(biscuit から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/20 03:44 UTC 版)
ビスケット(英: biscuit[注 1])は、小麦粉を主材料とした生地を小さく切りとって焼いたものであり、無発酵の速成パンの一種である[1]。
起源は古代にあり、元は保存食であり、保存性を高めるために何度か焼いたものであった。
典型的には、小麦粉に牛乳、ショートニング、バター、砂糖、ベーキングパウダーなどを混ぜて、サクサクした食感に焼いたものであり、こちらは菓子として食され、チョコレート、ナッツ、果実加工品などが加えられる場合もある。ただし、ビスケットにはクラッカーすなわち生地に砂糖を加えず塩味だけ加え他にほとんど何も加えずパリパリとした食感になるように焼き、軽食として食されるものもある。
英語のビスケットはフランス語のビスキュイ(仏: biscuit[注 2])から来ている。フランス語でbisは「2」を意味する接頭語もしくは「2度」を意味する副詞であり、cuitは動詞cuire(「焼く」を意味する)の過去分詞形であるため、全体として「二度焼いた」という意味を表す。さらに遡っての語源はラテン語の「二度焼いたパン」パーニス・ビスコクトゥス(panis biscoctus)である。これは保存食として作られた堅パンを指し、ビスケットもまた本来は軍隊用・航海用の保存食であった。現代フランスにおいても、ビスキュイの語には焼菓子のそれと堅パンの両義がある。なお、Dr. Johnsonの英語辞典(1755年初版)には「遠洋航海用に(保存性を高めるため)四度焼く」との説明がある。
なお、フランスではビスキュイの一種としてサブレー(仏: sablé[注 3])と呼ばれるものも存在する。これはビスキュイ(ビスケット、クッキー)に比べてバターあるいはショートニングの量が多く、よりさっくりした食感のものを指す。
英語圏では日本でいうところのクッキー(英: cookie[注 4])と区別は存在せず、英国では両者をビスケットと呼び、米国では両者をクッキーと呼ぶ。米国のビスケットは速成パンの一種で、英国のスコーンに近い(後述)。
クラッカーもビスケットの一種で、全くあるいはほとんど糖分を含まず、軽い食感のものを特にその名で呼ぶ。日常的にはディップやチーズを載せて軽食として、また近年では機内食や、乾パンに替わる軍隊食としても利用されている。
広義にはラスクや乾パンもビスケットに含まれる。
堅いビスケットを焼く前に、小さい穴をたくさん開けて、焼くときにビスケット内部から出る気体がその穴から出るようにする。そうしないと、焼くときにビスケット内部から出る気体が、ビスケットの表面をでこぼこにしてしまう。
ビスケットの世界市場の規模は、2024年現在で約1086億ドルである[2]。今後年率5.7%のペースで成長し、2025年には1138億ドルに、2032年には1677億ドル規模になると予測されている[2]。
ビスケットの中には子供向けに文字や動物の形をしたものも作られている。
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米国で言うビスケットとは、生地にショートニングやラードを加え、重曹とベーキングパウダーで膨らませた、外側はサクサクで内側はふっくらとした食感のある速成パンのこと。イギリスにおけるプレーンスコーンとほぼ同一のものであるが、スコーンはショートニングやラードではなくバターを用いる。
朝食として供されるほか、料理の付け合わせや菓子類に加工されることもある。料理ではグレイビーをかけたり、焼いたハムやソーセージを挟んで食べることもあり、アメリカ南部料理によく使用される。また、ショートケーキの「ショート」はショートブレッドの名にもある、「サクサクしている」「崩れやすい」という意味で、本来はスポンジケーキではなく、このビスケットを土台に用いたものを指す。
日本では、ケンタッキーフライドチキンがこのタイプのビスケットをメープルシロップとセットで、また、在日米軍基地内限定ではあるが、ポパイズ・ルイジアナ・キッチンが蜂蜜とセットで、それぞれ販売している。
日本には、南蛮菓子の「ビスカウト」として平戸に伝えられた。黒船来航の際には日本人にふるまわれ、好評を得ていた[10]。
日本ではじめてビスケットに関する記述が登場するのは、幕末に長崎で開業していた医師である柴田方庵の日記であり、水戸藩からの依頼を受けビスケットの製法をオランダ人から学び、1855年にその製法書を送ったことが書かれている。
1877年の内国勧業博覧会にあわせ、「乾蒸餅」という日本語訳語が生まれた[11]。第二回内国勧業博覧会で最高位の「進歩二等賞」を得た米津風月堂(京橋区南鍋町)の米津常次郎は「舶来の大機械をもって苦心のあげく作り上げたビスケットに乾蒸餅なんて名をつけた役人どもの非常識に呆れ返った。せっかく最高賞を得たが、これじゃ宣伝する気にもなれない」と憤慨したという[12]。
夏目漱石は倫敦消息(ロンドンしょうそく)の中で「向ふの連中は雑誌を読みながら『ビスケット』か何かかぢつて居る」と書いている[13]。
日本陸軍が開発・採用した保存食のひとつである乾パンは当初「重焼麺麭」(じゅうしょうめんぽう)と呼称され、上述のビスケットの語源と同じく、回数を重ねて焼かれたパンを意味した。「重焼」が「重傷」に通じることから、名称が乾麺麭(かんめんぽう、乾燥パンの意)や乾パンに変えられ、素材や形状も段階的に改良された。
日本では、日本ビスケット協会が1971年に定めた自主ルール「ビスケット類の表示に関する公正競争規約」においては、
と定義した。これは、当時の日本にあって、「クッキー」は「ビスケット」よりも高級品だと思われていたため、安価な「ビスケット」を高級品である「クッキー」というのは、消費者を誤認させる恐れがあるとの判断から、定められたものである。ただ、この規約は日本ビスケット協会による自主ルールであるため、協会に加盟していなければこれに従う必要はない。
日本国内の2022年の小売金額は前年比1.1%増の3980億円だった[14]。2023年はコロナ禍の影響も減り人々の行動も活発化し、ビスケットの市場規模は4000億円の大台に乗せたとみられた[14]。
主なビスケットメーカーは次のとおり。
1980年に社団法人全国ビスケット協会では、2月28日をビスケットの日と定めている。これは、前述の柴田方庵が、ビスケットの製法を藩に提出した日が2月28日だったからとされる[15]。また、前述のようにビスケットの語源がラテン語で「2度焼いた」という意味の「ビス・コクトゥス(bis coctus)」であることから、「に(2)どや(8)かれたもの」の語呂合せの意味も持たせている。