| 分子式 C6H6 で、芳香族炭化水素の最も基本的な物質であり、ベンゾールとも呼ばれる。無色の液体で芳香を有し、水に不溶。比重 0.88、沸点 80.1 ℃、融点 5.5 ℃。揮発性が極めて強く、引火しやすい。ベンゼンは石炭乾留の際のコールタールの分留、ナフサの熱分解や改質あるいはトルエン、キシレンなどの脱アルキル化によって得られる。用途としてはスチレン、シクロヘキサン、フェノール、アルキルベンゼン、無水マレイン酸など合成ゴム、合成樹脂、合成繊維、染料、合成洗剤など各種化学工業製品の主要原料である。また、溶剤、抽出剤としての使用も極めて重要な用途の一つである。なお、ベンゼンには毒性があるので、労働安全衛生法でも、その使用および取り扱いについて規制しており、注意を要する。 |
(benzene から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/27 17:27 UTC 版)
|
分子構造
|
|||
|
|||
|
室温でのベンゼン
|
|||
| 物質名 | |||
|---|---|---|---|
|
別名
Benzol (historic/German) |
|||
| 識別情報 | |||
|
3D model (JSmol)
|
|||
| ChEBI | |||
| ChEMBL | |||
| ChemSpider | |||
| ECHA InfoCard | 100.000.685 | ||
| EC番号 |
|
||
| KEGG | |||
|
PubChem CID
|
|||
| RTECS number |
|
||
| UNII | |||
|
CompTox Dashboard (EPA)
|
|||
|
|||
|
|||
| 性質 | |||
| C6H6 | |||
| モル質量 | 78.114 g·mol−1 | ||
| 外観 | 無色の液体 | ||
| 匂い | 甘い芳香 | ||
| 密度 | 0.8765(20) g/cm3[2] | ||
| 融点 | 5.53 °C (41.95 °F; 278.68 K) | ||
| 沸点 | 80.1 °C (176.2 °F; 353.2 K) | ||
| 1.53 g/L (0 °C) 1.81 g/L (9 °C) 1.79 g/L (15 °C)[3][4][5] 1.84 g/L (30 °C) 2.26 g/L (61 °C) 3.94 g/L (100 °C) 21.7 g/kg (200 °C, 6.5 MPa) 17.8 g/kg (200 °C, 40 MPa)[6] |
|||
| 溶解度 | アルコール、クロロホルム、四塩化炭素、ジエチルエーテル、アセトン、酢酸に溶ける[6] | ||
| エタンジオールへの溶解度 | 5.83 g/100 g (20 °C) 6.61 g/100 g (40 °C) 7.61 g/100 g (60 °C)[6] |
||
| ジエチレングリコールへの溶解度 | 52 g/100 g (20 °C)[6] | ||
| log POW | 2.13 | ||
| 蒸気圧 | 12.7 kPa (25 °C) 24.4 kPa (40 °C) 181 kPa (100 °C)[7] |
||
| 共役酸 | ベンゼニウム[8] | ||
| 共役塩基 | ベンゼニド[9] | ||
| λmax | 255 nm | ||
| 磁化率 | −54.8·10−6 cm3/mol | ||
| 屈折率 (nD) | 1.5011 (20 °C) 1.4948 (30 °C)[6] |
||
| 粘度 | 0.7528 cP (10 °C) 0.6076 cP (25 °C) 0.4965 cP (40 °C) 0.3075 cP (80 °C) |
||
| 構造 | |||
| 平面三角形 | |||
| 0 D | |||
| 熱化学 | |||
| 標準定圧モル比熱, Cp⦵ | 134.8 J/mol·K | ||
| 標準モルエントロピー S⦵ | 173.26 J/mol·K[7] | ||
|
標準生成熱 (ΔfH⦵298)
|
48.7 kJ/mol | ||
| 標準燃焼熱 ΔcH |
−3267.6 kJ/mol[7] | ||
| 危険性 | |||
| 労働安全衛生 (OHS/OSH): | |||
|
主な危険性
|
潜在的な職業性発がん物質、可燃性 | ||
| GHS表示: | |||
| Danger | |||
| H225, H302, H304, H305, H315, H319, H340, H350, H372, H410[10] | |||
