"国家はなぜ衰退するのか"の作者コンビによる新作。"国家はなぜ衰退するのか"のほうはかなり前に読んで面白かったのと、日経で2024年の経済書のトップになっていたはずなので読んでみた。
内容的には技術革新による生産性向上は、分配されない限り単に不平等を拡大させるだけであるという話でそれ自体は納得できる。それはまさに今のGAFAMに向けられている。
しかし読んでいてずっと違和感があったのは「人の能力を拡大する技術」と「労働者を不要にする技術」が明確に異なり、選択可能であるかのような書き方になっていたことだ。
自分はこれは区別することはできないと考える。仮に人の能力を拡大する技術革新により生産性が上がったとしよう。それにより同じ労働者で生産量が増えたとして、それが売れるかどうかは別問題だ。
増えた分が売れるのであれば労働者を減らす必要はないし、売れないのであれば労働者を減らしたほうが良い。それは生産性向上の技術革新とは何の関係もない。同じ技術がその他の要因によって「人の能力を拡大する技術」にも「労働者を不要にする技術」にもなりうる。
労働者を増やす技術であるかというのも難しい。たとえばUBerは労働者を増やす技術なのか、減らす技術なのかと言われると立場によるだろう。本書は広告による無料化モデルに対して非常に厳しい見方をしているが、その無料化モデルによるツールで能力が拡大された人も多いだろう。
リコメンドによるエコーチェンバー批判も「正しい左派のエコーチェンバー」であるかの検閲と何が異なるのだろうか。
そもそも「フェイクニュース」や「ファクトチェック」という言い方に自分は以前から疑問を持っている。絶対的な「真実」を誰が規定できるのか。真実は思い込みの多数決としてしか存在しないと考えている。
だからといって自分は無制限に技術革新がいいとも思わないし、IT企業が制限を受けるべきでないとも思わない。しかし問題はむしろ特に株式会社による資本と経営の分離による資本主義の側にあり、IT企業はそれに従っているにすぎない。
経済学者が自己批判もなくIT企業に責任を押し付けることに対して、だからトランプが支持されるのだという気がする。