HAT-P-67b は、地球 からヘルクレス座 [ 注 1] の方向に約1,200光年 離れた位置にある連星系 の主星 HAT-P-67A の周囲を公転 している太陽系外惑星 である。連星系全体ではなく、連星系の主星のみを公転しているため、HAT-P-67Ab とも表記される[ 3] 。2025年 5月 時点において正確な半径の測定が行われている、かつ褐色矮星 や自由浮遊惑星 に分類される可能性のある事例を除いて、確実に通常の惑星であると判断できる最も半径が大きい既知の天体 として知られる[ 7] [ 8] [ 9] 。
発見
HAT-P-67b は、アメリカ ・アリゾナ州 のフレッド・ローレンス・ホイップル天文台 とハワイ島 のマウナケア天文台 に設置された小型広視野望遠鏡を用いた太陽系外惑星観測プロジェクトであるHATネット によるトランジット法 での観測から発見された。観測は2005年 と2008年 に行われ、このときに得られた主星の光度曲線 データの解析により、主星 HAT-P-67A に惑星 HAT-P-67b の主星面通過 に起因する周期的な減光が発見され、その後、フレッド・ローレンス・ホイップル天文台の口径 1.2 m 望遠鏡を用いて主星面通過時の測光 観測が行われた。2012年 5月28日 には主星面通過の全体が観測され、2011年 から2013年 にかけての3年間に5回の部分的な主星面通過が観測された[ 4] 。
主星 HAT-P-67A の自転 速度が 35.8 km/s と非常に速いことが知られており[ 2] 、ドップラー分光法 による主星の視線速度 測定から惑星 HAT-P-67b の存在を確認するのは当初は困難であった。2009年 のデータでは、HAT-P-67b の質量 は少なくとも褐色矮星 よりは小さいということまでしか示されなかった。その後の2009年から2012年にかけて行われたW・M・ケック天文台 での視線速度測定の観測結果から、HAT-P-67b の質量は木星の0.59倍未満であると推定された。そして2016年 になり、ドップラートモグラフィー (Doppler tomography) での観測結果から HAT-P-67b の存在が正式に確認され、2017年 に発見を報告する論文がアストロノミカルジャーナル に掲載された[ 4] 。
大きさの比較
木星
HAT-P-67b
HAT-P-67b の主星面通過によって生じる主星の明るさの減光を示した光度曲線データ[ 2]
HAT-P-67b は主星 HAT-P-67A からわずか約 0.06 au (約920万 km)しか離れていない軌道を5日弱の公転周期 で公転 している高温の巨大ガス惑星 であるが、2025年 に公表された研究でその大きさは木星 の2.14倍と推定されている[ 7] 。これは半径が正確に測定されている惑星質量天体 の中では最も大きいものの一つであり、褐色矮星 (一般的に質量が木星の13倍以上)や自由浮遊惑星 の可能性がある天体、および原始惑星系円盤 内で形成されたばかりでありまだ完全に収縮しきっていないという特殊な環境下の事例を除いた、確実に通常の惑星であると判断できる既知の太陽系外惑星の中では最大 となる[ 7] [ 9] [ 注 5] [ 注 6] 。2017年の発見報告の研究では半径は木星の2.085+0.096 −0.071 倍と推定され、この時から既知の太陽系外惑星の中でも最大の大きさを持つ惑星の一つであると考えられていた[ 4] [ 8] 。2024年に公表された研究結果では半径は木星の2.038+0.067 −0.068 倍に下方修正されたが[ 6] 、2025年に観測誤差を小さくするために元々のHATネットによる観測データに加えて、アメリカ航空宇宙局 (NASA) の太陽系外惑星観測衛星 TESS などによる観測結果も解析された結果、HAT-P-67b の半径は現在の値へやや上方修正されることとなり、従来よりも半径の推定値の不確実性 も小さくなった[ 7] [ 9] 。主星から至近距離を公転することで大気の熱膨張 により半径が大きくなる傾向のあるホット・ジュピター でも、その理論上の限界は木星の2.2倍程度で、これ以上大きくなると大気を構成する分子を惑星の重力 で束縛させることが出来なくなることで宇宙空間 への大気の散逸が発生すると考えられており[ 17] 、HAT-P-67b はその限界にかなり近い大きさを持っているということになる[ 9] 。
大きさに対して、質量 は木星の0.45倍程度と推定されており、これに基いて密度 を算出すると HAT-P-67b の密度は 0.061 g/cm3 となる[ 7] 。これは太陽系 内で最も密度が低い惑星である土星 (0.687 g/cm3 [ 18] )の10分の1以下であり、現在知られている太陽系外惑星の中でも特に低密度なものの一つである[ 19] 。このことから、HAT-P-67b はホット・ジュピターの中でも特に低密度な太陽系外惑星を指す分類であるホット・サターン (Hot Saturn) として扱われることがあり[ 2] 、マシュマロ よりも密度が低いと例えられることもある[ 20] [ 21] 。ホット・ジュピターのような高温の巨大ガス惑星となっている太陽系外惑星としては、2023年 に発見された WASP-193b に次いで2番目に密度が低い[ 7] [ 注 7] 。また、0.1 g/cm3 未満の密度しかない、かつ平衡温度(英語版 ) が 1,000 K を超えている太陽系外惑星は HAT-P-67b を含めて4例しか知られていない[ 7] 。
