
最近、教育の世界でよく聞く「非認知能力」とは何でしょうか。
学校教育でも「主体的に学習に取り組む態度」という評価の形で重視されるようになり、関心を持つ保護者も増えています。
非認知能力とは、テストの点数では測りにくい
- 粘り強さ
- 主体性
- 協調性
- 好奇心
などの力のことを指します。
これらは、いわゆる「学校のテスト」の結果には直接表れにくい力です。
この記事では、非認知能力とは何か、なぜ教育で注目されているのかを元教師の視点から解説します。
- 非認知能力とは何か
- なぜ今、非認知能力が注目されているのか
- 非認知能力を評価することへの違和感と「数値化」の流れ
- すべての非認知能力を伸ばす必要はない
- 非認知能力の先にある「自分で決める力」
- 家庭で非認知能力は育てられるのか
- 環境を整えて「自分で決める力」を育む
非認知能力とは何か
非認知能力とは、一言で言えば「認知テスト(ペーパーテスト)では直接測れない、社会情動的なスキル」のことです。
学校で評価される国語や算数などの知識・思考力は「認知能力」と呼ばれます。対して、その土台となる意欲や姿勢が「非認知能力」です。
認知能力と非認知能力の違い
よく「非認知能力は数値化できない」と思われがちですが、現代の研究ではアンケートや行動観察などの心理尺度によって、科学的に客観化・測定することが可能になっているそうです。
| 区分 | 認知能力 | 非認知能力 |
|---|---|---|
| 内容 | ・知識や計算 ・論理的思考 |
・意欲、自制心 ・やり抜く力 |
| 測定 | ペーパーテスト IQテスト |
心理アンケート 行動観察 |
| 例 | 読み書き 計算、理社 |
粘り強さ 好奇心、協調性 |
※OECD(経済協力開発機構)では、これらを「社会情動的スキル」と呼び、人生の質を高める重要な要素として整理しています。
なぜ今、非認知能力が注目されているのか
この概念が広く知られるようになった背景には、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者 ジェームズ・ヘックマンの研究があります。
ヘックマンは、幼児教育に関する長期研究(ペリー就学前プロジェクトなど)を分析し、 子どもたちを数十年にわたって追跡したデータから、次のようなことを示しました。
- 学力(認知能力)だけでは、人生の成果を十分に説明できない
- 幼少期の環境が、将来の学歴・収入・健康などに長期的な影響を与える
- 粘り強さや自己コントロールなどの非認知能力は、環境や教育の影響を受けて育まれる可能性がある
つまり、子どもの成長には「生まれつきの能力」だけではなく、 どのような環境の中で育つかが大きく関わると考えられています。
こうした研究を背景に、近年は学力だけでなく、 子どもの主体性や粘り強さといった非認知能力にも 世界的に関心が集まるようになりました。
参考:ジェームズ・ヘックマン『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社)
非認知能力を評価することへの違和感と「数値化」の流れ
非認知能力を「評価すること」への違和感
ここからは、元教師としての個人的な感覚です。
非認知能力が大切だという考え方には、私も共感しています。
ただ、それを評価の対象にすることには少し違和感があります。
主体性や粘り強さといった力は、本来、点数で測るものではないと感じるからです。
子どもの姿勢や行動は、
- 性格
- 環境
- そのときの気持ち
など、さまざまな要素の影響を受けます。
そうしたものを、学力テストのように客観的な数値で評価することには、やはり難しさがあると思うのです。
学校では「主体的に学習に取り組む態度」が評価されている
以前こちらの記事でも書きましたが、学校教育では「主体的に学習に取り組む態度」という観点を通して、こうした力を評価に生かしていこうという流れがあります。
導入された当初、現場では戸惑いも少なくありませんでした。
教師自身も「非認知能力とは何か」「それをどのように見取ればよいのか」を十分に理解できないまま、評価を求められる場面があったからです。
そのため、現場では少なからず混乱があったことを、今でもよく覚えています。
ICTで「学習過程の可視化」が進み、評価の根拠となりうるのか?
最近は、ICT(一人一台端末)の活用によって、学習の過程をデータとして記録し、こうした力を客観的に捉えようとする動きもあります。
文部科学省も、GIGAスクール構想の中で、学習履歴(スタディ・ログ)などの教育データを活用し、学習の過程を記録・分析していく方針を示しています。こうした取り組みは、子どもの学びをより深く理解するための「学習過程の可視化」とも言われています。
参考:文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」資料、GIGAスクール構想
例えば次のような学習データです。
- 学習アプリでの試行錯誤の回数
- デジタルポートフォリオ(学習の足跡)の蓄積
- グループワークでの発言や貢献のログ
本やノートでの学びも「数値化」されて評価対象になるのか?
ただ、ここで一つ疑問もあります。
子どもたちの学びは、すべてがICTの中で行われているわけではありません。
本を読んで考えたこと。
ノートに書きながら理解したこと。
友達との会話の中で気づいたこと。
こうしたアナログな学びも、実はたくさんあります。
では、本やノートで学んだことは、どうやって記録されるのでしょうか。
子どもの学びをすべてデータとして残すことは、おそらく不可能です。
だからこそ、データはあくまで学びの一部を示すものにすぎないのではないかとも感じています。
非認知能力は「環境の中で育つ力」で子どもの評価に適するのか?
