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独立行政法人科学技術振興機構独立行政法人科学技術振興機構

マンガン

分子式Mn
その他の名称マンガン-55クタバル、Manganese-55、Colloidal manganese、Mn、Cutaval、コロイド状マンガン、Manganese、Manganese powder
体系名:マンガン


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物質名
マンガン
英語名
Manganese
元素記号
Mn
原子番号
25
分子量
54.93805
発見
1774年
原子半径(Å)
1.12(1.50)
融点(℃)
1244
沸点(℃)
2152
密度(g/cm3
7.42
比熱(cal/g ℃)
0.115
イオン化エネルギー(eV)
7.435
電子親和力(eV)
0


JabionJabion

マンガン

英訳・(英)同義/類義語:manganese

金属元素のひとつ。元素記号Mn

ウィキペディアウィキペディア

マンガン

(Manganese から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/12/21 09:34 UTC 版)

クロム マンガン
-

Mn

Tc
25Mn
外見
銀白色
一般特性
名称, 記号, 番号 マンガン, Mn, 25
分類 遷移金属
, 周期, ブロック 7, 4, d
原子量 54.938045(5) 
電子配置 [Ar] 4s2 3d5
電子殻 2, 8, 13, 2(画像
物理特性
固体
密度室温付近) 7.21 g/cm3
融点での液体密度 5.95 g/cm3
融点 1519 K, 1246 °C, 2275 °F
沸点 2334 K, 2061 °C, 3742 °F
融解熱 12.91 kJ/mol
蒸発熱 221 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 26.32 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 1228 1347 1493 1691 1955 2333
原子特性
酸化数 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1, −1, −2, −3
(酸性酸化物塩基性酸化物両性酸化物)
電気陰性度 1.55(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 717.3 kJ/mol
第2: 1509.0 kJ/mol
第3: 3248 kJ/mol
原子半径 127 pm
共有結合半径 139±5(低スピン), 161±8(高スピン) pm
その他
結晶構造 体心立方
磁性 常磁性
電気抵抗率 (20 °C) 1.44 μΩ⋅m
熱伝導率 (300 K) 7.81 W/(m⋅K)
熱膨張率 (25 °C) 21.7 μm/(m⋅K)
音の伝わる速さ
(微細ロッド)
(20 °C) 5150 m/s
ヤング率 198 GPa
体積弾性率 120 GPa
モース硬度 6.0
ブリネル硬度 196 MPa
CAS登録番号 7439-96-5
主な同位体
詳細はマンガンの同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
52Mn syn 5.591 d ε - 52Cr
β+ 0.575 52Cr
γ 0.7, 0.9, 1.4 -
53Mn trace 3.74×106 y ε - 53Cr
54Mn syn 312.3 d ε 1.377 54Cr
γ 0.834 -
55Mn 100% 中性子30個で安定

マンガン(満俺[1]: Mangan: manganese: manganum)は原子番号25の元素元素記号Mn

名称

王立化学会によればマンガンの名称の由来は諸説あり、「磁石」を意味するラテン語の"magnes"が由来であるという説や「黒色の酸化マグネシウム」を意味する"magnesia nigra"が由来であるという説が存在する[1][2]。国内において古くは満俺と漢字をあてたり、マンガニーズと呼ばれたりもしたが、現在ではマンガンの名が一般的である[1][3]

性質

物理的性質

マンガンは灰色固体の金属で、比重はα-Mnで7.3、融点は1519 K(1246℃)[2]マンガン族元素に属する遷移元素[4][5]。温度によりいくつかの同素体が存在し、結晶構造は常温・常圧で立方晶系(α型)の安定構造をとる[4]。マンガンの磁気的性質は多様で相別にみると、それぞれα型が反強磁性、β型がパウリ常磁性、γ型が基底状態において反強磁性、δ型が基底状態において常磁性[注 1]となっている[4]。マンガンを含む化合物や合金においてはマンガン原子周辺の環境により、マンガン原子の磁気モーメントは0に近い値から4μBをこえるまで広い範囲に渡っており、その磁気的性質が多様であることがうかがえる[4]。合金にはホイスラー合金など強磁性を示すものがあり、さらに化合物にはさまざまな磁気的性質を示すものがある。ビスマスとの合金は強磁性体として知られるほか、フェライトに添加することでさまざまな特性を付加する。

