出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/01 00:31 UTC 版)
BALMUDA Phone(バルミューダフォン)は、2021年(令和3年)11月26日にバルミューダ株式会社が発売した5Gスマートフォンである。従来のスマートフォンに対するアンチテーゼとして開発され[1][2]、曲線のみで構成されたデザインを特徴とする[3]。キャッチコピーは『コンパクトでエレガント』[4]。
| ブランド | BALMUDA Technologies |
|---|---|
| 製造者 | 京セラ |
| 種別 | スマートフォン |
| 販売開始日 | 2021年11月26日 |
| 通信方式 | |
| 形状 | スレート |
| サイズ | 高さ 123 mm 横幅 69 mm 厚さ 13.7 mm |
| 重量 | 138 グラム |
| OS | Android 11 |
| SoC | Qualcomm Snapdragon 765 |
| CPU | 2.3GHz/1コア+2.2GHz/1コア+1.8GHz/6コア |
| メインメモリ | 6 GB RAM |
| ストレージ | 128 GB |
| バッテリー | 着脱不可 リチウムイオン 2500 mAh 連続通話 約260時間 Qi 無線充電に対応 |
| 背面カメラ | 48 MP, f/1.8 (広角) |
| 前面カメラ | 8 MP |
| ディスプレイ | 4.9 インチ (120 mm) 16:9 (1920 x 1080) TFT液晶 |
| サウンド | 背面モノラルスピーカー |
| 接続 | Wi-Fi 802.11 a/b/g/n/ac (2.4/5GHz) Bluetooth USB-C NFC GPS Mobile FeliCa |
| モデル | X01A |
| コードネーム | KYOTO |
| その他 | IPX4/IP4X 防水・防塵 指紋認証 通知LED(背面) |
| ウェブサイト | 公式サイト |
| 出典 | [5][6] |
2021年11月16日に発表された。生産は京セラ社に委託し、販売はバルミューダ社およびSoftBank社が行う[7][5]。カラー展開は黒と白の2種類[3]。
バルミューダ社はそれまでトースターや扇風機といった調理機器や生活家電製品を独自の高級路線で開発してきた企業であり、同社が初めてスマートフォン市場へ参入したことで大きく注目された[1][7][8]。
2023年5月12日、端末開発は続けていたものの同事業の終了を発表した[9]。
2021年11月16日に行われた本製品の発表会で、バルミューダ代表取締役社長かつチーフデザイナーの寺尾玄は、同社がスマートフォンを開発するまでの経緯を次のように語った[3]。
発表会などで寺尾は本製品のようなスマートフォン(スマホ)を開発した動機を次のように挙げた。
上記のように近年のスマホが画一化・大型化してきたことを懸念し、本製品は個性的かつ小型で持ちやすいスマホを志向した[13]。
2020年にiPhone SE (第2世代)(4.7インチ)が出ていることにはなぜか言及していない。EngadgetはiPhone SEと本製品の比較記事を発表している[14]。
また寺尾は現代社会における人々のスマホへの依存を危惧したといい[10]、次のように述べた[1]。
だがiOSやiPadOSにはスクリーンタイムという使用時間を厳密に把握できる機能があり、時間を制限することも可能である[15]。スクリーンタイムが実装されたのは本機種が発売されるより3年前の2018年9月リリースのiOS 12からである[16]。また、2021年9月リリースのiOS 15からは「集中モード」という通知を管理する機能が追加されており、スマホ依存しないように対処可能である[17]。Androidも2018年11月にリリースされたGoogle謹製の「Digital Wellbeing」という機能で使用制限が可能であり、この機能は本機種特有のものではない[18]。
同社がスマホを開発することを決定したのは2020年の新年だったが、それ以前からも検討は行われていた。開発を担当したモバイルデバイス事業部の高荷隆文は、3年ほど前からデザインスケッチなどを描いていたという[19]。
それまで同社が新製品を開発する際には社内で試作品を作って体験してきたが、スマホではそれが困難であった。製造法を議論しているうちに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大したことで日本国外へ出張に行けなくなった[19]。
国外のODMメーカーとオンラインで打ち合わせを行ったものの、納得のいく製品を作れるかどうか確信を持てなかった。そんな中、2020年夏に京セラ社と商談が進み、製造依頼を決定して具体的な製品仕様を決定していった[19]。