カナリア諸島 のラ・パルマ島 にあるガリレオ国立望遠鏡(英語版 ) による観測で得られた視線速度測定の時系列の解析により、HAT-P-67b の主星面通過によって発生するロシター・マクローリン効果 が検出され、射影された主星の赤道面に対する軌道の傾斜角は 2.2 ± 0.4 度と求められた。これは HAT-P-67b の軌道がほぼ主星 HAT-P-67A の赤道面上にあることを示しており、形成時に原始惑星円盤との潮汐相互作用 によって現在の軌道へ移動した可能性が高いことを示唆している[ 20] 。主星が主系列星 の段階を終えて赤色巨星 へ進化する途中の過程であるため、現在の軌道に位置している HAT-P-67b は1億5000万年後から遅くても5億年後には主星からの強い潮汐力により破壊され、主星へ吸収されるとみられている[ 7] 。
大気
主星からの激しい放射により大気が散逸している太陽系外惑星 CoRoT-2b の想像図。HAT-P-67b でも同様の現象が発生しているとみられている。
HAT-P-67b は木星よりも質量が小さい上、平衡温度が約 2,000 K に達している、さらに主星からの強い放射で大気が非常に膨張していることにより不安定な進化を辿っており、最終的には大気がロッシュ・ローブ を超えて蒸発と宇宙空間への散逸という過程に繋がるとみられている[ 20] [ 22] 。2023年 に公表された大気散逸の理論モデルに基づくと、HAT-P-67b は今後500万年程度という短い時間スケールで急速に大気は失われ、地球の数倍から数十倍程度の質量を持った岩石 質の核 のみが残される可能性がある[ 7] [ 9] [ 23] 。
スペイン にあるカラル・アルト天文台 のCARMENES分光器を用いて HAT-P-67b の大気を調査したデータに基づくと、HAT-P-67b の大気は強く電離 しており、毎秒 1000万 t のペースで大気が宇宙空間へ放出されている可能性が示唆されている。また、この研究では HAT-P-67b の大気中からナトリウム と電離したカルシウム が検出されている。電離されたカルシウムは通常、高温に加熱されている惑星に見られる特徴であるが、 HAT-P-67b のスペクトル では特に顕著に検出された[ 21] [ 24] 。
スペクトルのデータからは水素 とヘリウム に対応する吸収線 も示されており、これは通常、大気の一部が宇宙空間に散逸していることを示す兆候である。HAT-P-67b の場合、これらの吸収線の信号は主星面通過の前後に検出されたため、HAT-P-67b からはるか彼方にガスが散逸している可能性が示された[ 21] [ 24] 。別の研究チームは、アメリカ・テキサス州 のホビー・エバリー望遠鏡 を用いて、複数年に渡る HAT-P-67b の分光 観測を行った。その結果、HAT-P-67b に対して先行する方の空間に顕著なガスの尾、そして逆に後行する方の空間に著しく薄いガスの尾が存在していることが観測され、これは主星のある方向を向けている惑星の昼側においてより強い大気の流出が発生しているという直接的な証拠であると解釈されている[ 2] 。さらに別の研究チームは、HAT-P-67b の主星面通過が発生した後に取得した、主星 HAT-P-67A の多数のスペクトルを平均化させた結果、明瞭な吸収線の信号がみられることを発見した。この研究では事実上、惑星の半径であると見做せる有効半径を木星の6倍と推定し、HAT-P-67b の大気が激しく蒸発していることを示した[ 20] 。
脚注
注釈
^ a b 赤経 ・赤緯 より推定[ 1] 。
^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
^ a b c 半径を基に、扁平率 を考慮しない(形状が完全な球形)と仮定した時の計算値。
^ 出典での表記
log
g
[
cgs
]
=
2.32
{\displaystyle \log g[{\mbox{cgs}}]=2.32}
に基いて、102.32 ≒ 208.93 cm/s2 = 2.0893 m/s2
^ HAT-P-67b よりも半径が大きいとみられる惑星質量天体で有名な事例としてはおおかみ座GQ星b (木星の半径の3.7倍[ 10] )や HD 100546 b(木星の3.4倍[ 11] )、ぎょしゃ座AB星b (木星の2.75倍未満[ 12] )などが知られているが、いずれも推定される質量の幅が木星の13倍を超えており、惑星ではなく褐色矮星に分類される可能性がある。また、OTS 44 (木星の3.2 - 3.6倍[ 13] )や TWA 29(木星の2.222倍[ 14] )などは推定されている質量が木星の13倍を下回っているが、いずれも自由浮遊惑星である。おうし座DH星B (木星の2.7倍)は質量を木星の 11 ± 3 倍と推定する研究があり[ 15] 、通常の惑星に分類される可能性もあるが、形成されてから約300万年しか経過していない非常に若い天体である[ 16] 。その他の事例については半径が大きい太陽系外惑星の一覧(英語版 ) を参照。
