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「クレカ乗車」は社会インフラになる 「定期券」や乗車で「Vポイント」など新機能
2026年3月9日 15:12
三井住友カードは9日、「stera transit シンポジウム2026」を開催し、国内で推進しているクレジットカードのタッチ決済乗車の取り組みについて紹介した。新たに定期券サービスの導入のほか、乗車に応じてVポイントを貯められるサービスなどを導入し、「全国的な社会インフラ」を目指した展開を強化していく。
また、普及に向けて「タッチ決済乗車」として、アピールしてきたが、国内でもカードのタッチ決済が60%を超えるなど「当たり前」になってきたことから、「クレカ乗車」という名称に改めて、プロモーションを図っていく。「地方の生活インフラから全国共通の社会インフラを目指す」(三井住友カード大西 幸彦CEO)とした。
タッチ決済乗車から「クレカ乗車」に
日本の公共交通におけるクレジットカードのタッチ決済乗車の多くは、三井住友カードのstera transitが活用されている。2025年度は45都道府県、232事業がクレジットカードで電車やバスに乗車可能になる予定で、約7,000台のバス、約2,200の駅が対応する。
また、クレジットの「タッチ決済」の普及が進み、Visaだけでも1億6,000万枚のタッチ決済対応カードが発行され、対面取引でのタッチ決済比率は60%となっており、三井住友カードに限定すれば「70%を超えている」という。
「タッチ決済」が当たり前になってきたことから、キャッチコピーも「タッチ決済乗車」から「クレカ乗車」に変更。今後クレカ乗車としてアピールしていく。
実際の駅やバスへの導入では、大阪・関西万博において面的に整備したこともあり、大幅に拡大。さらに2026年3月には首都圏の大手私鉄各社での相互利用に対応開始予定で、4月にはJR九州の本格導入も見込まれる。26年には「地方部の生活インフラから全国共通の社会インフラへ成長する」(大西CEO)と語り、普及拡大から利用促進のフェーズに入るとする。
2026年2月のstera transit月間利用件数は598万件。3年前との比較では11倍に拡大している。
また、福岡市営地下鉄や西鉄、空港バスなどのデータでは、旅行者や出張者との親和性も高いことがわかっているという。2028年度までに月間1億件の利用、47都道府県、300事業への拡大を目指す。
3月25日からスタートする首都圏の相互利用については、11事業者54路線729駅にて相互利用サービスが開始され、すでに投入済みの横浜市営地下鉄やゆりかもめとあわせて約820駅に対応。2028年度まで1,000駅を目指すとした。
定期券に対応 交通乗車で「Vポイント」も
今後の機能強化も予定しており、MaaS対応のほか、定期券対応、乗車にあわせたVポイント付与などを予定している。
定期券については定期に相当するサービスを2027年春頃より展開。まずはタッチ決済で上限制のサービスを27年春に開始し、27年秋ごろに一般的な定期券に近い「区間式」に対応する。また通学定期対応も予定している。定期券は特に導入済みの公共交通機関からのニーズの高い機能で、早期の実現を目指すとした。
また、乗車に応じたVポイント付与サービスも計画。電車やバスに「クレカ乗車」することで、Vポイントが貯まるというもので、利用者にとってはお得で、事業者にとってはデータ連携による移動と消費の循環が図れるとする。
Vポイント付与は、関西・九州の一部事業者で採用が決まっているほか、首都圏でもゆりかもめなどで検討中で、「2026年度は10社以上に拡大したい」(三井住友カード Transit本部長 兼 Transit事業企画部長 石塚 雅敏氏)とした。
MaaSにおいては、「Pass Case」アプリを活用。平日オフピーク割引のほか、シェアリングサービスや商業施設等と連携したサービスを順次展開予定としている。
マイナンバーカード連携による地域住民向けサービス予定。第1弾として、神戸市の「みなと観光バス」で70歳以上の人を対象に実証実験を行ない、マイナンバーカードと連携して、自動的に敬老割引サービスが適用されるようにする。これにより、利用者負担の削減のほか、事業者にとっても敬老割引サービス専用カードの発行や窓口での手続きが不要となるなどのメリットを創出していく。
イベント割引は、花火大会やイベント等の駅周辺の混雑解消を目的としたもので、特定の日時の駅の利用に対して、クレカ乗車でキャッシュバック等のお得感を発揮する仕組み。花火大会当日の切符売り場混雑などに対し、クレカ乗車を使うことで、一定の割引を行なうなどで、混雑緩和を目指すもの。26年度は複数の花火大会で導入予定としている。
相互利用開始でクレカ乗車は次のフェーズに
「stera transit シンポジウム2026」にてCEOの大西氏は、3月から始まる首都圏での相互利用について、首都圏全体では約820駅という規模で一斉に環境を整え開始するのは世界的にも類を見ないとし、「ロンドンやニューヨークにもなかった、世界最大のプロジェクト。(一斉対応で)利便性は飛躍的に向上する。一度にできたことは非常に大きなポイント」(大西氏)と語った。