同素体

金属マンガンの相変化。縦軸が外圧(kbar)、横軸が温度(K)であり、常温常圧ではα型として存在することがわかる。

マンガンは温度により4つの同素体(相)を持つ[6]

αマンガン

742 °C以下で安定。単位胞あたり58個の原子を含む複雑な立方晶体心立方格子類似構造)。原子の位置により4種類の異なるスピンを持ち、全体としては磁気モーメントを持たない、広義の反強磁性体であると考えられている(詳細はいまだ明らかになっていない)。

βマンガン
742–1095 °Cで安定。単位胞あたり20個の原子を含む複雑な立方晶。常磁性体である。
γマンガン
1095–1134 °Cで安定。面心立方構造。反強磁性体である。
δマンガン
1134–1245 °C(融点)で安定。体心立方構造。常磁性体である。

同位体

天然に存在するマンガンは、唯一の安定同位体である55Mnのみで、その他に46Mnから72Mnまでの放射性同位体を擁する。放射性同位体のなかで最も安定なのは半減期370万年の53Mnで、次いで半減期312.08日の54Mn、半減期5.591日の52Mnが挙げられ、ほかの放射性同位体はいずれも半減期3時間未満(多くは半減期1分未満)となっている。安定同位体である55Mnより軽い放射性同位体は電子捕獲により壊変し、重い放射性同位体はベータ壊変により壊変を起こす。53Mnは宇宙線原子に衝突することで生成するとされ次第に53Crへと壊変する[7]。このほかにマンガンは3種の核異性体を持つ[8]

マンガンは鉄族元素の一種であり、超新星爆発発生直前の大質量星で合成されると考えられている[9]

化学的性質

マンガンは比較的反応性の高い金属で粉末状にすると空気中の酸素、水などとも反応する[4]。実際、空気中に放置すると酸化被膜が生じて内部が保護され、赤みがかった灰白色となる。マンガンは2–7価までの原子価を取り(+2、+3、+4、+6、+7 が安定)、様々な物質との反応により多様な化合物を与える[2]

酸化力・還元力

金属マンガンは還元剤として用いられることがある[10]。これはマンガンのイオン化傾向がアルミニウム亜鉛の中間に位置しており、0価から2価のイオンに酸化されやすいことに起因する[10]。したがって、金属マンガンは酸化されて二価のイオンになる際に電子を放出し、有機化合物や金属原子の還元反応を行うことができる[10]。例えば、アルデヒドにマンガンを反応させると還元によりラジカルが生じ、還元的カップリング反応が起こることで1,2-ジオールが生成する[10]

還元剤として用いられる金属マンガンとは対照的に二酸化マンガン過マンガン酸カリウムといった化合物は酸化剤として用いられる[11]。二酸化マンガンは有機化学反応において多用される穏やかな酸化剤で、アルコールからアルデヒドケトンを選択的に与えることができる[11]。この酸化反応は中性条件下で進行し、また二酸化マンガンは濾過で簡単に除く事ができるため、小西はこれについて非常に実用的と評している[11]。過マンガン酸カリウムは二酸化マンガンとは異なり強力な酸化剤である[11]。酸性条件下においては特に酸化力が強く、アルコールの酸化のみならずC=C二重結合や末端のC≡C三重結合を開裂することができる[12]。ただし、過マンガン酸カリウムは多くの有機溶媒に対して溶解性が低く、水と混交することができる有機溶媒を用いたり、18-クラウン-6を一緒に添加することで、有機溶媒中でも酸化反応を行うことができる[11][12]

