Knight.
中世の西欧諸国で発展した騎兵の一形態。
戦術的な分類としては重騎兵に類するが、馬上試合や儀礼的決闘を行う事に特化され、見栄えよく取り繕われていた。
戦場では騎士同士が各々名乗りを上げて「公正に」戦い、勝者は敗者の身柄と引き替えに身代金や利権・領土を得るものとされる。
非道な扱いを受けないよう、また身代金の支払いが滞らないよう互いに礼儀が求められ、捕虜となった騎士は愛馬共々大切に扱われた、という。
中世後期、経済発展と共に高度で大規模な戦争が生じると共に、騎士は歴史の表舞台から退場を余儀なくされた。
生き残った騎士は仇討ち強盗、傭兵、荘園領主などに変質していく事になる。
前述の通り、騎士は名誉と儀礼を極端に重んじ、そのために高度な規範を作り上げていたという。
その徳目は時代ごとに虚飾されていく傾向にあったが、おおむね以下の通り。
こうした規範は後世まで「騎士道」として伝わっているが、実際の戦闘でどこまで遵守されていたかは疑わしい。
人質解放交渉が難航したか頓挫した場合、虜囚になった騎士や貴族が地下牢で獄死するのも珍しい事ではなかった。
ルール無用の無礼討ち・騙し討ちも多く、特に攻城戦ではおよそ公正な決闘など望めるものではない。
「騎士道」に関する逸話・説話のほとんどは、騎士が軍事的価値を失った後の時代に創作されたものと思われる。
当時、まだ王権神授説は生まれておらず、貴族の血統を神聖視し伝統として守っていくような哲学もなかった。
往時の騎士は大半がサクソン・ゲルマン・スラブ諸部族の有力者であり、キリスト教に帰依してから数世代以下の家系も少なくなかった。
そうでない騎士にしても、やはり血筋を遡ればいずれ開拓民や山賊に行き当たるのが大半で、ローマ帝国まで血筋を遡れる事は稀だった。
単に領土と軍事力を持ち、それをさらに有力な族長に提供する代わりに支配権を確立している傭兵――それが騎士の実態であった。
その領地が大きい者は貴族なり王なりを自称したが、こうした宣言の有効性は法や血筋でなく軍事力で決まるのが常であった。
実際、戦乱の度に仕える王を変えるような騎士もそう珍しい存在ではなかった。
すなわち、騎士が名誉と儀礼を極端に重んじていたのは、名の知れた相手か、誰にでもわかる方法でなければ意志の疎通すら危うかった事の裏返しでもある。
西欧では、古代から中世に至る過程で騎兵戦術が退化していた。
騎兵や騎士の戦いを描くフィクションでは、しばしば「騎兵の隊列が先陣を切って突撃する」という描写が為される。
文学史によれば、そうした演出は少なくとも中世の騎士物語にまで源流を遡る事ができる。
その当時、まだ「虚構性」の観念は定着していなかったので、騎士物語もまた「実在した騎士の姿」として受け止められていたと思われる。
つまり、当時の騎士は「騎兵の隊列が先陣を切って突撃する」のを物語に謡われるような誉れ高い行為と考えていた。
騎士は、状況が許す限りそうした英雄的業績を残すことを望んでいたし、成し遂げる事ができれば大いに賞賛を受け名声を博した。
もちろん、これは騎兵の運用教則には反する。
騎兵だけが真っ先に突撃すれば、騎兵だけが敵中で孤立し各個撃破される。
そうなると、随伴の歩兵は、騎兵が戦っているのをただ眺めているしかない上に、味方の騎兵が撃破されてしまえば、何のために戦場に来たのかもわからないまま追撃で殺されていく。
そんな戦術が常態化していたので、必然、当時の農民歩兵は練度も士気も極めて劣悪にならざるを得なかった。
実際の所、敵騎士の単身突撃に呼応して「敵ながら天晴れ」とばかりに騎士だけを迎撃に出す、などという事態もザラにあったようではある。
だがそうした「騎士道精神」は同じ騎士に対してのみ発揮され、どちらにしても戦場に付き添わされる歩兵は悲惨であった。
中世ヨーロッパが後世において「暗黒の時代」と称される所以は多くあるが、この野蛮な戦術形態もその一つである。
古代ギリシャで既に確立されていた歩兵・騎兵の連携戦術が、なぜ中世で完全に忘れ去られたのかについては諸説ある。
一般的には、古代の名将が編み出した戦術をキリスト教が「冒涜的」だと批判・弾圧したからだとされる。
しかし一方で、騎士階級の形成は経済的な理由によるものだという説もある。
またそもそも急激に拡大したキリスト教社会の歪み、要約すれば識字率と教導体制の問題であるという説もある。
どちらにせよ、騎兵戦術を含む軍事学(これに限ったことではないが)の知識は相当に失伝し、欧州全体で軍隊・参謀の質が低下していた事は疑いない。
中世前半の王侯貴族にとって、軍事力ではなく姻戚関係による縁戚外交で紛争を避ける事が防衛戦略の要であった。
騎士は対外戦争よりも領内の治安維持、野盗に対する警察力を期待して配置されたものだが、時には野盗と同一人物であったりもした。
「危険な賭け試合」程度のトラブルはどう統治しても避けようがなく、時にはそれが大規模な紛争に拡大してしまう事もあった。
こうしたことから、中世後期に再び「戦争」が起きると共に騎士は存在意義を失っていったものとされる。
