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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/12/27 07:45 UTC 版)
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グレア(glare)とは、不快感や物の見えづらさを生じさせるような「まぶしさ」のことをいう。眩輝(げんき)、眩惑(げんわく)とも。ある光の状態がグレアとなりうるか否かは、周辺の総合的な環境と個々人の生理的状態で決まる。光源とその周辺との明るさのバランスや、直接光・間接光の別、視線の方向と光源のなす角度などにも依存する。また、同じ光環境、同じ位置であっても、観察者の特性によってグレアとして受け取られるか否かは異なる。特に高齢者はグレアを感じ易く、また不快感から回復するのに要する時間も長い傾向にある。
グレアは、程度によっては単なる不快感にとどまらず、眼の障害や、状況把握能力の急な低下による事故などにもつながるため、照明器具の設計や照明計画などにおいては、グレアを防ぐことが必須となる。国・地域によっては、道路交通や照明設計に関して、グレア防止のための法規が整備されている。たとえばヨーロッパでは「輝度制限法」によって照明器具の輝度が制限されている。
なお、グレアは光害という概念とも一部共通するが、「光害」が主に公共性の面での問題として捉えられるのに対し、「グレア」はより工学的な問題として捉えられる。
グレアは、その原因や程度によって分類される。目の機能を生理的に損なう「不能グレア」「減能グレア」と、心理的に不快感を起こす「不快グレア」に分類される。
また、光源と観察者の関係によって、以下のように分類される。
グレアを生じる要素として、主たる光源自体の輝度、光源と背景の輝度差、光源と視線の近さ、視野中に占める光源の立体角がある。下図の例では、上段のような状況は下段のような状況に比べてグレアの程度が大きくなる。
| 背景と光源の輝度の対比が大きいほどグレアの程度が大きくなる。暗い部屋に小さな点光源を置いた場合などがこれにあたる。 | 光源自体の輝度が高いほうがグレアの程度が大きくなる。 | 光源が視線に近いほどグレアの程度が大きくなる。光源の方向を注視した場合、大きな不快感を生じる。 |
具体的には、以下のような状況で極端なグレアが発生する。
また、このような外的要因以外に、光を受ける側の目の状態によってもグレアは発生する。一般に、瞳孔が拡大した状態や、暗い場所で目が暗順応した状態では、光の刺激を大きく受けるため、不快感を持ちやすくなる。また、LASEKやLASIKなどの視力回復手術の後には、通常ならば不快とならないような光環境下でグレアが発生する。高齢者は一般的にグレアを生じやすく、さらに不能グレアからの回復にも時間がかかるが、これは水晶体の濁りによって光の散乱が起こるためである。これは、白内障の一般的な症状でもある。
グレアの研究が始められたのは1910年頃である。電球が普及し、従来の照明とは異なる強い視覚刺激が問題視されはじめた時期であった。
グレア研究の先駆となった人物は、アメリカの視覚研究者 Percy G. Nutting であった。彼はアメリカ照明学会 (Illuminating Engineering Society, IES) のグレア研究会の座長として「不快なまぶしさ」についての定量的研究成果を発表していった。彼が研究テーマとしていたのは「光源の輝度」と「順応レベル」の関係であった。
1920年代、アメリカとイギリスを中心にグレア研究は盛んとなる。この頃、研究初期には同列のものとみられていた「不能グレア」と「不快グレア」が明確に区別されるようになる。研究を主導したのは、主に各国の照明学会であった。
1940年代になると、光源輝度と背景輝度の対比を考慮した不快グレア評価法が提唱され、徐々に実用化されはじめる。1950年にイギリス照明学会が提唱した DGI (Daylight Glare Index) 法は「背景輝度」「光源輝度」「視界に占める光源の立体角」の3要素から不快グレアの程度を算出するものであった。