また、3価のマンガンは比較的不安定であるため2価や4価に容易に変化しやすいという性質を利用して、有機化学における一電子酸化剤や一電子還元剤として用いられる。

触媒能

いくつかのマンガン化合物は触媒としての性質を示す。もっとも有名な触媒として以下の過酸化水素分解を触媒する二酸化マンガンが挙げられる。

ジェイコブセン触媒を用いたジェイコブセン・香月エポキシ化反応の反応機構

近年では可視光照射による低濃度二酸化炭素の直接還元における光触媒としてマンガン炭酸エステル錯体(MnMes-CO2TFE)が用いられたり[18]、水素移動反応の触媒としてマンガン-PNP錯体が用いられるなど、依然としてマンガン触媒の研究開発が行われている[19]

また、後述(#生理作用)する通りマンガン化合物は、生体内において酵素やその補因子としても用いられており、様々な反応を触媒する[20]

錯体

マンガンイオンは通常、二価、三価、四価を取り、それぞれd電子数が異なるため、多様な性質を持つ[21]

Mn2+はd5の電子配置をとり、高スピン[注 2]の場合、5個のd軌道いずれも不対電子が占めるため、正八面体構造や正四面体構造といったいかなる幾何学的配置をとっても結晶場安定エネルギーは0となり、錯体形成には不利である[21]。実際、アーヴィング・ウィリアムス系列において、マンガンは下位に位置付けられているなど、マンガン(II)錯体は比較的不安定であるいうことがわかる[21]。なお、Mn2+は先述の通り、通常、高スピンd5の電子配置を取りやすいが[注 2]、これはスピン選択律によりd-d遷移が禁制遷移となるため、可視光領域の波長に明瞭な光吸収を持たない[21]。実際、Mn2+のアクア錯体は無色~薄桃色の呈色を示すことから、酸化還元滴定の指示薬として用いられることが多い[21][2]

Mn3+はd4の電子配置をとるが、高スピン[注 2]の場合、ヤーン・テラー効果により安定化が生じることで正八面体構造をとる[21]。ヤーン・テラー効果により、t2g軌道とeg軌道はそれぞれ分裂を起こし、d-d遷移による可視光領域の吸収帯も分裂を起こす[21]。また、Mn3+を中心金属とする光学活性な錯体はアルケン不斉酸化反応に用いられる[12]。この反応において、Mnはヨードシルベンゼン次亜塩素酸ナトリウムといった酸素供与体と反応して5価のオキソ錯体を形成し、酸素原子を仲介することでアルケンからエポキシドを与える[12]。光学活性な錯体を用いるとこの反応で得られるエポキシドは光学活性となることが知られており、エポキシドを用いた様々な不斉合成反応に応用されている[12]

一方、Mn4+はd3の電子配置をとるため、正八面体型結晶をとることで大きな結晶場安定化エネルギーが得られるため、錯体は正八面体となりやすい[21]

歴史

マンガン(英語: manganese)の名前の由来は複雑である。古代、2種類の黒色鉱石がマグネテス(ギリシャマグネシアトルコマニサか)という地にて発見された[22]。これらはどちらも、原産地からマグネス(magnes)と命名されたが、異なる「性別」の鉱石であるとし、その性質の違いを説明した。「雄」のマグネスは鉄を引き寄せる性質(磁性)を持ち、現在では磁鉄鉱英語: magnetite)として知られ、マグネットの語源となった。一方で、「雌」のマグネスは鉄を引き寄せなかったが、ガラスを脱色するという性質をもっていた。この鉱石は後にマグネシアと呼ばれ、軟マンガン鉱二酸化マンガンとして知られている[23]。16世紀になると、二酸化マンガンはマンガンサム(英語: Manganesumと呼ばれるようになったが、これは錬金術師とガラス職人らが黒色鉱石のマグネシア・ニグラと白色鉱石のマグネシア・アルバを区別する必要が出てきたためであるとされる。なお、両者はどちらもガラス製作に有用である。 イタリアの科学者ミケーレ・メルカティはマグネシア・ニグラをマンガニーサ(英語: manganesa)と呼び、それから単離された金属マンガンは後にマンガニーズ(英語: manganeseドイツ語: mangan)と呼称されるようになった。マグネシアという名前は次第に白色のマグネシア・アルバを指す言葉となり、これから単離された金属元素はマグネシウムと呼ばれるようになった[24]

