自分は自己啓発書に納得することはほとんどないのだが、この本についてはかなり納得感があった。
この本はコミュニケーションによる問題解決のための本である。しかしどのように問題を解決するかという本でもなければ、何が社会にとって望ましいかという本でも、人と話をすること自体が素晴らしいという本でもない。エンパシーでもアンガーマネージメントでもない。
本書による基本構造は人と人との対立である。曖昧な概念としての集団ではなく、その場にいる2人の意見の対立である。この場合普通はどちらも怒っているか悲しんでいる。
本書の一番の面白い部分は、社会的な正しさというものを否定することである。そのかわりに、全ての問題の原因は私の欲求が満たされないことであるという前提に基づく。全員が自分本位であり、それを全員が満たすことができれば、結果的に社会的に望ましい状態になっているという考え方である。
人は世界を観察し、その結果自分の欲求が満たされないときに負の感情を覚える。その原因は相手にあると考えるので相手に要求する。それ自体は別に間違ってはいない。しかし相手への要求の前に、自身が何を認識し、その結果何の欲求が満たされなかったので、どういう感情になったかを相手に伝えるべきであるというのが本書の主張である。
実際のところこれ自体は何も解決していない。しかしながらこれを伝えることで前提の共有ができる。認識に間違いがあるのかもしれないし、欲求を満たすには別の方法があるかもしれない。そして重要なのは、自身に対する要求そのものには同意できなくても、相手が満たしたい欲求そのものには同意できる場合がある。これを相手に伝えることが共感である。
ポイントは多くの場合に要求が相手に受け入れられなくても、共感されるだけで要求のレベルが下がる場合があるということである。共感そのものが欲求であることも多い。この場合は共感された時点で問題が解決する。
たしかに自身が怒りを感じているときに、自分の欲求は何であるかというのは考えたことがなかった。相手に対する要求ではなく、自分自身の欲求であるというのがポイントである。アンガーマネージメントの場合は怒りそのものが悪であるという考えであるが、それとは明確に異なる。
本書で推奨されている、自身の認識、感情、欲求、要求を全て伝える話し方は非常に回りくどい。常にこのような話し方をしていたら、回りくどい話し方自体が相手をイライラさせる可能性もある。
しかしセンシティブな話題を話す時というのは、誤解が生じないように過剰に丁寧な話し方をすることは珍しいことではない。意識することで互いの欲求を満たすことと関係のない問題で対立する無駄を思えば、やってみる価値はあると感じた。