1970年代からは、世界各国の照明学会で別々に研究されてきたグレア評価方法を統合し、国際標準として確立する動きが活発になる。コンピュータの普及も、グレア研究を加速させた。長時間のコンピュータ作業による技術者のストレスが問題視され、オフィス設計の指針としても標準的なグレア評価法の需要が高まっていった時代である。
国際照明委員会(Commission International de l'Eclairage/International Commission on Illumination、CIE、1913年設立)が1995年に発表した UGR (Unified Glare Rating) 法は、照明器具の配置を評価する「ポジションインデックス」の概念を含めたもので、現在のグレア評価の主流として国際的に最も広く実用化されている。ISO 規格で利用されているのも UGR である。
現在、LED などの新たな照明の刺激や、これまであまり研究の進まなかった照明の色の影響も研究課題となっている。人種・年齢・性別などで異なるグレアの受け方を評価に含める研究も進められている。また、近年飛躍を遂げたコンピュータ・グラフィックス技術を用いて光環境をリアルにシミュレートし、直感的に快・不快を予測することができるようになったため、照明設計の補助として利用してゆこうという向きもある。
屋内環境の改善のためには、何らかの客観的評価方法が必要となる。グレアは個人の感覚の問題であり、また複雑な光環境を総合的に考慮する必要があるため、評価方法は単純なものとはならない。特に不快グレアについては、これまでに定量的な評価の方法がいくつも提唱されてきた。以下に、実用化された評価方法の一例を挙げる。
快/不快の境目となるような光源輝度 / 背景輝度の値であり、不快グレアの評価の基本として用いられている。
1950年に提唱されたもので、グレア評価式としては古参の部類である。背景光の輝度・光源の輝度・光源が視野に占める立体角の3要素を用いる。DGIの値は以下の式によって求められる。![]()
デスクなど一定の場所で長時間作業を行う場合、作業者の目に直接光が入るような位置に輝度の高い照明を設置することは避ける。また、たとえ反射率が高くなくとも、前方からの照明光が机やその上に置いた紙などで反射すること(これを光幕反射という)もグレアの原因となるため、避けることが望ましい。上半身の影が作業面にかぶらない程度の斜め後ろ上方が、光幕反射を防止するのに適切な照明位置として推奨される。ただし、ディスプレイを用いた作業の場合、照明器具の映りこみが見えてしまうような位置は強い間接グレアの原因となるため、避けるべきである。
また、直接照明の影響を軽減できる間接照明は、グレアを防止する目的でも用いられる。
これらの対策をした上で、利用者自らが室内照明や窓からの光を調節したり、読書や作業の位置を適切に選択することも重要である。
コンピュータのディスプレイには、グレアを防ぐための加工がなされる場合がある。特に映りこみの発生しやすい CRT のガラス面には微細な凹凸で入射光を乱反射させるノングレア(アンチグレア、防眩)加工がなされることが多い。この加工には、入射光を乱反射させるシリコーンやフッ素加工の薄い層を設ける方法が一般的である。また、もともとグレア対策のなされていないディスプレイには、利用者自らアンチグレアフィルムやパネルを装着することでグレアを防ぐことができる。ディスプレイを覆う形のフードを用いる場合もある。反射光が直接目に入らないように照明の位置やディスプレイの角度を工夫するのも効果的である。
また、CRT・液晶ともに、画面自体の輝度もグレアを生じさせる要因となる。ほとんどの製品には輝度を調節する機能が備わっている。また、背景の輝度とディスプレイの輝度に極端な差がある場合、不快グレアを生じやすいため、暗い部屋での作業は適当ではない。
