レビュー

iPad Proは12.9インチ版が最適になってしまった理由 by 西田宗千佳

記憶力のとてもよい方なら、2018年に筆者が書いたレポートを覚えているかもしれない。前回のタイトルは「 iPad Proは11インチ版が(筆者に)最適な理由 」だった。

iPad Proは11インチ版が(筆者に)最適な理由 by 西田宗千佳

ところが、今回は 12.9インチ のiPad Proを購入した。

今回買ったのは12.9インチiPad Pro。ストレージは256GBで、Wi-Fi+セルラーのモデルを選択した。まさかの「再度大型化」

「11インチが最適じゃなかったのかよ!」

言いたいことはすっごくよくわかる。わかる。

なので、ちょっと筆者の言い訳を、そもそも話から聞いていただきたい。

iPadとキーボードをめぐるあれこれ

2015年にiPad Proが初めて出た時、筆者は12.9インチを買った。まあ、その時はそのモデルしかなかったからなのだけど。ちょっと重すぎる……とは思ったものの、画面サイズはやはり魅力的だった。

一方、その後、 2017年6月に10.5インチ版が登場すると、筆者は10.5インチに乗り換えた。その方が軽かったし、「12.9インチのSmart Keyboardを10.5インチにつける」という裏技が使えることもわかったからだ。13インチクラスのキーボードはやはり(多少だが)タイプしやすく、この組み合わせはベスマッチ、と本気で思っていた。

これが「12.9インチのSmart Keyboardを10.5インチにつける」裏技。当時は私を含め周囲のライター陣何人かが、同じように使っていた記憶が

だが、2018年にiPad Proのデザインがリニューアルされると、その裏技は通じなくなった。11インチには11インチのスマートキーボードしかつけられなくなったからだ。

2018年11月掲載の記事より。1サイズ大きいSmart Keyboardを使う「裏技」は通じなくなった

結局そこで筆者は、「少し小さくなるけどしょうがない」として、11インチを選んだ。

これが2018年までのお話である。

では、なぜ今回は12.9インチなのか?

ぶっちゃけていえば、「やっぱり13インチクラスのキーボードでないとタイプが辛い」と思ったからだ。

2018年10月以降、11インチiPad Pro+11インチ用Smart Keyboardでバリバリ仕事をしていたのだが、どうも微妙にタイプミスが多い。

「うーん」と悩みつつ、ある日、家に転がっていたアップルの純正Bluetoothキーボードである「Magic Keyboard」をつなげて使ってみると、タイプミスがグッと減るのが体感できた。Bluetooth版のMagic KeyboardはSmart Keyboardよりタッチが良く(というよりもSmart Keyboardがイマイチなのだけど)、それが影響している可能性もあるのだが、やはりサイズの影響は大きいようだ。

Bluetooth版のMagic Keyboardと11インチiPad Proの組み合わせ。結局この使い方で10ヶ月くらい使っている気がする

これは筆者にはちょっとショックだった。ほんの10年ほど前までは、10インチ以下の小型PCも大好きだったからだ。それが、使う機種がいつのまにか13インチクラスばかりになった結果、小さいキーボードではタイプミスが増えるようになっていた。これは慣れなのか、それとも老いなのか。あえて追求は止めておく。

結果として筆者は、11インチiPad Proに外付けキーボードとしてMagic Keyboardを持ち歩くようになった。若干重くなったが、こちらの方がタイプ精度はずっと高い。この時ちょっとしたTipsとして、ケースとして、写真のように「スタンドにした時、キーボードの側に飛び出す形状」のものを選ぶのがいい。この飛び出す部分にMagic Keyboardを置くと、膝の上でも安定して使いやすい。

新Magic Keyboardに備えて「12.9」へ回帰

で、ここまでが長い「今までの振り返り」である。

新iPad Proで12.9インチを選んだ理由はなぜなのか?

「Magic Keyboard」があるからだ。ここでいうMagic Keyboardは、新iPad Proと一緒に発表され、5月出荷予定のもので、前述のBluetooth版ではない。同じ名前なのはわかりにくい。アップルはこういう製品名の付け方をするが、解説する側の事情でいえばとても面倒であることを記しておきたい。

5月出荷予定の新Magic Keyboard。独特のデザインとタッチパッド搭載で、今から使うのが楽しみだ。重そうだが

新Magic KeyboardはSmart Keyboardと同じく、「対象サイズのiPad Proでしか使えない」公算が高い。そうすると、前述のように11インチでは「ちょっとタイプしにくい」可能性があるので、12.9インチを選ぶことになる。

iPadOS 13.4から搭載された「ライブ変換」は非常に快適だ。かなを漢字にしすぎたり、「なんでその変換を」と思う時もあるが、とにかくタイプしていくと自分が思う文章が書き上がる感覚が強く、いままで以上に「脳との直結感」がある。しかも、新Magic Keyboardのキー構造は、新しいMacBook Airと同じものになっていて、タイプ感が良好である可能性が極めて高い。