フランスラスコー洞窟で発見された一部の壁画では、マンガン由来の顔料が用いられている[25]

二酸化マンガンは自然界に豊富に存在するため、顔料として古くから用いられてきた。フランスガルガ洞窟には3万年から2万4千年前に作られた壁画があり、それには鉱物由来の二酸化マンガン顔料が見つかっている[26]。また、フランス ラスコー地方のラスコー洞窟クロマニョン人によって二酸化マンガンを用いた壁画が描かれ、この壁画は現在、世界遺産ヴェゼール渓谷の先史的景観と装飾洞窟群の一つに登録されている[2]

エジプトローマのガラス職人らは、ガラスを着色したり、脱色したりするためにマンガン化合物を多用したとされ、中世から近世にかけてヨーロッパにおいて利用された痕跡が見つかっている[27][28]。ガラス製造に二酸化マンガンが多用されていたことから、二酸化マンガンは初期の錬金術の実験で利用されていた。錬金術師イグナティウス・ゴットフリート・カイムやヨハン・グラウバーにより、二酸化マンガンは過マンガン酸塩に変換可能であるということを発見し[29]、またカール・ヴィルヘルム・シェーレ(C. W. Scheele)は塩酸を二酸化マンガンで酸化することにより塩素の生成に成功した[30][31]。シェーレらは軟マンガン鉱が未発見の元素を含んでいるということを予言し、実際ヨハン・ゴットリーブ・ガーン(J. G. Gahn)によって金属マンガンは1774年にはじめて単離された[32]。ヨハン・ゴットリーブ・ガーンは粉末状の軟マンガン鉱を木炭粉と油でよく混ぜ強熱する吹管分析により初めてマンガン単体の単離に成功した[33][34]。イグナティウスも同様に金属マンガンの単離に成功したという説があるが定かではない[35][36]

マンガンを最初に単離したとされるヨハン・ゴットリーブ・ガーン

ギリシャで産出された鉄鉱石はマンガンを含んでおり、この微量のマンガンの存在によりスパルタ鋼は非常に硬質になっているのではないかと考えられるようになり、19世紀初頭にはマンガンは製鋼に使用され始めた[37]1816年にはマンガンを含んだ鉄は硬質になるが、脆くはならないということが報告された。1837年にはイギリスのジェームス・クーパーにより、鉱山労働者のマンガンへの大量の曝露とパーキンソン病の関連性が指摘された[38][39]1912年アメリカで電気化学的変換コーティングにより銃器を錆と腐食から保護する特許が付与され、以降、現在に至るまでこのプロセスは広く用いられている[40]

1868年(明治元年)には二酸化マンガンを正極に用いたルクランシェ電池フランスジョルジュ・ルクランシェ(Georges Leclanche)により開発された。ルクランシェ電池は開発当初、最も利用されていた電池であったとされ、これを改良する形でドイツのカール・ガスナーがマンガン乾電池を開発した[34]。このような含マンガン電池の開発により、二酸化マンガンの需要が増加した[41]ニッケルカドミウム電池リチウム電池の開発に成功するまでほとんどの電池にはマンガンが含まれていた[42]。天然に産出する二酸化マンガンは不純物が多いため、マンガン乾電池アルカリマンガン乾電池といった電池に使用される二酸化マンガンは工業的に生産されたものが利用される[42]。マンガン乾電池は一次電池の利用が減少した現代においても頻繁に利用されている[43]

1880年(明治13年)に出版された中川謙二郎著『訓蒙化学』には「マンガニーズ」として掲載され、コレラが流行した際に「マンガン酸類」と「過マンガン酸塩類」が消毒液として用いられたことが記されているほか、「マンガニーズ」を「黒色酸化マンガン」から単離する方法(ガーンが用いた手法)が紹介されている[43]