(knight から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/21 02:50 UTC 版)
ナイト(英: Knight)は、主にヨーロッパのキリスト教国家において勲章の授与に伴い王室または教皇から授与される、中世の騎士階級に由来した栄誉称号である[1]。
特にイギリス(連合王国)の叙勲制度において王室より叙任されるものが有名。日本語では勲功爵、勲爵士[2][3][4][5][6][7]、騎士爵、士爵[8][注釈 1][10][11][12][13]などの訳が見られるほか、ナイト爵[14]と片仮名で表記されることも多い[疑問点]。英国においてナイトは公・侯・伯・子・男の貴族の身分ではなく、世襲権を持たない準貴族である[15]。また、称号としてのナイトを騎士号とも称する。本項では「ナイト」に統一し、「爵」ではなく「称号」と記述するが、伝統的な日本語訳である「勲爵士」を一部の括弧内に併記する。
イギリスにおいては、今日でも特定の勲章の授与時に王室から臣民にナイトが授与されることがあるが、これは英国君主としての「血の権利 (iure sanguinis) による叙任権 (Ius Collationis)」の行使の例である。
ローマ教皇は、教皇庁とバチカン市国の君主としての主権を以て、聖シルベストロ教皇騎士団などの勲章の受勲者に対しナイトの授与を行っている。これらのナイトは総称して「Papal Knights」と呼ばれる[16][17][注釈 2]。
さらに、君主制の国家ではないものの、政府として騎士号を授与する国もある。この例としては、共和国法第646号においてリサール騎士団の創設と騎士叙任を認めたフィリピン共和国の例がある[19]。
なお、民間団体が「ナイト」を模した民間称号を与える例がある(鑑評騎士[注釈 3]、名誉騎士[注釈 4]など)。
イギリスにおいて授与される勲章にはオーダー(Order)、デコレーション(Decoration)、クロス(Cross)、メダル(Medal)の4種類が存在する[22]。このうちオーダーは、中世の騎士団制度に由来する栄典で、王室により設立された騎士団(勲爵士団)へ入団すること自体を栄誉とするものであり、勲章はその団員証である。すなわち、オーダーの受勲とは勲爵士団への入団を意味する[23]。
イギリスには多くのオーダーが存在するが、最も叙勲対象が広いものは大英帝国勲章である。この勲章は主に文化・学術・芸能・スポーツ面で著しい功績があった者に対し、首相の助言(外国籍の者に対しては外相の推薦)によって君主(国王または女王、2024年現在[update]は国王)が授与する栄典である[24]。大英帝国勲章の叙勲者は年に2度、旧来は女王の誕生日と新年に発表され、そのうち上位2等級の受勲者にナイトが授与される。
イギリスに存在する主な勲章と、ナイトが授与される等級を以下に示す。このうち受勲者がナイトに叙任される階級を黄色で示す。また、下表に示す以外にも、騎士団への入団を伴わないナイトの叙任も行われており、「ナイト・バチェラー」(下級勲爵士)と呼びわける。
| 等級 | ガーター勲章 | バス勲章 | ロイヤル・ヴィクトリア勲章 | 大英帝国勲章 |
|---|---|---|---|---|
| 一等 | ナイト (Knight) / デイム (Dame) | ナイト・グランドクロス (Knight Grand Cross) / デイム・グランドクロス (Dame Grand Cross) | ナイト・グランドクロス (Knight Grand Cross) / デイム・グランドクロス (Dame Grand Cross) | ナイト・グランドクロス (Knight Grand Cross) / デイム・グランドクロス (Dame Grand Cross) |
| 二等 | ナイト・コマンダー (Knight Commander) / デイム・コマンダー (Dame Commander) | ナイト・コマンダー (Knight Commander) / デイム・コマンダー (Dame Commander) | ナイト・コマンダー (Knight Commander) / デイム・コマンダー (Dame Commander) | |
| 三等 | コンパニオン (Companion) | コマンダー (Commander) | コマンダー (Commander) | |
| 四等 | ルテナント (Liutenant) | オフィサー (Officer) | ||
| 五等 | メンバー (Member) | メンバー (Member) |
ナイトの授与に際しては、中世の騎士を叙任した主君のしきたりを踏襲した。騎士叙任の儀式で受勲者は女王、王または王族の代理の前に進み出るとひざまずき、儀礼用の剣の平を両肩に受ける。ナイトの称号は受けた本人一代限りで、世襲は許されない。
