昨日のエントリー の続きです。すみません、ラストの予告と異なり文字起こしは長くなるので断念しましたが、ペシャワール会報からいくつか引用・紹介します。
ペシャワール会報No.150(2021年12月8日:最新号)P2~に掲載されたPMS副院長/ジャララバード事務所所長ジアウル・ラフマン氏の「事業再開への道―八月の政変以降の活動報告」という記事によると、米国の行き掛けの駄賃とも言うべき経済制裁による預金封鎖のため、PMS(ペシャワール会医療サービス)は工事現場で働く日雇い作業員の賃金が払えず、すなわち灌漑用水路のメンテナンスができず、たいへん苦労したという。
この情勢下で経済制裁って、何のつもりだろう? 現地の住民を苦しめる以外に、何の意味もないのではなかろうか?
もちろん報道されるようにタリバンが女性の教育や社会進出を制限しているとしたら、それは批判されるべきだし、またタリバンが旧政権や米軍への協力者に度を越した報復を行っているとしたら、決して許されることではない。
しかし経済制裁が、そうした行為への打撃や牽制になっているようには思えない。その意味で米国による経済制裁は、市民に対する誤爆や誤射と変わりのないもののように感じられる。
また同会報P5~のPMSチーフエンジニア ディダール・ムシュタク氏の記事「地域住民のためのインフラ事業」によると、クナール州とそして隣接するナンガラハル州に進攻してきたタリバンの河川局責任者(というポジションがあるのか!)と会談し、PMSの活動内容を説明したところ「彼らは私たち(PMS)の活動に深く感動し、たいへん喜」んだという。そしてタリバンの担当部局はPMSへの協力を約束し、安全を保障すると言ったという。
数々の問題を抱えていると言われるにせよ、タリバンがアフガニスタン国民、少なくとも地域ごとの有力者の支持を多く集めている以上は、彼らもやはり理性というか合理的判断力を持ち合わせた組織であるに違いない。
これはペシャワール会報No.143(2020年4月8日)P18に掲載されていたアフガニスタン全土の略図だ。多民族国家である同国の民族・部族の分布を示すための図だが、PMSの活動範囲を示すために引用した。
一国が一画面に収まる大変大きな縮尺による略地図とはいえ、PMSの活動範囲の狭さが目につく。PMSの活動範囲はクナール河という河川流域の渓谷に限られるのだ。
これはペシャワール会報No.148(2021年7月28日)P9に掲載された2020年度の収支報告書である。予算規模は約5億7千万円。収入の大半は会費・寄付であり、ついで書籍売上などの事業費である。

簡単のため一人月=100万円という数字を採用すると570人月。戯れに前回の拙エントリーで引用した佐藤正久参院議員のツイートに基づき8万人を住民投票権獲得のため必要な3ヶ月間動員するという数字を用いて単純計算すると24万人月というとんでもない数字が出てくる。工数と生活費は違うけど、オーダーを合わせられればいいってことで。
240,000(人月)÷570(人月)≒421! PMSが約420年も活動できるではないか!
一言言っていいですか? ばーかばーかばーか!
中村哲医師の1984年から2019年まで35年にわたるパキスタンとアフガニスタンにおける活動のうち、中村医師の名を高からしめた用水路開削に着手したのは2003年から、すなわち灌漑事業は後半16年の事跡である(それに先立ち2000年から井戸掘削事業を行っている)。
ただ、こうして脱色した数字を見ていると、気づかなかったことに気づくことがある。PMSは創業一代目の中小土木事業者という見方だって、できてしまうのだ。
もう一言言うと、ペシャワール会報の記事に描かれる現地作業の様子は、私が日雇いアルバイトで見知っている現場と差がないように感じられる。
もちろん必要とされる時期に必要とされる場所で(そしてそれらは困難極まりない時と場所であった)起業されたからこそ、多くの人を救うことができたという点で傑出しているのだが。
だがあくまで事業という角度から見ると、誰かが先鞭をつけビジネスモデルとして成立することが確認された業種に、別の誰かが新規参入したってかまわないわけだ。
アフガニスタン全土では、用水路開削により耕地化可能な場所は、たくさん残っているだろう。
中村医師が事業を思い立ったのは気候変動による干ばつのため耕地が荒廃したためだから、「再耕地化」と言うのがより正確かもだが。
そしてアフガニスタンの治安悪化は、耕作を放棄せざるを得なかった農民がやむなく軍閥やゲリラに参加したという要因も大きい。彼らを帰農させることは、治安の改善に直結する。
すしざんまい社長がソマリア海賊を漁師に戻したというエピソードの真偽が話題になった記憶が新しいが、そういうことは陸上でもありうるのだ。
唐突だが google:アフリカ スマホ で検索すると、中国のメーカーがアフリカの多くの国でスマホ市場を席巻しているという記事が多くヒットする。ローエンド機種、ソーラパネルや充電器とセット、プリペイドカードによる支払方法の提供といった戦略が功を奏しているようだ。おそらく次は、もっと値の張るEV市場で中国の自国規格を普及させることを狙うであろう。
なんでこんな話をしたかというと、そうした国家間プロジェクト、国際ビジネスであれば、例えばさきの24万人月=2,400億円の予算投入はむしろ現実的な数字とさえ思える。冗談で計算した数字だから意味薄いんだけど、東京五輪経費の約六分の一だな。いや実質いくらかわからない東京五輪経費を比較対象に出すことこそ意味薄いか…と一言多い悪癖。
アフガニスタンにおいても、ある程度治安が回復したらスマホの売り込み、EVの売り込みが始まるだろうが、その前にまず灌漑事業による再耕地化と武装勢力の帰農という政策がとられるのではないかと想像する。
と同時に、中村医師はじめとするPMSスタッフたちのボランタリティ、献身といったものが無色化され、戦略、政策、そしてビジネスといったものに変容してゆく可能性を思い浮かべると、自分の想像に対して脱力のようなものを感じるのである。
いや、どこの支援であれアフガニスタン国民が今度こそ平和を手に入れることができるのであれば、それが何よりと考えるべきだろうけど。
でも、せめて中村医師の事業を日本が国家レベルで継承、拡大してくれればいいのにと思わないではいられない。だがペシャワール会の予算には公金からの支援は一切入っていないし、また外務省はアフガニスタン全土を「レベル4退避勧告」地域に指定したままである。
追記:
アフリカに言及して思い出した。
私事だが今から十年以上前、アフリカに関する新書本など書籍を何冊か読んだことがあったのだった。それらは一様に、中国のアフリカに対する投資に触れていた。白戸圭一『』は、アフリカに滞在する中国人を約80万人と見積もっていた(p148。同時期の日本人は2009年10月1日現在として二桁小さい7888人)。
ひょっとしたら中国は現在、先行投資の成果を享受している段階なのかも知れない。
さらにひょっとしたら、中村医師のようなアイコンが日本に知られていないだけで、中国には紛争経験地域、低開発地域における開発ノウハウを蓄積した人材が、多数存在するのかも知れない。いや普通に考えたらきっとそうに違いない。
だとすれば私の中国脅威に対する認識は、日本国内で限定された情報に頼った想像にすぎないという点で、住民投票8万人移住説と五十歩百歩かも知れない。いやきっとそうに…