非認知能力は、努力して伸ばす「スキル」というよりも、日々の経験の中で自然に育っていくものなのではないでしょうか。
子どもが自分で考えたり、挑戦したり、失敗したりする中で、少しずつ身についていく力です。
そして、その環境をつくるのは子ども自身ではなく、周りの大人です。
そう考えると、本当に問われるべきなのは子どもの能力よりも、大人がどんな環境を用意しているかなのかもしれません。
すべての非認知能力を伸ばす必要はない

最近は「非認知能力を伸ばしましょう」という言葉をよく見かけます。
確かに、主体性や粘り強さ、協調性などは大切な力です。
ただ、私はすべての非認知能力を同じように伸ばす必要はないのではないかと思っています。
子どもにはそれぞれ特性があります。
- 人と話すのが得意な子
- 一人で集中するのが得意な子
- 作ることが好きな子
- 調べることが好きな子
例えば、挨拶やコミュニケーション能力は高いに越したことはありません。
でも、苦手な子だっている。
すべてを同じ方向に伸ばそうとすると、かえってその子の個性をゆがめてしまうこともあるのではないでしょうか。
むしろ大切なのは、その子が持っている良さに気づくことだと思います。
子どもは、得意なことや好きなことの中でこそ、自然と粘り強さや主体性を発揮していきます。
非認知能力は「トレーニングして身につけるスキル」というよりも、環境の中で自然と育っていくものなのかもしれません。
非認知能力の先にある「自分で決める力」
日々の経験の中で自然に育っていく非認知能力。
その環境をつくるのは子ども自身ではなく、周りの大人です。
子どもは、中学生くらいまではまだまだ分からないことだらけです。
しかし、その内側にはその子の才能がたくさんつまっています。
少し話を聞いたり、
一緒に考えたりする。
そんな伴走のような関わりの中で、子どもの良さが少しずつ引き出されていくのではないでしょうか。
とはいえ、すべての家庭が同じようにできるわけではありません。
できる範囲で子どもを見守りながら、
横に並んで歩く。
そのくらいの距離感でも、子どもは少しずつ
自分で考え、自分で決める
方向に進んでいくのではないかと思っています。
非認知能力という言葉が広がる中で、「どうやって伸ばすか」に目が向きがちです。
でも、もしかすると大切なのは、子どもが自分で選び、進んでいける環境を整えることなのかもしれません。
その積み重ねの先に、自分で決める力が育っていくのではないかと思っています。
家庭で非認知能力は育てられるのか

非認知能力は、特別なトレーニングによって身につくというよりも、 日々の経験の中で少しずつ育っていくものだと考えられています。
例えば
- 自分で選ぶ経験
- 挑戦して失敗する経験
- 好きなことに集中する時間
こうした経験の積み重ねの中で、主体性や粘り強さは自然と育っていきます。
大人ができることは、そうした経験が生まれる環境を整えることなのかもしれません。
非認知能力は「トレーニングして身につけるスキル」というよりも、環境の中で自然と育っていくものなのかもしれません。
例えば、子どもがまだ小さいうちは、遊びの中で試行錯誤する経験が大切だと言われます。
少し成長してくると、日常とは違う体験の中で新しい気づきを得ることもあります。
わが家では、そうした経験の一つとして「旅育」という考え方も大切にしています。
旅先では、子どもが自分で考えたり、初めてのことに挑戦したりする機会が自然と生まれます。 そうした体験は、好奇心や主体性といった非認知能力にもつながっていくのではないかと感じています。
旅育とはどのような考え方なのか、また家庭でどのように取り入れられるのかについては、こちらの記事で詳しくまとめています。
また、日常の中で子どもの好奇心を広げるきっかけとして、図鑑や体験型のおもちゃなどをプレゼントすることもあります。
こちらでは、主に0歳〜10歳ごろの子どもを対象に、好奇心や探究心を刺激するプレゼントを紹介しています。
環境を整えて「自分で決める力」を育む
非認知能力という言葉が広がり、教育の世界でも大きな関心を集めるようになりました。
粘り強さや主体性、協調性などは確かに大切な力です。 ただ、それを評価したり、すべてを同じように伸ばそうとすることには、少し慎重でいたいとも感じています。
また、教育では認知能力(読み書き・計算など)を伸ばすことも、やはり大切です。
家庭での学習の中で、ドリルや教材を使いながら基礎的な力を積み重ねていくことも、子どもの学びを支える大事な要素だと思います。
わが家で実際に使ってきた家庭学習の教材については、こちらのカテゴリでもまとめています。
子どもにはそれぞれの特性があり、得意なことや好きなことの中でこそ、自然と力が伸びていきます。
大人にできることは、その芽が育つ環境を整えること。
そして、ときどき横に並んで一緒に考えることです。
その積み重ねの先に、自分で考え、自分で決める力が育っていくのではないかと思っています。