放物線 [ 注釈 1] (ほうぶつせん、希 :παραβολή「parabolē 」、羅 、英 : parabola 、独 : Parabel )には、次のように物理的な意味と数学的意味がある。
(1)(物理的な意味)その名の通り、物を投げ放った際に物が描く軌跡のことである。[ 注釈 2]
(2)(数学的な意味)円錐曲線 の一つで、定直線の頂点から準線までの等距離の状態で、頂点を曲線で結ぶ点の集合。古代ギリシア時代から数学者が研究している曲線。(#数学史 で解説) グラフとしては、二次曲線で、頂点を目指して上昇し、その後下降するような曲線。
数学的円錐曲線は古代ギリシアから研究され、物理的な放物線の本格的な研究ははるか後の時代に始まる。この2つの概念はもともと別のものとして扱われていたが、不思議なことに、数学的な円錐曲線が、物理的な放物線とほぼ一致するということに人類は17世紀から18世紀ころに気づいてゆくことになった[ 注釈 3] 。
物理学的な定義
物理的な放物線
初速 v , 角度 θ で初期の高さ y 0 から投げ出した物体の描く曲線
質量 m の物体を斜めに投射するとき、投げ出されたあとの物体に掛かる力は、空気抵抗の存在しない理想的な状況下では下向きに掛かる重力 mg のみ(g は重力加速度)である。したがって、運動方程式 F = ma から、物体の加速度は
a
=
d
2
r
d
t
2
=
d
2
d
t
2
[
x
y
]
=
[
0
−
g
]
{\displaystyle {\boldsymbol {a}}={\frac {d^{2}{\boldsymbol {r}}}{dt^{2}}}={\frac {d^{2}}{dt^{2}}}{\begin{bmatrix}x\\y\end{bmatrix}}={\begin{bmatrix}0\\-g\end{bmatrix}}}
円錐 を切断した際の曲線の分類
パラボラは、古代ギリシアの数学者 アポロニウス (Apollonius of Perga) の著作『円錐曲線論(Conics)』(紀元前3世紀ごろの著作)においてパラボレという語で登場する。アポロニウスは、円錐をいろいろな角度で切断して得られる曲線を研究し、次の3つに分類した。
エリプシス(ἔλλειψις)- "足りない"、という意味。現代で言う楕円 を指してそう呼んだ。
パラボレ (παραβολή)- "等しい"、という意味。現代でいうパラボラ(放物線)を指してそう呼んだ。
ヒュペルボレ(ὑπερβολή)- "超過している"、という意味。現代でいう双曲線を指してそう呼んだ。
アポロニウスがなぜこのような3分類をしたかについて理解するには、さらに数学史をさかのぼる必要がある。 古代ギリシアの『円錐曲線論』以前の 幾何学(例えば ユークリッド の『原論 』)では、「面積をある線分に“応用”する」という操作が定義されていた。つまり、ある線分を底辺にして、与えられた面積を作る矩形を“当てはめる”という操作が定義されていた[ 1] 。たとえば、線分 × 線分 = 面積”という枠組みに対して次のように分類していた。
もし与えられた面積をちょうど当てはめることができれば → パラボレ(παραβολή)「ちょうど」
もし与えられた面積を「底辺」に当てはめようとしたとき、矩形が不足したら(つまり底辺に対して面積が足りないなら) → エレプシス(ἔλλειψις)「欠如・足りない」
逆に 底辺に対して当てはめる矩形が大きすぎて余るなら → ヒュペルボレ(ὑπερβολή)「超過」
このように3分類していた。 そのような分類習慣があったので、円錐の曲線を分類する際にも、アポロニウスは同じ分類法(言葉づかい)を応用し[ 注釈 4] 、エリプシス、パラボレ、ヒュペルボレという3語を使い、次のように分類したのである。
切断平面の角度が「円錐の母線(generatrix)=側面線」と等しい =「平行」している場合 → 曲線は “ちょうど当てはまる” 性質をもつ → パラボレ ἡ παραβολή [ 注釈 5]
切断平面の角度が母線よりも小さい(=側面に比べてゆるい角度)=「当てはめが不足している」状態 → エリプシス ἡ ἔλλειψις(楕円)