なお、今回の相互利用による“最長区間”は、神奈川県の箱根にある強羅駅から栃木県の鬼怒川温泉駅までで、1都4県にまたがる区間を「クレカ乗車」で利用できることになる。
シンポジウムでは、stera transitが地域の交通事業者にも浸透しつつあり、普及フェーズから全国での利用促進フェーズに移行することが打ち出された。
各交通事業者の対応の変化については、「当初はインバウンド対策として一部路線で対応という形が多かった。最近は、地域住民の利便性向上や高齢者の外出支援など、複数の課題に対応するようになっている」(石塚氏)と、インバウンドだけでなく国内の利用者に向けた取り組みも拡大していることが紹介された。
「クレカ乗車は、結果として国内の利用者の間でも伸びている。これからが本番。非常に柔軟なサービス設計ができ、(事業者側に)期待感も広がっているのではないか」(大西氏)。
一方、認知についてはまだ課題があるとしており、今後も積極的に「“クレカ乗車”で電車やバスに乗れる」というイメージの浸透を図っていく。
上限金額を登録する定期サービス
いくつか明らかにされたstera transitの新機能の中でも、定期に相当するサービスを整備する点は、関係者を含め注目されている。後払いで、柔軟な設計が可能で、利用者は事業者をまたいだ利用ができるからだ。
交通事業者が用意する定期は一般に、窓口での手続きや更新が必要だったり、独立したカードを用いたりするなど、窓口運用コストや利便性などでさまざまな課題が出てきている。stera transitはクラウドサービスとして構築されているため、導入している全国の交通事業者が定期サービスを自社サービスとして取り込め、柔軟に設計可能。利用者にとっては、手持ちのクレジットカードやスマートフォンを定期券として利用できるようになるメリットもある。
stera transitの定期サービスは「金額式」を基本に据え、2027年春から提供する予定。2027年秋を目標に「区間式」も導入するほか、従来の“事前購入型”も提供できるよう準備していく。
「金額式」は、よく利用する区間を片道運賃額として事前に登録すると、その1カ月分の金額が上限額として設定されるというもの。区間に限定されることなく、登録した片道運賃額以内の利用であれば、すべての対象路線での利用が積み上げ対象になり、一定額を超えると当月は乗り放題になる。「区間式」は、登録した区間を1カ月利用した分が一定額を超えると、乗り放題になる。
金額式と区間式のどちらも、設定された一定額を超えない場合は、使った分だけの運賃を支払う形。上限制で安心感を提供すると同時に、利用が少ない月は不要な支払いを抑えられるメリットがある。登録はオンラインで行なえ、登録時の画像のアップロード機能で学生証を登録すれば通学定期として利用できる。登録内容に変更がない限り、更新手続きは不要になる見込み。
「交通系ICカードの定期券があっても、金額式上限制の定期は、別のニーズに応えられる。通勤の形も変化しており、在宅が多い人でも使いやすいなど柔軟性がある」(大西氏)というように、新たな定期サービスは社会の変化に対応した新たな選択肢と位置付けている。
また、地方の交通事業者が抱える課題や利用者が感じる不便に応えられる柔軟性も特徴という。「地域には複数の交通事業者がある。従来の定期は、特定の事業者しか乗れないのが不便で課題だった。stera transitは、クレカの後払いやクラウドの柔軟性を活用して、“地域で定期を共通化”できる」(石塚氏)といい、これは特に、地域のバス事業者で導入が進むのではないかとしている。
交通系ICカードをやめた路線バスはどうなった?
シンポジウムではほかに、京浜急行電鉄、交通系ICカードのnimocaを展開するニモカ、九州産交バス、国土交通省からそれぞれ担当者が登壇し、stera transitが新たなフェーズに進むことへの期待が語られた。
京急からは、90年代の独自SFカード「ルトランカード」の失敗を教訓としてグローバル標準のクレカ乗車の導入にいち早く取り組んできたことや、羽田空港に乗り入れている関係から、外国人を中心にクレカ乗車が大きく伸びていることが紹介された。首都圏の相互利用への期待は高く、東京メトロが品川駅に接続する南北線延伸計画などで羽田空港へのアクセスは複雑化すると指摘、周辺路線と連携を深めていく方針が語られている。
九州産交バスは、熊本の路線バスの赤字対策として、交通系ICカードの機材を更新しない(サービス廃止)と決めたことで注目を集めた事業者。代わって導入したstera transitの対応費用は、ICカード機材の更新の約半分という6.7億円だった。
路線バスの存続を第一に考えた難しい決断だったと振り返る一方、バスの実物を用いてクレカ乗車の体験会を実施したり、キャッシュバックや割引キャンペーンを開催したりするなどさまざまな取り組みを実施した結果、熊本の5社のバス利用者は前年比102%と、増加することに成功したという。同社は定期サービスも導入していく方針。
「単なるコスト削減ではなく、(stera transitは)持続可能にするためのプラットフォーム。タッチ決済への対応は、新しいお客様を連れてきてくれる入口になる」(九州産交バスの森山氏)と、前向きな期待が語られている。





















