レビュー
夏の草刈りで最強のファン付きウェア「ChillerX」を試してみた
2025年9月9日 08:20
「ファン付きウェア」「ファン付き作業着」という製品ジャンルがある。電動ファンなどを使って着用者を冷やし、熱中症を防ぐという、衣類型のクーラーだ。熱中症になるような環境で作業する人向けの製品で、工事現場などで利用されている。
Shiftall社の「ChillerX」は、真夏の屋外で作業するような人のための、ある意味で最終手段とも言えるファン付きウェアだ。既存のファン付きウェアとは異なる仕組みを採用することで、より強力な冷却性能を持ち、より過酷な環境にも対応できるようになっている。
今回はChillerXをお借りできたので、筆者宅の草刈りで使ってみて、実際の屋外作業でどれだけのパフォーマンスを発揮するか、ほかのファン付きウェアとどう違うのかを見つつレビューをお届けする。
着用するクーラー「ファン付きウェア」の種類と特性
「ファン付きウェア」は、「空調服」と呼ばれることもあるが、この用語はセフト研究所と株式会社空調服の商標だ。まずは大雑把に衣類型クーラー全般を「ファン付きウェア」として、どんな製品が存在するかを解説しよう。
まずファン付きウェアの中では、電動ファンを使った製品がもっともポピュラーだ。服の中に風の流れを作り、発汗と気化熱を使って体感温度を下げている。アウターとして作業服の上に着るだけで効果が期待できるので、扱いやすいのもポイントだ。製品の種類も多く、さまざまな場面で使われている。
しかし欠点も多い。まず電動ファンの吸気・排気・騒音があるので、粉塵が舞う環境や衛生が求められる環境、火気の近く、人が密集している環境では使いにくい。多湿環境だと汗が気化しにくくなって効果がやや薄れる。バックパックやスリングベルトなどは服の中の風の流れを遮るので相性が悪い。
そうした欠点を補うように、電動ファン以外で冷やすファン付きウェアも登場している。
「ファン」だけではなく「保冷剤」で体を冷やすウェアもよく使われている。プレート状の保冷剤を直接体に接触させる製品や保冷剤で冷やした冷却水を電動ポンプで循環させる製品があり、後者は「水冷服」とも呼ばれる。どちらも体に密着させる必要があるが、保冷剤を接触させる製品は単純かつコンパクトで、作業服の下に着られる製品も多いし、ファン付きウェアに保冷剤用の内ポケットが付いていることもある。しかし保冷剤が溶けて温度が上がってくると冷却効果が落ちるという大きな欠点がある。
ペルチェ服などと呼ばれる、ペルチェ素子を使ったファン付きウェアもある。ペルチェ素子は電圧をかけると温度差が生じる電気部品だ。熱くなる側をファンで冷やせば、冷える側は気温以下になる。実のところ、ペルチェ素子の冷却効率は高くないが、気温以下の温度を作り出せる機構としてはコンパクトかつ単純構造なので、携帯・着用する機器に向いている。
ペルチェ服は保冷剤を使うファン付きウェアと同様、体に密着するようにして着用する。冷却面が小さい製品が多いが、背骨や脇の下など、血管の集中する部位を冷やすことで、体温を効率良く冷やすというような仕組みだ。
ペルチェ服も体と接触して冷やすので、肌着の上に着用するのがベストだが、その上に作業服などを着ると、ペルチェ素子の冷却ファンが機能しないなど、製品によっては着こなしに難があったりもする。
ChillerXはというと水冷+ペルチェ
ChillerXは水冷服とペルチェ服を合わせたようなファン付きウェアだ。冷却水を循環させるが、冷却水は保冷剤ではなく、ペルチェ素子で冷やす。そのため、電源さえあれば稼働できる。
冷却水が流れる水冷ベストとペルチェユニットに分かれている。ペルチェユニットはエアコンの室外機の役割を果たすもので、ファンやポンプが入っているので、そこそこの大きさがある。標準状態では水冷ベストの背面、お尻に近い部分にペルチェユニットが装着されている。
水冷ベストの冷却水が流れる範囲は、背中から脇までと広く、線(チューブ)ではなく網目状に流れるようになっている。このため、体に接する範囲が広く、体温を下げやすく涼感を得やすい。胸と左右の肩のベルトは長さを調整できるようになっていて、絞りきることで密着させ、より効率的に体を冷やせる。
着用性はやや難あり