用途

金属マンガンは脆すぎるため、単体が金属材料として用いられることはほとんどなく、合金として、マンガン鋼の原料や、フェロマンガンとして鋼材の脱酸素剤・脱硫黄剤などに使用される[4]。鉄鋼用途で耐磨耗性、耐食性、靭性を付加するために、マンガン合金(フェロマンガン)や金属マンガンとしてマンガン分が添加される[4][44]。実際、1999年(平成11年)に日本国内に輸入された全マンガンのうち、90.8%は金属マンガンとして鉄鋼用に用いられている[44]。その他の用途としては、乾電池やアルミ合金、肥料、農薬、半導体セラミックスなどが挙げられる[44]

一番有名な用途は、二酸化マンガンがマンガン乾電池アルカリ乾電池の正極に使われる。また、リチウム電池の正極にも用いられ、リチウムイオン二次電池の正極材料として研究されている。また、磁性材料として、マンガン、亜鉛を含む金属酸化物であるMnZnフェライトインダクタトランスのコア材料として用いられている。

また、生物の必須元素としても知られており、硫酸マンガンなどの化合物は肥料としても用いられる。

産出

マンガンは地球環境下で酸化物(酸化マンガン)や炭酸塩(炭酸マンガン)として安定で、それぞれ軟マンガン鉱菱マンガン鉱などとして産出される[4]。地殻中の平均含有量は1,000 mg/kgであり、特に鉄鉱石中に多く、その含有量は50~350 g/kgとなっている[45]。また、マンガンは鉱物の風化により河川や海洋に溶解し、これが長い年月をかけて海底に堆積することで、マンガン団塊が形成される[45]

戦前では日本国内でも製鉄用に採掘され、第二次世界大戦中にはおもに乾電池用としてマンガンを採掘する鉱山が多数開発された。とくに後者は日本各地で見られ、京都府中部(丹波地方)を中心に近畿地方に零細鉱山が集中して存在していた。しかし、1950年代以降の鉱物資源の輸入自由化によって激しい競争に晒され、すべての鉱山が1970年代までに閉山に追い込まれた。前者は東日本に多く(北海道上国鉱山、同大江鉱山など)、規模が比較的大きいことから1980年代まで存続したが、現在では岩手県野田玉川鉱山において宝飾品材料としてバラ輝石が限定的・間欠的に採掘されているほかは皆無である。

この金属は、日本国内において産業上重要性が高いものの、産出地に偏りがあり供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60分を国家備蓄すると定められている。

深海底には、マンガン、鉄などの金属水酸化物の塊であるマンガン団塊(マンガンノジュール)として存在しているが、コストの関係で試験的な採取に留まっている。

国別の産出量

2011年における国別の産出量は以下の通りである[46]

順位 マンガン鉱
の産出量
(万トン)
全世界での割合(%)
1 南アフリカ共和国 340 21.3
2 オーストラリア 320 20.0
3 中華人民共和国 280 17.5
4 ガボン 185.8 11.6
5 ブラジル 120.9 7.6

おもな化合物

人体への影響

摂取基準

マンガンの食事摂取基準
(日本、2015年)[47]
属性 目安量(AI)
(mg/日)
耐容上限量(UL)
(mg/日)
男性(18歳以上) 4.0 11
女性(18歳以上) 3.5
マンガンの食事摂取基準
(米国、2001年)[48]
属性 目安量(AI)
(mg/日)
耐容上限量(UL)
(mg/日)
NOAEL
mg/日
男性(19歳以上) 2.3 11
女性(19歳以上) 1.8
女性(妊娠) 2.0
女性(授乳) 2.6

生理作用

マンガンはヒトを含む多くの動植物の必須微量元素(成人一人当たり12~20 mg存在)であり、様々な酵素の補因子酵素としての役割を担っている[49]。通常、マンガンは体内組織において一定の濃度を保つようにメカニズムが働いており、肝臓膵臓腎臓といった臓器においては高い濃度で検出される[49]。一日の食事のマンガン必須摂取量は約2~3mgであるとされ、厚生労働省公表の第6次改定「日本人の栄養所要素」は成人男性で4.0 mg/day、成人女性で3.0~3.5 mg/dayを摂取基準とし、許容上限摂取量を10 mg/dayに設定している[49]。摂取は経口や吸引で行われ、腸において体内に吸収された後、肝臓を介して皮膚組織や血液筋肉脊髄といった広範囲に配分され、主に胆汁経由(少量では尿や母乳、汗)で排泄される[49]。欠乏すると成長異常、平衡感覚異常、疲れやすくなる、糖尿病インスリンの合成能力が低下するため)、骨の異常(脆くなるなど)、傷が治りにくくなる、生殖能力の低下や生殖腺機能障害などが起こる[49]。しかしマンガンは川など天然の水などに含まれ、上水道水としては多すぎてむしろ除去する場合があるなど、普通に生活していてマンガンが不足することはまずない。過剰に摂取すると、仮面様顔貌、筋硬直、振戦、精神障害などマンガン中毒に近い症状が現れることが報告されている[49]。詳細はマンガン欠乏症を参照。