切断平面の角度が母線よりも大きい(急である)=「当てはめが超過している」状態 → ヒュペルボレ ὑπερβολή(双曲線)
円錐曲線
円錐面の平面 π による断面(赤い面の縁)が、準線 L と焦点 F をもつ放物線を描くことが確認できる
現代ではとりあえずは次のように説明する。
「円錐面 を母線に平行な平面で切ると 、切断面は放物線になる」(円錐曲線 )
現代の数学的定義
放物線は、円錐曲線 の一つである。数学的な定義としてよく知られたものはいくつかの方法があるが、いずれも適当な枠組みで互いに他を導出することができる等価なものである。
軌跡
準線 L と焦点 F
平面幾何学 において放物線 (ほうぶつせん、parabola)とは、準線 (directrix) と呼ばれる直線 L と、その上にない焦点 (focus) と呼ばれる一点 F が与えられるとき、準線 L と焦点 F とをともに含む唯一つの平面 π 上の点 P であって、P から焦点 F への距離 PF と等しい距離 PQ を持つような準線 L 上の点 Q が存在するようなものの軌跡として定義される平面曲線 である。
一般形
放物線上の点を P(x , y )、焦点を F(p , q )、準線の式を ax + by + c = 0 とすると、PQ = PF より、放物線の方程式は、
|
a
x
+
b
y
+
c
|
a
2
+
b
2
=
(
x
−
p
)
2
+
(
y
−
q
)
2
{\displaystyle {\frac {|ax+by+c|}{\sqrt {a^{2}+b^{2}}}}={\sqrt {(x-p)^{2}+(y-q)^{2}}}}
y = x 2 と x = y 2 (y > 0)
放物線
放物線は二次曲線 の一種で、離心率 は 1 である。
焦点が (0, c )、準線が y = −c のとき、放物線の式 x 2 = 4cy となる。
焦点が (c , 0)、準線が x = −c のとき、放物線の式は y 2 = 4cx となる。
二次関数 y = ax 2 + bx + c (a は 0 ではない)が描くグラフ は放物線になる。
作図
準線 l と焦点 F の定める放物線の作図法
焦点と準線による定義から実際に放物線を糸や三角定規 などを用いて作図することができる。
放物線の焦点 F と準線 l をとる
三角定規の直角を挟む一辺の長さ |AB | に合わせた糸を用意する(右図参照)
糸の両端を点 A と焦点 F に固定する
三角定規の直角を挟む残りの一辺が準線に沿ってを滑るにようにする(たとえば準線に定規をおいて合わせる)
鉛筆で糸を辺 AB 上の点 P に押し当て、糸を張る
三角定規を準線に沿って滑らすと、鉛筆は放物線を描く(軌跡は |PF | = |PB | ゆえ放物線になる)
性質・例示
正射影と焦点
準線(緑)と焦点(青丸)は同じ長さの線(青)を半径と思うと、放物線上の点を中心とする同じ円(水色の破線)の上にある。放物線に無限遠から来る、準線への直交射影となる光線は、放物線と直交する直線(赤)を軸として対称に反射して焦点を結ぶ。
焦点から準線に引いた垂線は、この放物線の唯一の対称軸になる。放物線とその対称軸との交点を、この放物線の頂点 と呼ぶ。放物線をその対称軸の周りに回転させてできる曲面 を回転放物面 、または単に放物面 (paraboloid) と呼ぶ。
放物面鏡による平行光線の反射。
包絡線
準線上の点から放物線に引いた二本の接線
直線LとL上にない1点Fを固定し、L上に任意の点Pをとると、 直線PFと直線Lのなす角の2等分線は、直線Lを準線、点Fを焦点とする放物線の包絡線 となる。
これを利用して、紙の折り跡から放物線を浮かび上がらせることができる[ 2] 。
ナイルズの放物線
微積分
原点での曲率円
二次近似
ある曲線 γ が(γ 上の)ある点 P において C2 -級 ならば、γ は P の十分近くである放物線(の一部)にほぼ一致する。γ が必ずしも一定の平面上にある曲線ではないとしても、P において C2 -級という条件から、P の十分近くであれば一定の平面上にほぼ乗っていると考えられる。別な言い方をすれば、任意の C 2 -級曲線は各点で放物線と二次の接触を持つ。