発明以来その低消費電力、高寿命から『未来の照明』と言われながらも長らく電光表示などの用途にとどまっていたLEDだが、青色LEDの発明を経て高輝度LEDの単価が下がってきた近年では懐中電灯をはじめ、電球・蛍光灯などと同等の照明器具に用いられるようになってきた。しかし LED はその構造上光の指向性が高く、高輝度・低立体角の光源(言い換えると「強く細い光」)であり、照明器具として設計する際には特に不快グレアへの対策が要求される。たとえば、乳白色の半透過フィルタやキャップを被せることで拡散発光をさせる、広指向性LEDの開発等、照明器具と周辺との輝度差をより緩やかにするといった工夫がなされている。
一方でその視認性の高さから信号機などの運転案内表示や、自動車のヘッドライトやテールランプ、ウインカーなどへ応用されている物もある。
自動車、二輪車のヘッドライトは輝度が高く、光線が直接目に入ると特に夜間では不能グレア・減能グレアを起こしやすい。路面が雨で濡れている場合には、下に向けたライトも路面反射によるグレアの原因となる。路面の滑り易さなどともあいまって事故につながりやすいため、注意を要する。走行中におけるこのような視界不良は極めて危険を伴うため、国土交通省ではヘッドライトの光軸、色温度に規定値を定めている。
ヘッドライトによる対人・対車への視界眩惑による危険性は自動車史上古くから認知されており、光軸調整機能、上向き・下向き照射(ハイ・ロービーム)切り替え機能は自動車の安全装備としてはシートベルトよりも早くに実装されている。また下向き照射でも充分な光量を保ち運転者の視界を確保出来るよう各自動車メーカーは工夫を重ねてきた。古くはヘッドライトレンズの屈折率により光線を調節し、設計・成形技術が進歩した今日ではヘッドライト内のリフレクター(反射板)の角度を厳密に設定する事で必要な方向へ光が照射されるよう設計されている。近年はバルブの輝度が高くなって来たため、トラック、バスなど大型の車はバンパー付近に低くヘッドライトを配置・デザインする事で光源位置を下げ光軸が対向運転者の目に入りにくいよう配慮、また直接の光源であるフィラメントが視界に入らないよう何らかの覆いが施されている。また大型車では信号停車時にヘッドライトの運転者による任意消灯、乗用車では一部車種に光軸の調整ダイアルが運転席に備わるなど、他車への不快グレアに配慮する運転マナーによる効果も決して少なくない。
一方で国土交通省の定める交通規則では平常走行では上向き照射(ハイビーム)で走行し、市街地及び対向車がある場合は下向き照射(ロービーム)で走行するよう定めている[1]。グレアを引き起こしやすい上向き照射(ハイビーム)も対人でない限りは運転者の視界確保に極めて有効であり、対人であっても瞬間的に明滅するパッシングなど効果的に使えば他車とのコミュニケーション、注意喚起にもなる。また下向き照射(ロービーム)であってもテールランプと共に夜間は暗闇の中で自車の存在を他者に知らせ、二輪車ではこの理由から昼間でもヘッドライトの常時点灯が義務付けられている[1][2]など、光を他者・他車運転者の視界に入れる、則ち意図的に軽微なグレア現象を引き起こす事で対称者の意識を向け注意を促す一定の機能・役割を持っている。
グレアを生じるような視環境を自力で避けることのできない場合もある。特に視力回復手術後・高齢・白内障などで特別グレアを受けやすい人にとっては、深刻な不快や不便をもたらす。対策として、偏光のかかったサングラスなどを用いて視覚を守ることがある。 又、遮光レンズといい、ある特定の波長のみを減光させてグレアを防ぐものもある。
照明計画においては、グレアを防ぐため、利用者から見える位置に高輝度光源を配置することは避けられる傾向にある。しかしその一方で、シャンデリアなど、あえて高輝度の照明を演出効果として用いる場面もあり、周囲の照明との兼ね合い次第ではグレアを発生させずに豪奢な照明のきらめきを楽しむ空間を創出できる。特に、立体角が小さく輝度の高い照明は、貴金属や宝石に反射・屈折を生じさせ、その美しさをきわだたせる効果があり、店舗ディスプレイなどでも取り付け位置を工夫しながら積極的に用いられている。
また、コンピュータグラフィックスでは、暗闇の中に突如何かが現れるシーン、リアルな照明環境などを効果的に表現するため、現実にグレアの生じる場面での視覚的刺激を再現し、鑑賞者に「眩しい」という印象を持たせる技術が用いられている。