同時に通信事業者(キャリア)とも交渉を行った。複数のキャリア担当者と面会した上で、寺尾が「ソフトバンクの担当者と仕事がしたい」と決断し、ソフトバンク社からの販売が決まった[19]。
当初、モバイル通信規格については4G通信のみに対応させることを想定し、2021年春の発売を予定していた[20]。
しかし、開発途中であった2020年の秋に、ソフトバンク社の常務執行役員である菅野圭吾から「絶対に5G通信に対応してください。そこは譲れません」という強い要望を受けて設計変更を余儀なくされ、5Gに対応させた[注釈 1][20]。そのため、発表・発売が2021年の11月へと遅れた[13][11]。
なお、寺尾は菅野について本製品発売の「キーマン」と評価しており、菅野を「フランクで前向きな姿勢。たまにバルミューダが(菅野に)負けているんじゃないかというぐらい、ポジティブな発言をする。想像はしていたけど、先進的でチャレンジング」と称賛している[20]。
寺尾は特に画面の大きさにこだわった。4.5インチから5.5インチまで[20]、0.1インチ刻みで最適なものを追求した結果、『4.8インチ』が至高であると結論づけた[13][11]。
しかし、上述のとおり途中で設計を変更したため部品が筐体に入りきらなくなり[20]、やむをえず『4.9インチ』に変更したという[13][11]。寺尾は「各所のアールやカーブも調整し、中のレイアウトも変更した。3カ月はゆうに掛かった」と苦労を語っている[20]。
開発担当者の高荷は「iPhone 3GS などの初期のスマホは、手に馴染むサイズだった。それがこの10年でどんどん大きくなり、道具としての一線を超えたのではないか。スマホとして使う最適なサイズを分析した」などと語った。なお、企画段階ではカメラを搭載しない案もあったという[19]。
なお、開発途中の2020年11月に『iPhone 12 mini』が発売された(iPhoneに小型の『mini』シリーズが新たに追加された)際には、寺尾はすでに本製品を開発中であったため「ドキッとした」が、その画面サイズは5.4インチと、本製品よりもやや大きかったため、「ギリギリいける」と安堵したという[12]。
本製品の基本性能は当時のスマホとして中堅程度(ミドルレンジ)であるが、価格は10万円以上と、性能に対して比較的かなり高額である[13][2][11]。
理由について寺尾は、独自のアプリケーションなどのソフトウェアの開発費が想定以上となったほか、画面が直線を含まない特殊なデザインであるため独自の部品を開発したことなどがコスト増加の要因だと説明した[13][11]。
バルミューダ社は次のように提唱している[4]。
私たちがBALMUDA Phone をお勧めしたい一番の理由は、そのサイズにあります。当然ながら画面は見るものなので、大きい方が便利です。しかし、スマートフォンは同時に、手で持って使うもの。持ちやすいサイズ。こちらも同様に重要な価値だと考えます。
本製品の画面サイズは4.9インチと、当時のスマホとしては珍しい小ささである。同時期の小型スマホとして代表的な『iPhone 13 mini』(5.4インチ)よりも小さい。重量も138グラムと、5G通信対応スマホとしては世界でも最も軽い水準である[1]。
同社はまた次のように提唱している[4]。
私たちの手は、板状のものを持つために造られていません。古来から人類の手は多くのものを持ってきました。木の枝を握ったり、トマトを摘んだり。
BALMUDA Phone は、自然に手に馴染む形状を目指してデザインされました。
本製品は『曲線だけで構成された唯一のスマートフォン』をうたい、筐体には背面から側面、前面、画面に至るまで、直線を一箇所も含まないことを特徴としている[13]。画面や筐体の縁すら微妙な曲線を描いており、直線的な部分がみられない[1][2]。
寺尾が「十数年ぶりに自らデザインを手掛けた」という[21]。デザイン作業には1年半もの期間を費やし、量産設計を担った京セラとさまざまな議論を重ねた末に実現した[3]。
筐体の背面はカメの甲羅のようなドーム型の形状で、2008年の『iPhone 3G』を意識させる大きさとデザインをもつ[1][11]。
背面の素材は合成樹脂だが[10]、ザラつきをもつマット調の素材で滑りづらく[13]、他のスマホとは一線を画する。寺尾は他のスマホに用いられる金属やガラスといった素材について「全てピカピカで、半年、1年使っていくとどんどん劣化していく」と批判した[2]。
本製品は「河原に落ちている石」を意識し、革製品や木材、デニムのように、使い込むうちに経年劣化で味わいが出てくる質感を目指して[13]、シボ加工(梨地)の上にさらに特殊な塗料を重ねた[2][10]。この技術について特許も出願したという[3]。
また、電源ボタン兼指紋認証センサーや、着信などを知らせる通知LED、さらにスピーカーなども背面に設置されている[21]。
本製品は「左手で持ち、右手で操作する」ことを想定して設計されており、寺尾もそのように使っている。左手の人指し指で、背面の左上にある指紋認証つき電源ボタンを押すことが推奨される。これはバルミューダ社内でも意見が分かれたという[12]。