これは、C1 -級曲線が各点の近傍で接線 と呼ばれる直線(線分)で近似されることの類似である。
シンプソンの近似
関数のグラフを放物線によって近似し、その関数の積分を計算する数値積分法にシンプソンの方法 がある。このときの近似誤差はテイラーの式 の3次の剰余項を適当に評価することで測れる。被積分関数が3次までの多項式関数ならば、シンプソンの公式による数値積分は誤差無しに積分値を得ることができる。
混同されやすいが全く別の曲線
カテナリー曲線 (緑線)と放物線(赤線)の比較
カテナリー曲線 (懸垂線)は、見た目が放物線と似ていて混同されることがあるが、全く別物である。共通した性質として、
唯一の極小な頂点 を持つ
下に凸な滑らかな曲線
頂点を通る直線を対称の軸として線対称
があり、両者は頂点付近の十分近くで微視的にはほぼ一致するが、巨視的にはかけ離れた形状を示す。
現実世界のさまざまな放物線
噴水の水の軌跡
花火の火の軌跡
エッフェル塔の下部アーチ
放物面
回転放物面
放物線をその対称軸 を中心として回転させた曲面 を放物面 という。
パラボラアンテナ
パラボラアンテナ の形も放物線の回転により得られる放物面である(パラボラ Parabola[英]=放物線)。放物面の形をした反射板は平行な光線(あるいは電波、その他の放射線)を焦点に集めるので、アンテナや太陽炉 に使う凹面鏡 の形として利用される。発信の際にも、焦点に置いた点源の球面波 から平行な放射を得るために利用される。
参考文献
『曲線の事典 性質・歴史・作図法』 礒田正美、Maria G. Bartolini Bussi編、田端毅、讃岐勝、礒田正美著:共立出版、2009年 ISBN 9784320019072
脚注
注釈
^ 1956年までは拋物線・抛物線と書いた。当用漢字 制定以前は「拋物線 又は抛物線(抛は拋の異体字)」の表記が多かったが、「拋・抛」が当用漢字表外であった為、1956年 (昭和31年)に国語審議会が発表した指針「同音の漢字による書きかえ 」により現在では「放」が一般に使用されている。指針が発表され教科書で放物線と表記するようになってからすでに70年以上たち、拋物線・抛物線と書く人はほとんどいない。
^ 斜め上に投げた場合の軌跡だけでなく、水平方向に投げた場合の軌跡も放物線に入る。汎化すると、自由落下させた際の軌跡も放物線の一種と理解できる。
^ 17世紀にケンブリッジ大学で教鞭をとり初代ルーカス教授となったアイザック・バロー は「物理的な世界は、数学的原理 で動いている」という信念を持っていた(当時、まだ誰もその信念が正しいと証明できていなかったので、ほぼ宗教的信仰 のような信念だった。だが当時、ケンブリッジ大学には何名か同様の信念を持つ教授がおり、互いに交流し、その信念を共有していたという)。バローの弟子となったアイザック・ニュートン は、数学的能力が突出した学生であり(微分法も構築)、恩師バローの「物理的な世界は、数学的原理 で動いている」という信念(考え方)を受け継ぎ、物体の運動に数学的原理をあてはめて解明してゆき、苦闘の末、ついに先生から受け継いだ信念をそのままタイトルに掲げた『自然哲学の数学的諸原理 』(Principia Mathematica プリンキア・マテマティカ "数学的原理")を著し、古典力学 を確立し、近代科学の基礎を築き、現代の自然科学者からも尊敬される人物となっている。
^ 援用した、類推で同じ語を使った、とも言える。
^ 古典ギリシア語の「ἡ」(ヘーもしくはイ)は英語の定冠詞「the」に相当する。ただし古典ギリシア語の定冠詞は、名詞の性・数・格に応じて変化し、英語の定冠詞よりややこしい。
出典
^ “[britannica.com/science/mathematics/Apollonius Apollonius]”. 2025年10月10日閲覧。
^ 折り紙による2次曲線
関連項目
外部リンク
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