効率的に体を冷やすには、ChillerXは肌に近くなるように着用した方が良い……のだが、標準状態だと水冷ベストにペルチェユニットがくっついているので、作業着の下に着用するのにはやや難がある。ペルチェユニットはそれなりのサイズがあり、吸排気が必要なので、服の外に出す必要があるからだ。
標準状態でもペルチェユニットは水冷ベストの背中にぶら下がるように装着されているので、ツナギではない作業着なら、上に着ることはできなくはないが、シャツやジャケットの背中側がめくれてしまう。
作業着が薄手なら、その上に着用することでもそこそこ冷えるが、肌着の上に着用するのに比べると体を冷やす効率は落ちてしまう。また、作業着には飛散物に対する防護、泥などの飛散に対する防汚、紫外線対策、道具の携行といったさまざまな役割があるので、作業着の上にChillerXを着ることが好ましくないケースが多い。
しかしChillerXの水冷ベストとペルチェユニットは、交換可能なチューブでつながっているだけなので、別売りの延長チューブを使えば、水冷ベストとペルチェユニットを別々に着用できる。チューブを上手に取り回しできれば、水冷ベストは作業服の下、ペルチェユニットは作業服の外、というような着こなしが可能だ。
ペルチェユニットにはベルトを通せる部位が何箇所かある。薄いベルクロテープくらいしか通らないが、1インチ幅となっているので、ミリタリー装備でお馴染みのPALS(MOLLE)ウェビングにしっかりと固定できる。これを想定してデザインされているらしく、ベルトの幅や間隔はPALS規格に近い。ミリオタ(ミリタリー・軍事に関心を持つオタク)にしか分からないかも知れないが、軍用装備を携行するためのチェストリグやプレートキャリアだと、ペルチェユニットや大型バッテリの重さやサイズは気にならない。
作業服の下に水冷ベスト、上にペルチェユニットと着用できると、かなり理想的な冷却服になる……はずだが、今回は延長チューブを用意できなかったので試せていない。延長チューブを用意できても、ツナギの作業服だとチューブの取り回しは難しそうではある。
バッテリ運用もちょい難しめ
ChillerXはバッテリが別売りだが、市販のUSB PD対応バッテリが使える。
電動ファンや循環水を使うファン付きウェアは、専用バッテリのことが多く、それに比べると使い回しが効く汎用品なのはありがたい。しかしChillerXには60W(20V-3A)のUSB PD出力が必要なので、手頃かというと微妙なところでもある。
60W対応のバッテリ製品は、それほど多くない。典型的な60W対応製品だと、容量20,000mAh(3.6V)以上、重量500g、価格1万円程度が一般的だ。元から持っているなら追加投資不要だが、そうしないとそこそこの追加出費になる。
高出力バッテリを要求するだけに、消費電力はかなり大きい。カタログスペックだと、ECOモードでも1時間あたり10,000mAh(3.6V)くらい、MAXモードだとその倍くらいのバッテリ容量が必要になる。電源ファン付きウェアだと最大出力でも5時間とかは動くので、それに比べるとバッテリ消費が大きく、長時間作業では複数バッテリが必要になる。
どんなバッテリをどう運用するか、これは使用環境や個人の好みによるが、筆者個人としては、10,000〜15,000mAhで5,000円くらいのバッテリを2個以上用意し、バッテリが切れたら交換&充電と繰り返すローテーションを組むのが良いかな、と思う。
バッテリ交換が面倒と思われるかも知れないが、真夏の屋外作業は30分〜1時間おきに休憩・給水が必要だし、例えば草刈機でも30分〜1時間ごとにバッテリ交換・給油が必要だ。そこでChillerXのバッテリを交換すればちょうど良い。
結露するくらいヒエヒエ。騒音はそこそこ
ChillerXを稼働させると、水冷ベストの冷却水が流れる部分は、かなり冷える。屋内であれば、ECOモードでもヒエヒエだし、結露して湿ってくる。
稼働中はそこそこの騒音がある。会話や作業に支障はないし、草刈り作業中だと電池切れで停止してても気がつかないくらいだが、静かな環境だと気になる騒音だ。ペルチェ素子を冷やすファンと冷却水を循環させるポンプが稼働するので、これは仕方ないところだろう。
少し気になるのはバッテリの発熱だ。消費電力が多めなので、発熱も多い。炎天下で利用する機器でもあるので、バッテリは信頼できるメーカーのものを使用するべきだろう。
草刈りで使ってみた!