ナイトより格上の栄典としては、世襲が認められる準男爵(Baronet)や、世襲を行わないが世襲貴族と並んで貴族院議員となる一代貴族がある。
イギリス臣民でナイトに叙任された男性は Sir (サー)、その夫人は Lady (レディ)の敬称をつけて呼ばれる。また、女性でナイトに相当する叙勲を受けた者は Dame (デイム)の敬称をつけて呼ばれる。ただし、「サー」や「デイム」はサーネーム(姓、苗字)ではなく、名であるファーストネーム、またはフルネームの前につける敬称である。例えば、エドモンド・ヒラリーは「サー・エドモンド」または「サー・エドモンド・ヒラリー」とするのが正しく、「サー・ヒラリー」とするのは誤り。姓のみ呼ぶ場合は「ミスター・ヒラリー」。
男性ナイトの夫人はレディのあとにサーネームだけをつける。たとえばアン・スミスはレディ・スミスとなる。デイム(女性ナイト)の夫には敬称はつかない。
ナイトの称号は英国国民以外では、イギリス連邦加盟国や旧イギリス領だった国の国民に与えられることが多く、先述のエドモンド・ヒラリーもニュージーランド人である。
(イギリス国王が君主である国々以外の)外国人で名誉ナイト号を受けた者が「サー」の敬称を用いることはない。「サー」の敬称をつけて呼ばれるのは騎士叙任の儀式を受けた者だけであり、外国人はこの儀式を受けないためである。また、イギリス人であっても聖職者も同様に騎士叙任の儀式を受けないため、「サー」の敬称をつけて呼ばれることはない[25][26]。
なお、日本語ではサーの称号を冠する人物を表す際、姓に「卿」をつけた表記がしばしば見られる(「ヒラリー卿」、「コンラン卿」など)。しかし、サーの訳語に卿を選ぶとしても、第1点として「姓+卿」では、本来の用法とは異なる。それに加え第2点として、「卿」は「ロード」(Lord)の訳語として定着していて、イギリスにおける侯・伯・子・男それぞれの爵位の保持者などに付される称号である。これらの理由から「Sir」に対して「卿」を用いるのは適切ではない[注釈 5]。
ルーマニアのニコラエ・チャウシェスク[28]ジンバブエのロバート・ムガベはそれぞれナイトを剥奪された。
エルサレム、ロードス及びマルタにおける聖ヨハネ主権軍事病院騎士修道会(通称・マルタ騎士団)はナイトにより構成され、約960年の歴史を有する「領土なき国家」である[29]。現在は領土を有さないが、今日でも国際連合ならびに欧州連合にオブザーバーとして参加し[30]、110か国と外交関係を持つ[31]。騎士団中央政府は治外法権の認められたマルタ宮殿(イタリア・ローマ・コンドッティ通り68)に置かれ、世界120か国で医療などの慈善活動を実施し、世界中に12の管区、48の国家支部、133の外交団、33のボランティア隊を展開する[32]。
マルタ騎士団は貧者・病者に対する長年の顕著な奉仕の功績を有し、法曹界、学界、医療界などにおいて指導者と目される敬虔なカトリック教徒を選抜し、ナイトへと叙任する[33]。2021年時点の騎士総数は全世界で1万3500名[34]。
騎士候補に選抜された者は、洗礼を受けたカトリック教徒である証明として司祭の推薦状を得た上、1年間の修練準備期間を経ねばならない。マルタ騎士団騎士への叙任はカトリック教会における最上級の栄誉の一つであり、騎士には叙任と同時にマルタ騎士団総長により騎士団員章である聖ヨハネ騎士勲章が授与される[35]。マルタ騎士団騎士には3つの階級が存在し、原則としてすべての騎士は最初に第三階級に叙任された後、マルタ騎士団内における功績に応じ上位の階級に昇叙する。
ナイトに対する敬称はFra'。
ナイトに対する敬称はConfrere。
ナイトに対する敬称はConfrere。
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この節の加筆が望まれています。
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受任者にミュージシャンの高見沢俊彦がある。
オーストラリアは2015年に、ナイトとデイムの性別称号を「時代遅れ」との理由から廃止している[37]。
ナイトが登場する作品ならびにナイトをモチーフにしたキャラクターやそのキャラクターが登場する作品一覧を記す。
本文脚注の典拠。主な執筆者、編者の順。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/26 04:21 UTC 版)
「ナイト (曖昧さ回避)」の記事における「knight」の解説
ウィクショナリーに関連の辞書項目があります。knight 騎士 - 中世ヨーロッパの称号および階級。 ナイト - 近代以降のイギリスにおける叙勲のひとつ。 ナイト (チェス) - チェスにおける駒の一種。将棋の駒の一種桂馬の英訳。 騎士を意味する「ナイト」を含む曖昧さ回避ページドラゴンナイト (曖昧さ回避) レッドナイト
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