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新Surfaceが「Copilot+ PC」で変えるPCの姿 MacBook Airへの対抗

マイクロソフトは「Copilot+ PC」を発表

マイクロソフトは生成AI時代のPCとして、オンデバイスAI機能を強化した「Copilot+ PC」を発表した。

対応製品は6月18日より、ACER・ASUS・DELL・HP・Lenovo・Samsung、そしてマイクロソフトから発売になる。

マイクロソフトが売るのはもちろん「Surface」だ。今回同社は、新しい「Surface Pro」「Surface Laptop」を発表しているが、機能的には従来と大きく異なる「過去最高級の刷新」となっている。

新しいSurface Pro
新しいSurface Laptop(15インチモデル)

米マイクロソフトのSurface担当コーポレートバイスプレジデントのブレット・オストラム(Brett Ostrum)氏に単独インタビューし、新型の特徴や開発の狙いなどを聞いた。

米マイクロソフトのSurface担当コーポレートバイスプレジデントのブレット・オストラム氏

プロダクティビティに特化 x86版も「将来に」

まず、新型の概要を簡単に紹介しよう。

今回発表されたのは、キックスタンド+外付けキーボードで使う2-in-1の「Surface Pro」と、ラップトップ型の「Surface Laptop」。Surface Laptopには13.8インチのディスプレイを採用したモデルと、15インチのディスプレイを採用したモデルがある。

Surface Pro
Surface Laptop 13.8インチモデル
Surface Laptop 15インチモデル

新製品の最大の特徴は、プロセッサーとしてクアルコムの「Snapdragon X」シリーズを搭載していることだ。

プロセッサーはクアルコムの「Snapdragon X」シリーズ
発表会場には分解モデルも展示

Snapdragon XシリーズはCopilot+ PCが動作条件として定めている「40TOPS以上の処理能力を持つNPU」を内蔵している、現状唯一の「製品化されたWindows PC向けプロセッサー」だ。

そのため、今回新製品としてSnapdragon Xを採用するのは必然でもある。

最大の疑問はやはり、Snapdragon Xを採用するメリットとリスクの関係だ。ARM系Windows 11では、x86系向けのアプリを動かすためにエミュレーションが必須となる。かなり動作は改善されてきているが、それでも速度面の課題があるのは間違いないし、互換性も100%というわけではない。

――今回発表されたのはSnapdragon Xシリーズを搭載した製品です。ですが、Surfaceは伝統的に、インテルやAMDのプロセッサーを使ったものと、クアルコムとの協業によるものの両方を発売している。今後、x86版も出てくる可能性はあるのでしょうか?

オストラム氏(以下敬称略):エッジで実行されるAIパフォーマンスやバッテリー動作時間の観点からも、今回の製品には大きな自信を持っています。

私たちは現在も、インテル・AMD・クアルコムの3社と提携関係にあります。その中で私たちは半導体を選択しているわけです。

販売の観点で言えば、短期的には、今日発表した(Snapdragon Xを使った)デバイスを販売していきます。

ただ、ここは本日の発表会でユスフ(ユスフ・メディ氏。同社エグゼクティブ・バイスプレジデント 兼 コンシューマー・チーフマーケティング オフィサー)が語った言葉に注目してください。

ユスフ・メディ氏は「5,000万台のニーズ」をアピール

彼は「5,000万台のCopilot+ PCが出荷されていく」と話しましたが、「5,000万台のQualcommベースのPCが」とは言っていません。

5,000万台の販売を実現するには、クアルコムに加え、インテルやAMD、すべてのメーカーの製品が必要です。

――互換性の問題はどうですか? Snapdragonを使うとバッテリー動作時間などで大きなメリットもありますが、x86でないことにはトレードオフもあります。

オストラム:確かに。トレードオフがある、というあなたの指摘は正しいものです。Snapdragonは素晴らしいパフォーマンスと信じられないほどのバッテリーライフをもたらします。古典的なx86系プロセッサーと比較した時のメリットは明確です。

一方で、確かにエミュレーションの問題もあります。

しかし、これは顧客の利用状況調査から明らかになっているのですが、PC利用時に費やされる時間の87%については、ARMのネイティブアプリケーションが使われるようになります。

――Prismでのエミュレーションは、過去の技術とどう違うのでしょうか?

新しい「Prism」というエミュレータが用意され、動作速度は過去機種に比べ倍に高速化されるという

オストラム:その点はWindowsの担当が答えるべきなので、詳しく話すことはできないのですが……。Prismという新しいエミュレーション技術の導入は、新しい半導体の導入とセットで考えられていました。新しいプロセッサーを最大限に活用するにはグラフィックスパイプラインの最適化が必要で、エミュレーションでも同様にその点の最適化が必須です。

――デバイスの用途は非常に幅広い。外付けGPUを必要とするような、ゲームを含む高度なグラフィックスを必要とするものから、ごく一般的な処理まであります。新しいSnapdragon XベースのSurfaceはどのくらいの領域をカバーできると考えていますか?