千葉県木更津市にある筆者宅の敷地内には600㎡ほどの斜面の草地があって、春夏は1〜2カ月に1回くらいのペースで草刈りをしている。
斜面で踏ん張りながら重たい刈払機を振り回す作業は、平均心拍数的にはジョギングくらいの運動強度になる。バッテリと体力の関係で1日90分くらいが作業時間の限界で、600m2の斜面を刈るには2日以上かかる。これを真夏の昼間にやる必要がある。ついでに言うと飛散物や草むらの生物に対する防護のために、そこそこ生地の厚い長袖の作業服が必須だ。
草刈りの詳細については、以前、別の記事にしているので、興味のある方はそちらもご参照されたい。今年からはU字ハンドルの本体とバリカンタイプのアタッチメントを導入したので、効率性と安全性が向上している。草刈りはけっこうな機材沼で、試行錯誤や新製品への誘惑でコストがかかり続ける。ファン付きウェアもコストをかけたくなる機材のひとつだ。
今回はまず、普段使っているツナギ作業服の上にChillerXを着用して草刈りをやってみた。作業をしたのは8月19日の13時から14時半あたりまでの約90分。気温は約33度。本当はもう少し涼しい午前中にやるべきだが、あえていちばん暑い昼から午後にかけて作業している。
何もしていなくても汗ばむくらいの暑さだが、ChillerXのおかげで熱中症になるような体温上昇は防げているようで、体力を使う作業をしていても、暑さでクラクラするといったことはない。とは言え、MAXモードでも冷たさを感じることはない。熱中症や暑さによる体力損耗を防げているとは思うが、30度を超えているので、暑いことには違いはない。
次に作業服の下にChillerXを着用して草刈りをやってみた。作業をしたのは8月20日の12時から13時半あたりまでの約90分。気温はこの日も約33度。
これでも涼感が得られるほど体が冷えるわけではないが、作業服の上に着用するよりは暑さを防げている実感がある。体温上昇を抑制できているのか、暑さによる体力の消耗がより少ない印象だ。やはり水冷ベストは作業服の下、肌着に直接当てるように着用した方が効果的である。
このときはシャツの背中をまくる形でペルチェユニットを出したが、シャツがまくれる状態は少し据わりが悪い。草刈りの環境では刈草や土埃が舞うし、虫もいるので、そうしたものが入り込んできそうで気になるのだ。草刈りで本格的に運用するとなれば、延長チューブでペルチェユニットを作業服の外に出すべきだろう。
比較のために従来型のファン付きウェアと保冷剤ベストを併用して草刈りをやってみた。作業したのは8月21日の12時から13時あたりまでの約60分。気温は約35度。
比較して改めてわかったが、普通のファン付きウェアは刈払機のスリングベルトなどによってファン付きウェア内部の風の流れが阻害され、首元まで風が来なくなり、涼感が少ない。電動ファンが背中の高い位置に付いているタイプのファン付きウェアならマシになるが、それでも何も装着していないときに比べると涼感は落ちる。
これに対し、ChillerXはスリングベルトをかけても冷却水の流れが閉塞することもないので、ここはChillerXの優れたポイントだ。
この日は気温がとくに高かったものの、ファン付きウェアと保冷剤の併用で、気温の高いこの日の作業をかろうじてこなすことはできた。しかしChillerXを使っているときに比べると負担は大きく、1時間くらい経って保冷剤が溶けきったあとは、暑さでクラクラするレベルだった。やはり35度を超える環境で1時間以上作業するとなると、電動のファン付きウェアだけでは不足する印象だ。
扱いは簡単ではないが、炎天下では最強クラス
ChillerXの冷却性能は市場にあるファン付きウェアの中では最強の部類に入る。しかし、どんな人にもオススメできる万能製品ではない。
ChillerXは電動ファン付きウェアほど気軽には扱えない。水冷ベストを作業服の下に着用したい場合、ペルチェユニットを別に着用する手間が発生する。水冷ベストを作業服の上に着用すると、作業服の厚さによっては冷却効果が落ち、より手軽なファン付きウェアとの性能差が縮まる。
ChillerXは気温35度以上の環境で比較的長い時間、作業をしなければいけない人向けの製品だ。例えば筆者の場合、自宅の草刈り作業なので、実施する日時は選べる。気温32度以下くらいの天候・時間帯を選んで作業すれば、普通の電動ファン付きウェア+保冷剤でも耐えられるので、ChillerXを導入する必要性は低い。
逆に言うと、屋外作業する天候・時間帯を選べない人は、ChillerXを導入する価値がある。気温35度以上や高湿度の日となると、普通の電動ファンのファン付きウェアでは足りないので、そうした日の野外活動が避けられないなら、ChillerXくらいの性能の冷却服が必要だ。
業務で屋外作業する人にはオススメできるが、業務以外でも釣りや自然観察、写真撮影など、炎天下の屋外で活動する趣味でも、使える場面がありそうだ。走り回るようなスポーツをする人には使えないが、屋外スポーツの観戦や運営などでは使えるかもしれない。
ChillerXの冷却性能は、ほかで代用しがたいレベルではある。昨今の尋常でない暑さで、ファン付きウェアに性能不足を感じる人は、導入を検討してみる価値がある。
なお、ファン付きウェアを持ってない人が初手でChillerXを導入するのはオススメしない。ChillerXを持っていても、気温30度未満なら手軽なファン付きウェアを使えた方がラクなので、普通のファン付きウェアも持っていて損はない。野外活動用のファン付きウェアを初めて導入するという人は、まずは電動ファン付きウェアを導入し、それでも足りないとなったときにChillerX導入を検討するのがオススメだ。




