アルギナーゼの分子構造。黄色の原子がマンガン原子である。

生体内では酵素の一部として、様々な反応を触媒していることがわかっている[50]ムコ多糖コンドロイチン硫酸など)の形成段階に作用するガラクトシルトランスフェラーゼやミトコンドリア内でピルビン酸のカルボキシル化を触媒するピルビン酸カルボキシラーゼアルギニンからオルニチン尿素を生成する反応を触媒するアルギナーゼなどはマンガンを含む酵素である[50]。また、その他にある種の脱カルボキシラーゼ、ヒドラーゼ、キナーゼといった酵素の補因子としても用いられている[20]

中毒

労働安全衛生法第2類特定化学物質に指定されている。

マンガン鉱石精錬所作業員・れんが職人・鋼管製造業者など、過剰に曝露されるとマンガン中毒を起こす。

マンガンは脳への透過性が高く、特に大脳基底核へ容易に集中しやすい[20]。そのため、マンガン中毒の症状としては頭痛・関節痛・易刺激性・眠気などを起こし、やがて情動不安定・錯乱に至る[20]。また、パーキンソン症候群ジストニア・平衡覚障害を引き起こすほか、無関心・抑うつなどの精神症状も報告されている[20]。マンガン曝露から離れれば、3–4か月で症状は消える。

酸素欠乏

マンガンは脱酸素剤として使用されるように強い酸素吸着作用があるため、十分に酸化されていない天然マンガンが多い地層の洞窟や井戸などでは、貧酸素化した地下水を経由して内部の空気の酸素が欠乏し、そこへ十分な換気を行わず奥へ入った場合は酸素欠乏症になり最悪の場合死亡するおそれがある。また肥料の撒きすぎによる土壌の酸化などで土中のマンガンが還元されたり、湖などの水底に溜まったマンガンが貧酸素水などで還元され、結果としてマンガンが酸欠状態を保持したり流れに乗って移動させてしまう現象などもある。

法規制

以下に2008年平成20年)現在の日本国内における金属マンガンおよびその化合物の法規制について記す[51]

法律 法規区分 該当物質
化学物質排出把握管理促進法 第一種指定化学物質 マンガン及びその化合物
消防法 危険物第一種(酸化性固体) 過マンガン酸カリウム
危険物第二種(可燃性固体) 金属粉
労働基準法 疾病化学物質 マンガン及びその化合物
労働安全衛生法 特定化学物質等第二類物質 マンガン及びその無機化合物(塩基性酸化マンガンは除く)
名称を通知すべき危険物及び有害物 マンガン及びその化合物
管理濃度:1 mg Mn/m3 マンガン及びその水溶性化合物
下水道法 水質基準:10 mg Mn/L マンガン及びその水溶性化合物
船舶安全法 酸化性物質 過マンガン酸カリウム
自然発火性物質 マンガンを含む金属触媒
航空法 酸化性物質類 過マンガン酸カリウム
自然発火性物質 マンガンを含む金属触媒
港則法 酸化性物質 過マンガン酸カリウム
自然発火性物質 マンガンを含む金属触媒

参考文献

脚注

注釈

  1. ^ 梅津によるとδ型は高温条件下において存在する相であるため、強磁性や反強磁性であるとも報告されている[4]
  2. ^ a b c マンガン錯体はほとんどが高スピン配置をとることが知られている

出典

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関連項目

外部リンク





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