オストラム:ゲームとなるとかなり幅がありますね。コアなゲームの場合、チート対策に関わる要件もありますし。

今回のデバイスは基本的に、いわゆる「プロダクティビティ」用途を想定しています。

――プロダクティビティも幅が広いですね。

オストラム:例えばMacBook Proは、価格・パフォーマンスなどで異なるターゲットを想定しています。確かに高い生産性を発揮しますが、ターゲットと異なる層にとってはコストも高い。そこまでの負荷は想定していません。

――とはいえ、軽い動画編集などには十分ですよね?

オストラム:はい、イベントでも解説したように、十分に可能ですね。

発表会ではDaVinci ResolveのCopilot+ PCバージョンが公開され、AIが絡む編集作業をNPUで処理した

「MacBook Airと直接対決」の背景とは

――Copilot+ PCの消費者への影響はどのくらい大きいと考えていますか? 確かに価値はありますが、PCの買い替えが必要になりますし、Surfaceの中でも最安価な製品ライン(Surface Goなど)に採用されたわけではない。

オストラム:その点は2つの側面から考える必要があります。

ユスフは「5,000万台」という目標の話をしましたが、それはPCのOEM全体から見たものです。PCのエコシステムの美点は「幅広い」ということであり、高価なものから安価なものまで選択肢は多数あります。エントリーレベルを下げていくには複数のやり方があります。

一方で、Copilot+ PCを展開する上で、我々はパフォーマンス面でアップルを打ち負かすこと、価格面でアップルを打ち負かすことを目指しました。そこでの価格目標が「999ドルから」というものだったんです。

将来的にはもっと低価格なSurfaceにもCopilot+ PCを展開する可能性はありますが、将来のロードマップについて詳細にコメントするのは避けます。

――イベントでもそうですが、今もMacBook Airを引き合いに出すことが多いように感じます。そこにはなにか理由があるのですか?

イベントではMacBook Airとの直接的な比較が目立った

オストラム:アップルがM1搭載Macを発表した、2020年10月に戻りましょうか。

発表自体、我々にとって驚きではありませんでした。x86系プロセッサーの設計とアップルが歩んできた道のりを考えれば、自然な流れだと考えました。

その上で我々が考えたのは「将来的な競争力をどう担保するか」です。

それで私たちは、適切なパフォーマンスとバッテリー動作時間をどう実現するのか、という観点から、クアルコムと行なってきた(ARM版のSurfaceを作るという)作業のギアをシフトチェンジすることにしたんです。ARMベースの新しいプロセッサーで今後なにができるのかに賭けることにしたわけです。

アップルは半導体への投資を続けていきますし、Windowsのエコシステムがアップルのエコシステムと競争できるようにする必要もありました。

我々は彼らがどんなレベルへと進化していくのか、かなり正確な予測ができました。だから、パフォーマンス・バッテリー動作時間・価格、そしてエッジAIを使ったCopilot+ PCによる差別化の双方で、比較するに足る製品ができたと考えています。

新機構のキーボードや有機EL選択の理由

今回の新製品のうち、変更点が多いのはSurface Proの方だろう。上位モデルでは初めて有機ELディスプレイが採用され、物理的な接続が必須だったキーボードには「Surface Pro Flex Keyboard with pen storage」が用意され、無線での利用も可能になっている。この辺の選択はどういう流れに基づくものなのだろうか?

Surface Proでは新しいワイヤレスでも使える「Surface Pro Flex Keyboard with pen storage」が採用された

――Surface ProとLaptop、個人的にはどちらが好きですか?

オストラム:それはやっぱりSurface Proですかね。私はSurface Proが生まれた時からずっと関わっていますが、アイコニックなフォームファクターですし、思い入れがあります。ペンも大好きです。

発表イベントでSurface ProとSurface Laptopの両方を掲げるオストラム氏

――今回、キーボードがワイヤレスでも使えるようになりましたよね。

オストラム:どうですか?

――素晴らしいですね! 「なんでこうならないのか」と思っていたので。

オストラム:よかったです。

こうした構造を選択した理由は顧客からの声にあります。

いろいろな声はあったんです。

ペンを使ってのクリエイティブワークを行なうグループからは、「ペンで作業している時に、もう片方の手でキーボードショートカットを使いたい」という意見がありました。キーボードを取り外せるようにすればいいのでは……という示唆につながりました。

別のグループからは「いろいろな構成で使いたい」という話が出てきました。飛行機の中で膝の上にキーボードを置いて使いたいとか、ラボに据え置いて使うときなどですね。

ワイヤレス化は「ペンとの併用」や「飛行機内での利用」など、さまざまな声から決断された

いろいろな要望から、今回の選択につながりました。

――有機ELの採用はどうですか? Windows PCには採用製品がかなり増えていて、少し遅かったようにも思いますが。

オストラム:トレンドを見ながら判断しようとしてきました。有機ELの採用には、システム全体でのメリットとトレードオフがあります。消費電力にコスト、パフォーマンスなど多数の要素がありますが、すべての面でのスイートスポットを見つけようとしていたんです。それが今回だった、ということです。

――5Gの搭載はどうですか?

オストラム:必要な人とそうでない人がいるのを理解しています。クアルコムはワイヤレスに強いメーカーですけれど……。

Surface Proには5G搭載モデルを残していますし(出荷は秋を予定)、モバイルの必要性については今後も注視していきます。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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