^ 確実に通常の惑星であると判断できる事例においても、不確実性 の範囲を考慮すると2024年に XO-6b の半径を木星の 2.17 ± 0.20 倍と推定した研究があり[ 6] 、真の値によってはこちらが HAT-P-67b よりもわずかに大きい惑星である可能性がある。
^ 「高温の巨大ガス惑星」という条件に拘らないのであれば、HAT-P-67b よりも低密度の惑星には他にもケプラー51d (0.046 g/cm3 )などが存在している。2017年の研究で算出されたさらに低い 0.052 g/cm3 という値を用いるならば、WASP-193b(0.059 g/cm3 )を下回り、高温の巨大ガス惑星としては最も低密度となる[ 19] 。
出典
^ “Finding the constellation which contains given sky coordinates ”. DJM.cc (2008年). 2025年5月27日閲覧。
^ a b c d e Gully-Santiago, Michael; Morley, Caroline V.; Luna, Jessica et al. (2024). “A Large and Variable Leading Tail of Helium in a Hot Saturn Undergoing Runaway Inflation”. The Astronomical Journal 167 (4). arXiv :2307.08959 . Bibcode : 2024AJ....167..142G . doi :10.3847/1538-3881/ad1ee8 .
^ a b c d e Jean Schneider (2025年4月22日). “Planet HAT-P-67 Ab ”. The Extrasolar Planet Encyclopaedia . 2025年5月27日閲覧。
^ a b c d e Zhou, G.; Bakos, G. Á.; Hartman, J. D.; Latham, D. (2017). “HAT-P-67b: An Extremely Low Density Saturn Transiting an F-subgiant Confirmed via Doppler Tomography”. The Astronomical Journal 153 (5): 211. arXiv :1702.00106 . Bibcode : 2017AJ....153..211Z . doi :10.3847/1538-3881/aa674a .
^ a b c d e f g h “Result forBD+44 2654b ”. SIMBAD Astronomical Database . Centre de données astronomiques de Strasbourg . 2025年5月24日閲覧。
^ a b c d e Saha, Suman (2024). “Precise Transit Photometry Using TESS. II. Revisiting 28 Additional Transiting Systems with Updated Physical Properties”. The Astrophysical Journal Supplement Series 274 (1): 13. arXiv :2407.20846 . Bibcode : 2024ApJS..274...13S . doi :10.3847/1538-4365/ad6a60 . ISSN 0067-0049 .
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r
Wang, Gavin; Balmer, William O.; Pueyo, Laurent; et al. (18 April 2025). "A Revised Density Estimate for the Largest Known Exoplanet, HAT-P-67 b". arXiv :2504.13997v1 [astro-ph.EP ]。
^ a b Terrence Gollata Manitowoc (2018年11月27日). “What’s the diameter of the largest exoplanet found so far? ”. Astronomy . 2025年5月27日閲覧。
^ a b c d e 彩恵りり (2025年5月18日). “惑星「HAT-P-67b」は直径30万6000km 既知で最大かつ理論的な限界に近い惑星 ”. sorae.info . 2025年5月27日閲覧。
^ Sun, Xilei; Huang, Pinghui; Dong, Ruobing; Liu, Shang-Fei (2024). “Observational characteristics of circum-planetary-mass-object disks in the era of James Webb Space Telescope”. Astrophysical Journal 972 (1): 25. arXiv :2406.09501 . Bibcode : 2024ApJ...972...25S . doi :10.3847/1538-4357/ad57c2 .
