※noteにも全く同じ記事を投稿しています。
SNSの方では告知済ですが、今月28日に扶桑社より刊行の新書『陰謀論と排外主義 分断社会を読み解く7つの視点』に原稿を書かせていただきました。
共著者は藤倉善郎さん、黒猫ドラネコさん、古谷経衡さん、清義明さん、選挙ウォッチャーちだいさん、菅野完さんという超豪華な面々です。タイトル通り「陰謀論と排外主義」というテーマについて、それぞれの専門分野からの知見が一同に介している、読み物としても面白い本になっています。
自分みたいないちネットユーザーの文章がこの中に入っていて大丈夫なのかという気持ちは正直な所まだありますが、なるべく他の原稿にも見劣りしないようなものを頑張って書いたので是非お求めいただきたく、出来れば予約をお願いしたく思います。
「すごい一体感を感じる」の今
筆者の担当分では、「陰謀論者」というマーケットから参政党のような強力な組織がどのように生じるのかについて、マーケティングや社会心理学の理論を参照しながら論じています。
詳しくは書籍をお買い求めのうえお読みいただきたく思いますが、拙稿において中心となっている「一体感」というキーワードについて、書籍には書ききれなかったエピソードをここで紹介したいと思います。
去年の兵庫県知事選挙のあと、筆者のタイムラインに懐かしいアスキーアートが流れてくるようになりました。

陰謀論に嵌った人たちの高揚や熱狂を的確に表現したフレーズとして再評価されつつあるAAですが、いつ、どのように生まれたものなのかご存じない方も多いのではないでしょうか。
このAAは今から17年前の2008年7月2日に2ちゃんねる(当時)のニュース速報+板に投稿されたレスを改変したものです。当時、毎日新聞社による英字新聞「毎日デイリーニューズ」内のコラム「WaiWai」に、日本の文化や慣習に著しい誤解を与えるような卑猥な内容の記事(実話誌からの転載)が大量に掲載されていることが発覚し、2ちゃんねるを発端に大炎上が巻き起こっていました。
問題の発覚から対処まで1ヶ月近くもかかったことで炎上は際限無く拡大し、公表された声明で名誉毀損行為への法的措置を警告したことに2ちゃんねらーが逆上、在特会などのヘイト系団体が関わり、当時の言葉で言えば「祭り」になっていました。
7月1日には在特会が毎日新聞本社への街宣を予告、さらに人権擁護法案反対運動でこれらの団体と連携していたハンドルネーム「ROM人」が毎日新聞を「日本人全員に対する名誉毀損」で提訴すると宣言したことも話題になりました。
そんな最中にニュース速+板に書き込まれたのが「すごい一体感を感じる」の元となったレスでした。元々カバオくんのAAとは別々の書き込みで、元ネタでは「日本国民はこんなに怒ってるんだぞ!!」でした。最近も色んなところで聞くフレーズです。

このレスが、祭りをどちらかといえば冷めた目で見ていた「ニュース速報板」(名前が似ていますが別の板)に晒され、その後「ガイドライン板」(コピペの改変などで盛り上がる文化のある板)でおもちゃにされ、後世まで残る書き込みになったのです。

(これが一番好き)
とはいえ、当時の祭りの勢いは凄まじいものがあり、宣言の3日後に「ROM人」が実際に神戸簡裁に訴状を提出(後に地裁へ移管)したことで頂点に達しました。訴訟費用のカンパも集まり(100万円とも)、第一回公判には45席のキャパシティに40人の傍聴者が詰めかけました。
ところが、公判の直後、原告の「ROM人」は2ちゃんねる上で自身の元交際相手への誹謗中傷を始めてしまいます。実は、この人物は過去に裁判所からストーカーの認定を受け接近禁止命令が下されていた人物でした。この時の相手方代理人が人権擁護委員を務めていたことから、接近禁止命令は左翼勢力による攻撃だとする陰謀論に傾倒し、人権擁護法案反対運動を始めた経緯があったのです。
支援者による注意や説得にも「ROM人」は聞く耳を持たず、こうした過去の経歴も徐々に周知されてゆき、第2回公判までの間に支援者は激減しました。結局裁判は2回で結審し、原告の全面敗訴で終了、その後「祭り」も終息に向かい、この出来事は黒歴史のように扱われました。
「ROM人」はその後2ちゃんねるを刑事告訴したり集まったカンパの行方で紛糾したり自殺予告をしたりなど様々な騒動を起こし、2ちゃん上では完全に「触れてはいけない人」として扱われるようになって、やがて忘れ去られました。ところがその後、思わぬ形で再浮上することになります。
2024年、失職した斎藤元彦候補の応援を熱心に行っていた「たか」という人物の経歴が「ROM人」と酷似していると一部で指摘されるようになります。「たか」は社労士資格を持っていますが、公表している事務所名を調べると毎日新聞訴訟の訴状に記載されていたものと住所氏名が同一の人物が登録されていました(後に本人も同一であることを半ば認める発言をしています)。
「たか」は7月頃より斎藤支持の言説を投稿するようになり、同様に9月頃から斎藤擁護の論を張る徳永信一弁護士(在特会や統一教会の訴訟代理人を担当)やNHK党の浜田聡参院議員(当時)と連絡をとるようになります。その後、斎藤は失職を選択、知事選にNHK党の立花孝志代表が立候補し「二馬力選挙」が展開されたのはご存知のとおりです。
斎藤の失職直後に現地で応援を行っていた数人の支援者が「チームさいとう」というLINEアカウントを開設、斎藤陣営の選挙ボランティアの中心となりました。「たか」はチームさいとうの立ち上げにも関与しており、スタッフの一人として動いていました。
つまり、「すごい一体感」の元となった毎日新聞騒動と兵庫県知事選挙には、同一人物が中心に関わったという点で直接的な繋がりがあったのです。かつては失敗した「祭り」の象徴とみなされていたフレーズが、16年の時を経てリベンジを果たしたとも言えそうです。
ちなみに、「たか」はその後「チームさいとう」中心メンバーと何らかのトラブルがあったらしく、現在は関係が切れてしまったようです。時代や世の中が変わっても人はなかなか変わらないということなのでしょうか。
ところで、17年前の「すごい一体感を感じる」の投稿者と同一のIDで、同日に行われた在特会の毎日新聞本社前の街宣に以下のようなレスが書き込まれていました。
さらに、コピペでは「工作員に流されるな」と呼びかけていたIDからは、以下のようなレスも書き込まれていました。
さらに、もう一つの元ネタであるカバオくんの魂の叫びですが、実はこのIDが書き込むおよそ20時間前に別のIDが全く同じ書き込みを行っていました。

2ちゃんねるのIDはIPアドレスと日付を主要なパラメータとしており、おおよそ24時間毎にリセットされるほか、匿名性を向上させるため意図的にある程度重複が生じるようになっています。なので、偶然の一致と片付けることも可能な一方、同一人物が複数の回線から書き込んでいるという仮説も立てられます。
個人的には元の書き込み主は複数の立場を演じて参加者を焚きつけようとしていたのではないかという気がしていますが、17年前の匿名掲示板の書き込みなので、真相が明らかになる日が来ることはないでしょう。
重ね重ね恐縮ですが、書籍のご予約・購入を何卒お願い申し上げます。