| P201, P210, P301+P310, P305+P351+P338, P308+P313, P331[10] | |||
| NFPA 704(ファイア・ダイアモンド) | |||
| 引火点 | −11.63 °C (11.07 °F; 261.52 K) | ||
| 497.78 °C (928.00 °F; 770.93 K) | |||
| 爆発限界 | 1.2–7.8% | ||
| 致死量または濃度 (LD, LC) | |||
|
半数致死量 LD50
|
930 mg/kg (ラット, 経口)[12] | ||
|
LCLo (最低致死濃度)
|
44,000 ppm (ウサギ, 30 分) 44,923 ppm (イヌ) 52,308 ppm (ネコ) 20,000 ppm (ヒト, 5 分)[13] |
||
| NIOSH(米国の健康曝露限度): | |||
|
PEL
|
TWA 1 ppm, ST 5 ppm[11] | ||
|
REL
|
Ca TWA 0.1 ppm ST 1 ppm[11] | ||
|
IDLH
|
500 ppm[11] | ||
| 安全データシート (SDS) | HMDB | ||
| 関連する物質 | |||
| 関連物質 | トルエン ボラジン |
||
|
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。
|
|||
ベンゼン(英: benzene)は、分子式 C6H6、分子量 78.11 の最も単純な芳香族炭化水素である。原油に含まれており、石油化学における基的化合物の1つである。分野によっては慣用としてドイツ語(Benzol:ベンツォール)風にベンゾールと呼ぶことがある。ベンジン(benzine、主として炭素数5 - 10の飽和炭化水素からなる混合物)とはまったく別の物質であるが、英語では異綴の同音異義語である。
構造および性質が類似する4物質、ベンゼン(Benzene)、トルエン(Toluene)、エチルベンゼン(Ethylbenzene)、キシレン(Xylene)の頭文字をとってBTEXと称されることがある。ベンゼン・トルエン・キシレンの3つをBTXとも呼ぶ。
6個の炭素原子が亀の甲(六角形)状かつ同一平面上に位置し、各炭素はsp2混成軌道をとっている。炭素原子間の結合距離はすべて約1.39 Åであり、典型的なC−C単結合(約1.54 Å)とC=C二重結合(約1.34 Å)の中間である。これは、全てのC−C結合が等価であることを意味する。ケクレ構造式では交代する二重結合と単結合で表されるが、実際にはsp2混成軌道によるσ結合からなる骨格と、各炭素の未混成p軌道が重なって形成される環全体に非局在化したπ電子系が存在する。π電子は特定の1本のC−C結合に局在せず、環全体に分布して各C−C結合へ等価に結合性寄与を与えるため、結合長が均一化する。非局在化した電子密度は環の上下に広がった分布を示し、環状のπ電子雲を形成する。ベンゼンが平面六角形構造をとるのは、sp2混成に由来するσ骨格の幾何と、p軌道の重なりによるπ共役(芳香族性)が平面配置で最大化され安定化するためである。非局在化していることを強調するために、ベンゼン環を六角形の中に円を描いた形で表すことがある。
π電子が非局在化すると、局在した二重結合と単結合の交互配置に比べて分子全体のエネルギーが低下し、安定性が増大する。このようにπ電子が環状に共役し、共役が途切れず、(4n+2) 個(2、6、10、…)のπ電子をもち [注釈 1] 、平面構造をとることが可能な分子は、すべてのπ電子が結合性軌道を占有するため特に安定である。この性質を芳香族性と呼び、ベンゼン環を含む化合物を芳香族化合物という。
ベンゼン環はベンゼン核とも呼ばれるが、現在ではあまり一般的な呼び名ではない。置換基となる場合はフェニル基 (phenyl group) と呼ばれる。
フェニル基の暗号としてはPhが用いられる。芳香族炭化水素の置換基はアリール基と呼ばれ、フェニル基はナフチル基と同様にアリール基に属する。
構造式の見かけ上ベンゼンは二重結合を持つが、アルケンと異なり付加反応よりも置換反応の方が起こりやすい。
WHOの下部機関IARCより発癌性がある(Type1)と勧告されており、米国・カナダ・EU・オランダなど各国でも独自に人体影響を研究評価している[14]。日本でも大気汚染に係る環境基準が定められている。また1973年にはベンゼンから生ずる中毒の危害に対する保護に関する条約が発効した。なお、ムコン酸は、ヒトがベンゼンに曝露された時の指標とされる。ただし、ヒトがベンゼンに曝露されると、他にフェノール、カテコール、ヒドロキノンなども代謝産物として生ずることが知られている[15]。
