27日には屋久島に飛び、屋久町野生動物保護管理ミーティングに出た。主としてシカ対策を議題とする屋久島町主催の連絡会議である。屋久島町・環境省・森林管理署・鹿児島県・屋久島生物多様性保全協議会などから、平成21年度の取り組みの報告と22年度の対策の計画についての説明を受け、意見交換を行った。21年度の捕獲実績として、屋久島町から325頭という報告があった。林野庁(森林管理署・森林保全センター)では、くくりわなを使って、栗生で約20頭、宮之浦で1頭を捕獲したという報告があった。
屋久島生物部のKさんから、2006年以後4年間、西部林道でのライトセンサス目撃数は増えていないという結果の報告があった。ただし、ある区間で、過去最高の目撃数が記録されたそうだ。一方、小瀬田林道では、2006年から2009年まで目撃数が増え続けている。小瀬田町営牧場では、2007年から2008年にかけて顕著に増加し、西部林道とほぼ同じレベルに達したが、2009年は2008年と同水準だった。町営牧場周辺から小瀬田林道への分散があるのかもしれない。
環境省から、小瀬田周辺でGPSテレメトリーにより2頭のシカの行動を追跡した結果についての報告があった。2頭のうち1頭は、愛子岳登山口周辺の林道沿いを集中的に利用していた。あと1頭は、町営牧場の山側(南西側の斜面)を利用していた。高密度に達している町営牧場からの移動・分散の状況を知るには、町営牧場を利用している個体についてのGPSテレメトリー調査がほしいところだ。
環境省から、小瀬田〜愛子岳にかけての屋久島東部地域で重点的にモデル事業を実施するという計画(仮称:愛子プロジェクト)の提案があった。この地域は、町でも牧場を利用した捕獲に乗り出しており、詳しい糞粒調査結果もある。個体数は西部よりは少ないはずなので、300頭程度の捕獲で個体数増加を抑制できる可能性がある。アクセスも良いので、モデル事業を展開するには最適の場所だ。
シカの個体数に関しては、全島30地点での糞粒調査の結果から、14000頭程度(12000〜16000頭)と推定されている。もっとも高密度な西部林道の場合、全島の4分の1がいるとすると、3500頭。年2割増加すると仮定すると、毎年700頭増える。つまりこの程度の個体数を捕獲できる体制で対策をとらなければ、現状を変える効果は期待できない。
一方、小瀬田〜愛子岳にかけての流域なら、おそらく300頭水準の捕獲で個体数増加を抑制できるだろう。関係各機関がこの流域のモデル事業に努力を集中し、連携プレーで確実な初期成果をあげることが望まれる。研究者サイドでは、捕獲実績にもとづく個体数推定、捕獲の効果の検証に関して、支援体制をすみやかに確立する必要がある。6月開催予定の次回のミーティングに向けて、世界遺産科学委員会メンバーとも連絡をとり、支援体制の確立をはかりたい。
28日午前中には、屋久島生物多様性保全協議会「森・川・海部会」第一回会合に出席した。越境大気汚染物質の飛来状況、その森林への影響、水・物質循環、河川と沿岸域の生物のモニタリングに関係している研究者・島民が集まり、まずは情報交換を行った。「まだ、森・川・海がうまくつながっていない」とい指摘があったが、屋久島という共通のフィールドで、互いに情報を提供しあいながら、森・川・海の調査を進めることは、大きな意義があると思う。森・川・海が互いにつながっていることは確かなのだ。将来的にはどのような時間・空間スケールでモデル化するかが大きな課題だが、まずは関係者が知識を共有し、会話をできるようになることが先決だろう。島民による沿岸域のモニタリングがこの部会の重要な活動なので、沿岸域を専門とする研究者の支援体制をさらに強化する必要がある。協力していただける方を探したい。
28日午後には、尾の間にある竜神の滝を訪問した。有名な千尋の滝の下流にある滝だ。以前は近づくのが困難だったが、5年ほど前にすぐ近くを通る農道が開通したため、アクセスが容易になった。農道の橋からみると、滝つぼに降りれそうに思えたので、左岸側からまわりこんで降りてみた。
急斜面から見下ろした滝つぼ

竜神の滝

滝の下から見上げた農道の橋

目的は、千尋の滝の下流で、古い標本が残されているだけのスゲ属の一種である。滝つぼには、無事降りることができた。ルートさえ選べば、さほど難しくない。滝に下る急斜面には、常緑性のニシキギ属リュウキュウマユミが点在していた。屋久島ではこの一帯にだけ生育している。滝の岩壁面には、スゲがたくさん生えていたが、花穂がなく、アキザキバケイスゲだと思われる。目的のスゲは発見できなかった。
そこで、左岸沿いに滝を迂回し、滝の上をめざした。滝の上流側の左岸は、垂直の岩壁がけわしい。川面を5mほど下に見下ろせる場所まで下降したが、それ以上は私の技術では無理だった。
岩壁上には、ヤクシマヤマツツジが多い。

ヤマツツジよりもおしべの数が多い。系統的にはケラマツツジと姉妹関係にある屋久島固有種である。

草つきには、他の絶滅危惧種も見られた(名前はふせる)。かなり怖い思いをしながら、写真を撮った。残念ながら、滝の上の岩壁でも、目的のスゲは発見できなかった。
夜にはさすがに筋肉痛を感じた。しかし、ささやかなトレーニングとストレッチを続けているおかげで、フィールドで足がつったりすることはなかった。屋久島で道なき道を歩くには、腰をかがめたり、足を伸ばしたりすることが避けられない。毎日ストレッチをしていなければ、私の年齢ではきっと筋肉を痛めてしまうだろう。これからも、いつでも屋久島の山を歩けるように、ストレッチを続けよう。