バルミューダ社が独自に開発した本製品専用のアプリケーション(アプリ)を複数搭載している。ホーム画面のランチャーや、カメラ、スケジューラ、計算機、メモ帳および時計などに独自のアプリが用意された[13]。
同社の製品では『体験』の価値を重視していることから、「ハードウェアだけ売るわけにはいかない」としてアプリも開発したという[19]。
例えばスケジューラやメモ帳では、二本の指でピンチイン・ピンチアウトすることにより表示範囲を迅速に調整でき、直感的な操作を可能とした[1]。特にスケジューラは寺尾の一押しで、「スマホの縦表示に合わせてカレンダーの表示様式を変えようと開発した」といい、「来年2月の予定」などを探すのに便利だという[12]。また計算機アプリでは、「億」や「万」といった、日本などの漢字文化圏に適した表示が可能である[13]。
カメラアプリは京セラが開発したものを基本とするが、独自開発した『フードモード』[10]では食品の撮影に注力し、「インスタ映え(美しく目を引く)」する料理の写真を撮影できる[13]。これにはバルミューダの調理家電部門で多くの料理を撮影してきた従業員が開発に携わった[10]。
さらに、専用アプリは発売以後も順次追加していく予定であり、翌2022年までに10種類以上の投入を目指すという[10]。
また、ユーザーインタフェースも独自に設計した。フラッシュライトのON/OFFボタンはバルミューダ社が販売するランタンをモチーフとし、機内モードのボタンはかつての超音速旅客機『コンコルド』のものを取り入れた[21]。
さらに、着信音や目覚ましアラーム音には、寺尾がかつて一緒にミュージシャンを目指した仲間とともに作った曲を収録した。寺尾は「映画館や電車の中でも怒られないような、素敵な音を目指した」と語った[3]。
基本性能(スペック)については、本記事上部の表を参照のこと。
本製品は発表直後から大きな反響を呼んで[1]賛否両論となった[22]。否定的な意見も多かった[2]。
ITジャーナリストの石井徹は、本製品の持ちやすさを高く評価して次のように述べた[10]。
手に取ったときのホールド感はひと味違う。スマホを持った状態で親指を動かしても安定感を持って支えられ、板状のスマホにありがちな、操作中に親指の腹がつる違和感もない。スマホを持ったまま手を振ってみても、手に吸い付くように安定している。この持ちやすさは板状の大画面スマホではなかなかないものだ。
率直に感じたのは「手に取ると印象が変わる」という点だ。手へのなじみ方はごく自然で、ザラザラした背面がホールド感に寄与している。この形状を作るために大きな開発費用をつぎ込んだというなら、悪くはない投資ではないと感じた。
一方で石井は「机に置いたときに安定しない」という欠点を指摘し、「厚みがあるため自撮り棒やカーマウントへの装着も難しいだろう」と述べた[10]。
同じくITジャーナリストの山根博士も、持ちやすさを評価した。山根は「背面のカーブが心地よく手のひらにフィットする」「『小さい端末は他にもある』という声も聞かれるが、『iPhone 12 mini』などの側面が角ばった端末とは全く異なるし、『Rakuten Mini』などの小型軽量で存在感をあまり感じられない製品とも違う」「心地いい感触」などと評した[22]。
ただし一方で山根は背面のプラスチック素材について「ロゴ部分に汚れがたまるのではないか」「色移りするのではないか」などと懸念している[注釈 2]。また「10万円もするのにプラスチック筐体というのは価格相応ではない。『使い続けていくうちに味が出る製品』なら、本革やヴィーガンレザー仕上げにしてほしかった」と述べた[22]。
本製品と同様に「小型で持ちやすい」ことを訴求した同時期のスマホである『iPhone 13 mini』は、販売不振と伝えられていた[13]。
発表時にこれを指摘された寺尾は「(不振といっても)iPhoneシリーズ内では比較的不振というだけで、そもそも莫大な数が売れている[注釈 3][23]。iPhone 13 mini を他のスマホメーカーと比べれば、トップレベルに売れているのではないか」と述べ、小型スマホには一定の需要があるという認識を示した[13]。
ITジャーナリストの篠原修司は発表同日、本製品の防水性能について次のように指摘した[24]。
本製品の電池容量は2500mAhと、同時期のスマホとしては少ない[12]。
石川温はオリジナルアプリを差別化要素に置いている点を評価するとしつつも、日本のメーカーはかつて同じことをしていた(「ガラパゴススマートフォン」を参照)がAndroid OSがアップデートされると、その度に修正を余儀なくされるために修正コストがかかることを指摘し、ホーム画面のユーザーインターフェースをオリジナル化しても、Android OS自体がガラリと変わると、とんでもない修正を余儀なくされるため「Googleに振り回されるより、素直にGoogleアプリを載せておいた方がコストもかからないし、ユーザーとしても他のスマートフォンから乗り換えても、すぐに使えるという安心感がある」と評している[25]。
