たけど載ってなかったぞ、お前の文章。
岩見――そうですか(笑)
山崎――かっこ笑いでごまかすなよ。どうなったんだよ、デスクでふんぞり返って書いてたあの原稿は。
岩見――ルーはあの文章を自分の心の中だけに大切にしまって帰ったんですよ、きっと。
山崎――ボツか? ボツぅ?
岩見――……。
山崎――はぁ――、ボツか。いや、あははははボツ? 笑っちゃいかんなァ、すまんすまん、ボツぅ?
岩見――…………………………………………。
なんと来日パンフレットに寄稿した文章をボツにされていたのだ。
山崎――しかし誰がボツにしたの? シメ殺してやれよ。
岩見――本人なんだよぉ。
山崎――……ルー・リード本人にボツ! お前、そりゃ凄い事だよ。
一応補足しておくと、彼の原稿がボツになったのは、同時期大規模な世界ツアーを行っていたストーンズ、ザ・フー、デヴィッド・ボウイへの批判的な言及があったからだと思う。(岩見吉朗の代わりに寄稿した?)大鷹俊一も、同じく当時世界ツアーをしていたポール・マッカートニーへの皮肉っぽい言及をチェックされたと書いていた記憶がある。
そして話題は前述の血祭りインタビューに移る。
岩見――全く何様なんだァ、あのネズミ親父はよお! 取材が終わった後も俺をいじめやがって。
山崎――え? 何? 何? 何いぢめられたの?
岩見――「君はジャーナリストで生計立ててるの?」って聞くから、「イエス」って答えたら「ハアン」って鼻で笑ったんだあいつは。
山崎――鼻で。はあー、それはヒドイよね。で? 他には?
岩見――「君は大学行ったの? 行ってた! そう、ハアン。何を専攻したの? 法律? ハアン。弁護士になるの? なれなかった! ハアン。いくつなの? 25! ハアン」。何で25だと鼻で笑われるんだよ!
山崎――さあ。
岩見――その上『ニューヨーク』のジャケットにサインもらってくれって、通訳の山下えりかに頼んだのに、俺がいぢめられている間に忘れやがったんだよ。どうしてくれるんだよ、サインは。
そういえばこの後出た『Magic And Loss』で岩見吉朗はライナーを担当することでリターンマッチを果たしているが、その中でも「もう少し優しくしてくれてもよかったんじゃないか」みたいなことを書いていて苦笑いしたのを覚えている。
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実はこの文章を書いていて思い出したのだが、渋谷陽一もルー・リードにはひどい目にあっていた。これは彼がラジオ番組で喋っていたのを聞いた記憶で書いているので細部はかなり違っているだろうから以下の話をソースにしないでね。
1975年のルー・リード初来日時、渋谷陽一は彼にインタビューをしたが、どうも話がうまく噛み合わなかったそうだ。
インタビュー終了後、ルー・リードはそれを気にしているそぶりで、渋谷陽一に「このアルバム未だ日本では発売されてないんだけど、キミにあげるよ」と一枚のアルバムを差し出したそうだ。
見た目に似合わず優しい奴じゃんと喜んでそのアルバムを受け取り、戻ってから聴いてみたそのアルバムは……
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そう、『Metal Machine Music』だったのだ。
えーっとですね、知らない人に簡単に説明すると、レコード二枚に渡り全編ギターノイズのみというトンでもないアルバムである。アサマシしといて何だが純然たるゴミなので買わないでください。渋谷陽一もそのとき以来二度と聴いてないと言っていたが、それもそうだろうな。