「中編」に、仮定を2つ以上置いたら背理法は使えないのではないかと書いた。
その実例になりそうなものとして、「死刑囚のパラドックス (抜き打ちテストのパラドックス)」というのを思いついた。弊ブログで、何度となくネタにしている論理パズルである。
その解釈についても何通りか述べているが、まずは復習のつもりでガッシュ伯爵を主人公として再話してみる。
大賢は大愚に似たり。実はガッシュ伯爵もまた "完全に論理的な存在"(Perfectly Logical Being:PLB) であったのだ。そして「前編」で述べた推論にひそむ論理的な弱点に気づいたゆえに、自分の配偶者を処断しなかったのだ。
その結果、王様はガッシュ伯爵を投獄し、次のように告げた。
「お前の処刑は、1週間後の日曜日までに行われる。だが、いつ死刑が執行されるかは知らされない」
有名なパラドックスなので、ガッシュ伯爵はそれを知っていた。
もし最終日の日曜日までに処刑が行わていなければ、王様の言葉の後半に反して、いつ処刑が行われるかがわかってしまうから矛盾である。よって日曜日に死刑を執行することはできない。

すると、もし土曜日までに死刑が執行されなければ、日曜日に死刑執行できないのだから、土曜日に死刑が執行されることがわかってしまう。よって土曜日に死刑を執行することもできない。

するとagain、もし金曜日までに死刑が執行されなければ、土曜日にも日曜日にも死刑執行できないのだから、金曜日に死刑が執行されることがわかってしまう。よって金曜日に死刑を執行することもできない…

かくして月曜日から日曜日まで、どの日に死刑を執行しても王命には矛盾が生じる。
よって死刑は執行できないことになる…と。
だが、このようにして死刑の執行日を予想することは不可能である。弊ブログ過去記事においては伏せたトランプの比喩を用いてそのことを示そうとしたことがあるし(2015/3/28付 他)、ウィキペディアには「抜き打ちテストのパラドックス」として項目が設けられており、1943年ないし44年にスウェーデン放送会社が告知した民間防衛練習の例を出し「当日の朝になっても誰もそれを予言することができなかった」と書かれている。
ここで金曜日を例にとると、日曜日に死刑が執行できないことにより否定されるのは、土曜日に死刑が執行されるという仮定なのか、金曜日に死刑が執行されるという仮定なのか特定できないという疑念が生じる余地があるのだが…


この疑念は「中編」で述べた、「大臣4人のケース」の「1日目」において、大臣4が配偶者を断罪しなかったことにより否定されるのは、大臣3の配偶者が潔白だったという仮定なのか大臣2の配偶者が潔白だったという仮定なのか特定できない、ということに似てはいまいか。


「土曜日に死刑が執行される」および「大臣3の配偶者が潔白」という命題は、前段の「日曜日には処刑が執行できない」、「大臣4は配偶者を処断しなかった」によってすでに否定されている、という反論が出るかもしれない。
しかしそれらに対しては「処刑まで残り2日のケースと3日のケースは別の事象」「大臣3人のケースと4人のケースは別の事象」「だからそれぞれ前者の結論を、それぞれ無検討に後者のケースに引き継ぐことは不可能ではないのか」という再反論だって可能のように思われる。
「死刑囚のパラドックス」に対する新しい解釈、できちゃった。
もし王様が用意した模範回答が「前編」(元ネタは野崎昭弘氏『詭弁論理学』「40人の貴族とその従者」)で述べたようなものであって、ガッシュ伯爵が以上のような弁明を行ったとしたら、王様は納得するだろうか?
ところで『詭弁論理学』には「死刑囚のパラドックス」も載っているのだ(旧版P177~)。
しかし『詭弁論理学』には、「死刑囚のパラドックス」と「40人の貴族とその従者」の相似点に関する言及はなかった。野崎先生の「死刑囚のパラドックス」に関する解釈は、私が以前に書いた「Aと考えればAの否定」に近いものだった。
ある問題と別の問題の、構造の相似というのは案外難しいのだ。つか私は数学でいう「同型」や「同値」という概念が、よくわかっていない。
そして「死刑囚のパラドックス」と「王様と7人の大臣と不貞なその配偶者」は、よく考えるとやはり異なる問題なのだ。
「死刑囚のパラドックス」において死刑執行日を予想することは不可能だが、「王様と7人の大臣と不貞なその配偶者」において不倫をしている配偶者が1人以上7人以下のすべてのケースで、大臣が自分の配偶者が不倫をしているかしていないかを判断する方法があることを、エントリーを書いているうちに思いついた!
書いているうちにそれまで思いつかなかったことを思いつくことがよくあるというのは「中編」にも書いたけど、「後編」書いちゃったよ。どうしよう?
「補遺」として、この項もう1回続けます。
追記:
「補遺」書きました。
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