本製品は2021年現在のスマホが画一化しており、iPhone 13 miniと比較しても小型だと売りにしているが、石川温は「Andoridに目を向ければ、それこそ1万円台から20万を超えるもの、小さな画面から大きな画面、折りたたみなど選択肢は豊富に存在する」と評している[25]。どれも同じに見えると語る寺尾社長はSamsung Galaxy Foldなどの存在に全く言及していない。
開発推進者である寺尾のスマホの使い方としては、「Microsoft Teamsによる商談や電子承認」「プライベートの電話、メッセージ、ウェブブラウザ、スケジュール管理、目覚まし時計、計算機などをフルに使っている」という[12]。
ITジャーナリストの盛田諒はこれについて、「SNSやゲームについては言及していない。確かにそれなら2500mAhでも夜まで持ちそうだ」「私のように常に片手にスマホを持ち、『Twitter』や『Pikmin Bloom』で激しく電池を消費する者は対象から外れそうだ」と分析した[12]。
また、本製品を愛用しているはずの寺尾社長のTwitterの発信元は「Twitter for iPhone」となっており、iPhoneからつぶやきを投稿している[26]。
石井徹は発売前の11月18日、電池容量について次のように批判した[10]。
石井徹は同18日、上述のとおり持ちやすさを評価した上で、本製品が「体験価値のわりに高価である」として、次のように批判した[10]。
ITジャーナリストの石野純也は発売前の11月20日、本製品の価格について次のように批判した[2]。
フリーライターの菊池リョータは2021年11月30日、本製品について次のように批判した[27]。
一方で石野は、バルミューダが発表した売り上げ予想高について、「話題性の大きさに反し、販売台数目標は現実的だ」と考察した(予想販売数:約3万台、売り上げ:約30億円)。本製品は大手通信会社(キャリア)のソフトバンクも正式に販売することから、「発売できた時点で一定の成功を収めた」「京セラが端末を製造していることも、キャリアに納入するための布石と見ていい」と分析した[2]。
石野は「寺尾氏は自社を『整列できない、列からはみ出してしまうバルミューダ』と評していたが、その言葉とは裏腹に、本製品のビジネスモデルは手堅くまとめている」と評価した[2]。
同じくITジャーナリストの山口健太も同20日、「大手キャリアが販売することで、安定的な売り上げが期待でき、またアフターサポートや信頼性の面で有利である。新規参入する企業としては、キャリアに採用された時点である程度は成功したといえる。」と考察している[8]。
ITmediaのライターの古田拓也は「バルミューダの携帯端末関連事業は2021年11月から12月末にかけて27億円ほどの売上高を見込んでいる。バルミューダフォンの端末は1台10万3000円であることから、ここから2万6000台程度の出荷を見込んでいることが分かる」「1カ月半ペースで、スマホ全体では単純計算で368万台が出荷される。つまり国内シェアの0.7%で、1000人中993人が『いらない』と思っても、残りの7人が『欲しい』といってくれたら目標を達成できる」と超ニッチな需要を目指した商品であると考察している[28]。
bizSPA!フレッシュのライターである関谷信之は寺尾の「この会社はしばらく潰れないだろうと感じた。そこで自分が一番やりたかったことを振り返ってスマホを開発した」という発言に「報道機関へのリップサービスもあるのでしょう。しかし、バルミューダは2020年12月に東証マザーズに上場したばかり。上場したての企業経営者がこのような発言をしたら、株主は不安になるのではないでしょうか。製品・ブランド・プロモーション面でバルミューダをみてきました。順風満帆だったバルミューダに、暗雲が漂ってきたように思います。」とブランドイメージを傷つけていると評した[29]。
本製品の発表後からバルミューダ社の株価が急落し、2021年11月16日の発表時点では5,450円あったが2週間後の12月1日には900円安の4,550円となり、1年後の2022年11月16日時点では2,730円、さらにスマホ事業の撤退を発表した2023年の11月16日時点では1,570円、その後、株価は基本右肩下がりになっており、2024年の最終取引日(12月30日)の終値は900円を切る837円まで値を下げている[30]。これについて複数のメディアは本製品の発表による市場の失望感の現れが原因にあると報じている[31] [32] [33] [34]。さらに、2021年を皮切りに営業利益が大幅に減少へ転じており、新規客を掴みたいところだがスマホ事業の失敗が尾を引いて広告宣伝費の減少を招いているとされる[35]。
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