代謝は肝臓で行われ代謝の中間産物としてフェノール、カテコール、ヒドロキノン等が生成され代謝産物が骨髄で毒性を発現する[16][17]。
1950年代、サンダル工場で接着作業に従事していた工員が継続的なベンゼンの吸入により、造血器系の傷害(白血病等)を受け死亡する事象が発生した。この事象を契機としてベンゼンの毒性・発癌性が問題視されるようになり、有機溶剤としては代替品で毒性の比較的低いトルエンやキシレンが使用されるようになった。しかし、これら代替溶剤は故意の吸入(いわゆるシンナー遊び)という、別の弊害を生むことになった。現在においても化学工業・理化学実験では使用が忌避される傾向にある。ベンゼン含有量を削減したガソリンなどがその代表例である。
2006年春以降英国などで清涼飲料水からベンゼンが低濃度検出されることが公表され、10ppbを越える製品の自主回収が要請された。生成の原因は保存料である安息香酸と酸化防止剤であるビタミンCの反応によるもの、とされている。日本でも厚生労働省医薬食品局食品安全部が市販の清涼飲料水を調査し、1つの製品で70ppbを超える濃度が検出され、自主回収を要請した[18]。
都市ガス製造時に生成しガス製造施設で高濃度のベンゼンによる土壌汚染[19]や地下水汚染[20]が公表されている。
ベンゼンは炭素の豊富な素材が不完全燃焼すると生産される。自然界では火山噴火や森林火災でも発生し、タバコの主流煙・副流煙にも含まれる。
ベンゼンの工業的製造法には以下の物がある。
第二次世界大戦までは、製鉄産業においてコークスの副産物としてベンゼンが生産された。その後1950年代になると、特にプラスチック産業の成長によりベンゼンの需要は増大し、石油からベンゼンを生産することが求められた。今日ではベンゼンの9割以上は石油化学工業で生産され、石炭からの生産は相対的に少なくなった。
粗製ベンゼンの2016年度日本国内生産量は474,969t、工業消費量は227,755t、純ベンゼンの2016年度日本国内生産量は4,072,574t、工業消費量は1,957,946tである[21]。
石炭蒸し焼きによる一酸化炭素を主成分とする都市ガス製造過程でも、ベンゼンが生成する。このため、都市ガスを製造した工場跡地において、ベンゼンなどによる土壌汚染や地下水汚染が起こることがある。
1825年、ファラデーによって、鯨油を熱分解したときの生成物の中から初めて発見された[22][23]。ただし、この時点では環式構造をもつことは知られず、分子量と性質のみにとどまる。
1833年、ミチェルリヒが安息香酸(benzoic acid)と生石灰を蒸留して得た物質にbenzinと名付けたのが名前の由来となった[24][25]。
1845年、アウグスト・ヴィルヘルム・フォン・ホフマンの下にいたCharles Mansfieldがコールタールからベンゼンを単離し、4年後に工業規模の製造を始めた。化学者の間では次第にベンゼンに関連する化合物が大きなグループを形成するという考えが醸成され、1855年にホフマンが芳香族という名称を付けることになる。
そして1865年にドイツの化学者アウグスト・ケクレによって、炭素原子からなる六員環構造をもち、各炭素原子に1つずつ水素原子が結合し、さらに、炭素原子間には単結合と二重結合が交互に配列した「ベンゼンの環状構造式」(ケクレ構造式)が提案された[26][27]。 ケクレはベンゼンの1置換体は常に1種類だけ生じ、一方2置換体は3種の異性体(オルト・メタ・パラ)が生じることを根拠にこの構造を提唱している。この構造は、ケクレが夢の中でヒントを得たとされている。猿が手を繋いでいたとか、蛇(ウロボロス)が自分の尻尾を噛んでぐるんぐるん回っていたなどと言われているが、その真偽については疑問が持たれている(詳細はケクレの項目を参照)。この構造(ケクレ構造)を持つ分子をケクレ分子という。
ケクレ以外にもデュワーやバンバーガーをはじめとして多くのベンゼン構造式が提唱されてきた。
これらのうち、デュワーのベンゼン式に相当する置換化合物(フォトピリドン (photopyridone) など)が発見されており、デュワー式に相当するベンゼンの類縁体の総称してデュワーベンゼンと呼称されることもある。ヘキサメチルデュワーベンゼンは市販もされている[要出典]。
| 記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
|---|---|---|---|---|
| ⌬ | U+232C |
- |
⌬⌬ |
BENZENE RING |
| ⏣ | U+23E3 |
- |
⏣⏣ |
BENZENE RING WITH CIRCLE |