とすると、iPad Proでガンガン文章を書くためにも、キーボードを主軸に選ばざるを得ない……という結果になる。

問題は「当座のキーボード選び」だ。今回、どういう事情かはわからないが、新Magic KeyboardはiPad Pro本体よりも遅れて5月に出荷される。その間キーボードなし、というわけにもいかない。

短期的な代替として「新型用のSmart Keyboard」を買う人もいるが、高いし使う期間も2カ月程度。ちょっともったいない。筆者の場合、もともとBluetooth版のMagic Keyboardを使っているので、これをそのまま流用することにした。

そうなると課題は一つ。カバーだ。

2018年モデルと2020年モデルでは、iPad Proのデザイン・サイズはほとんど変わっていない。唯一の違いは「カメラの穴」である。

というわけで、考えた結果、「自分のニーズにあうもっとも安価な2018年版iPad Pro用ケースを買い、自分で穴を広げる」ことにした。

Amazonで調べると、良さそうなケースはいくつかあった。そこから値段だけをみてチョイスしたのが写真のケース。恐縮ながらメーカー名・商品名すらおぼえていない。1,700円弱、という価格だけで選んだ。課題もないではないが、「2,000円以下で急場をしのげる」と思えば十分だ。

Amazonで購入した12.9インチiPad Pro用カバー。2018年版用なので、カメラの部分が合わない

このカバーの素材は合皮と紙のようで、実物を見て、穴を広げるのも簡単と判断した。道具箱からデザインナイフを取り出し、現物合わせでザクザク切ってしまう。高価なプラスチックケースだったら、角にまず穴をあけ、それから穴を増やしてつないでいく……というアプローチでいこうと思っていた。どっちにしろ、この手の加工は慣れているので問題ない。そんなにきれいな仕上げではないが、まあこれで良かろう、と判断している。写真は加工中のものだが、あとから切った縁だけ黒く塗料で染め、外からわからなくした。作業時間は累計でも15分程度だと思う。

デザインナイフでザクザクカット。ケースだけを見るとあんまりキレイに切れていないが、縁を黒く塗って本体を付けてしまうと目立たない

このケースは重いし(重量は定かではない)、どうにも分厚く、取り外しも面倒だ。ケース単品としてけっしてお勧めしない(倍のお金を出しても、もっといいものを選ぶべきだろう)が、加工して短期的に使うならいいか……と割り切っている。

現在の「iPad Proでのお仕事セット」。Bluetooth版Magic Keyboardと、Magic Mouse 2を合わせて使っている

「LiDAR というべきなのか」問題。OSの使い勝手は大幅改善

さて、使い勝手はどうか。

これはAV Watchのレビューでも書いたが、カメラ・LiDARを除いた使い勝手では、2018年モデルと大差ない。GPU性能が上がったと言っても、そんなにわかるものでもない。カメラ+LiDARについては、昨今の状況もあり、取材などで外出して使う機会が少なく、本領が発揮できていない。

新iPad Pro実機レビュー、LiDARでARが激変! 「コスパアップ」が魅力

レビューの内容に補足だが、アップルが「LiDAR」と呼ぶセンサーは、一般にLiDARと呼ばれるものとはちょっと違う、ということもわかってきている。記事では「アップルが文書や広告で『直接型』と書いている」ことを前提に、「いわゆる直接型LiDAR」と書いたが、これは定義的には微妙だ。

一般に直接型LiDARは、レーザーを投射し、それをテレビの捜査線のように積み重ねて立体を認識する。だがアップルのいう「直接型」は、確かに光は投射しているが、平面に対してドット状の光の束を投射し、その反射を「画像系センサーと同じ構造」で受け取っている。このセンサー構造はむしろ「ToFセンサー」と他社が呼ぶものに、Face IDが使うドットプロジェクター技術を組み合わせた形に近い。だから「直接型」の定義が違う。LiDARと呼ぶのは少し違うのではないか。

しかし、一つの本質として「空間の立体構造を素早く把握する能力」があり、それを「ARKitというフレームワークで支えている」ことは間違いなく、他のスマホ向けToFセンサーよりも実用的に実装されている。センサーの呼称がどうあろうと、その価値は変わらない。

iPad Pro 2020 LiDARデモ

iPadの使い勝手そのものはかなり改善している。iPadOS 13.4で「ライブ変換」と「マウス・タッチパッドのサポート」が追加されたからだ。おかげで、家にいるのに原稿をPCやMacでなく、iPadで書いていることが多い。そのくらい快適だ。だが、これは「OSの進化」で、新型ならではのものではない。

こと12.9インチモデルについては、前回、2018年の記事で指摘した「ソフトウエアキーボードのデザインは本当にこれでいいのか」という疑問が残っている。正直、11インチのソフトウエアキーボードをそのまま拡大して使いたい。だが、ここはしょうがないと思って諦めている。その分、コミックを読む時や映像を見る時には快適だ。

LiDARに興味がないなら、価格が下がり始めている旧型の中古でもいいのかもしれない。新Magic Keyboardは、2018年型のiPad Proでも使えるのだから。一方で、ストレージ容量を含めコストパフォーマンスが劇的に向上した結果、「新機種を買ってもそんなに価格が変わらない」可能性もある。購入時にはその辺り勘案して考えていただきたい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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