^ Sissa, Elena (2017). “Observation of extrasolar planets at various ages”. PhD Thesis, University of Padua, 2017 . Bibcode : 2017PhDT.......406S .
^ Currie, Thayne; Lawson, Kellen; Schneider, Glenn et al. (2022). “Images of embedded Jovian planet formation at a wide separation around AB Aurigae”. Nature Astronomy 6 (6): 751–759. arXiv :2204.00633 . Bibcode : 2022NatAs...6..751C . doi :10.1038/s41550-022-01634-x .
hdl :1887/3561800 .
ISSN 2397-3366 .
^ Bonnefoy, M.; Chauvin, G.; Lagrange, A.-M. et al. (2014). “A library of near-infrared integral field spectra of young M–L dwarfs”. Astronomy and Astrophysics 562 : A127. arXiv :1306.3709 . Bibcode : 2014A&A...562A.127B . doi :10.1051/0004-6361/201118270 .
ISSN 0004-6361 .
^ Tu, Zhijun; Wang, Shu; Chen, Xiaodian; Liu, Jifeng (2025). “Three Brown Dwarfs Masquerading as High-Redshift Galaxies in JWST Observations”. The Astrophysical Journal 980 (2): 230. arXiv :2501.16648 . Bibcode : 2025ApJ...980..230T . doi :10.3847/1538-4357/adaf9f .
^ Zhou, Yifan; Herczeg, Gregory J.; Kraus, Adam L.; Metchev, Stanimir; Cruz, Kelle (2014). “Accretion onto Planetary Mass Companions of Low-mass Young Stars”. The Astrophysical Journal Letters 783 (1): L17L.. arXiv :1401.6545 . Bibcode : 2014ApJ...783L..17Z . doi :10.1088/2041-8205/783/1/L17 .
^ Herczeg, Gregory J.; Hillenbrand, Lynne A. (2014). “An Optical Spectroscopic Study of T Tauri Stars. I. Photospheric Properties”. The Astrophysical Journal 786 (2): 97. arXiv :1403.1675 . Bibcode : 2014ApJ...786...97H . doi :10.1088/0004-637X/786/2/97 .
^ Hou, Qiang; Wei, Xing (2022). “Why hot Jupiters can be large but not too large”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 511 (3): 3133–3137. arXiv :2201.07008 . doi :10.1093/mnras/stac169 .
^ Williams, David R. (2024年1月11日). “Saturn Fact Sheet ”. NASA Goddard Space Flight Center . NASA. 2025年5月26日閲覧。
^ a b “Planetary Systems Composite Data ”. NASA Exoplanet Archive . IPAC/Caltech. 2025年5月27日閲覧。 表の左上にある「Select Columns」内の「Planet Parameters」の節にある「Planetary Density」の項目にチェックを入れると表に惑星の密度の値が表示される。
^ a b c d Sicilia, D.; Scandariato, G.; Guilluy, G. et al. (2024). “The GAPS Programme at TNG: LVI. Characterisation of the low-density gas giant HAT-P-67 b with GIARPS”. Astronomy and Astrophysics 687 : 27. arXiv :2404.03317 . Bibcode : 2024A&A...687A.143S . doi :10.1051/0004-6361/202349116 . A143.
^ a b c
"CARMENES studies the puffiest known exoplanet atmosphere" (Press release). Calar Alto Observatory . 14 July 2023. 2025年5月27日閲覧 。
^ Batygin, Konstantin; Stevenson, David J.; Bodenheimer, Peter H. (2011). “Evolution of Ohmically Heated Hot Jupiters”. The Astrophysical Journal 738 (1): 1. arXiv :1101.3800 . Bibcode : 2011ApJ...738....1B . doi :10.1088/0004-637X/738/1/1 .
^ Thorngren, Daniel P.; Lee, Eve J.; Lopez, Eric D. (2023). “Removal of Hot Saturns in Mass–Radius Plane by Runaway Mass Loss”. The Astrophysical Journal Letters 945 (2): 8. arXiv :2211.11770 . Bibcode : 2023ApJ...945L..36T . doi :10.3847/2041-8213/acbd35 . L36.
^ a b Bello-Arufe, Aaron; Knutson, Heather A.; Mendonça, João M. et al. (2023). “Transmission Spectroscopy of the Lowest-density Gas Giant: Metals and a Potential Extended Outflow in HAT-P-67b”. The Astronomical Journal 166 (2): 69. arXiv :2307.06356 . Bibcode : 2023AJ....166...69B . doi :10.3847/1538-3881/acd935 .
関連項目
外部リンク