驚きの介護民俗学:六車由実著のレビューです。

☞読書ポイント
感想・あらすじ
介護と民俗学、一見つながりがなさそうに感じていましたが、読んですぐ、こいいう切り口ってあるんだな...と驚きと感動がありました。
いわゆる認知症の方が、繰り返し同じことを言うとか、妙な行動を繰り返すとかよく聞くことではありますが、一体脳内に何が起きているのか?誰しもが知りたいことのひとつである。
本書を読んでいるとやはりそうした行動も、ひとりひとりこれまで生きて来た過去の経験と無関係ではないのだということが、不確かではあるけど納得ができる。改めて人間の奥深さに思わず唸ってしまう。80年、90年と生きて来たわけだもの、無関係であるわけがないと自然に思えてくる。
著者の六車さんは、大学教員を辞め、静岡県の特別養護老人ホームで介護職員として働き始めたそうだ。そこで出会った高齢者たちと日々過ごすうちに、民族学者ならではの視点から気づくことがあり、そこから「介護」と「民俗学」という新しい切り口で考察を始める。
民俗学というと村に足を運び、そこでお年寄りから話を聞き出したりするいわゆるフィールドワークというものが一般的だ。そんななか、意外な盲点であったのがこの高齢者施設。なかなか話を聴くにはハードルが高い場所ではあるけれど、そこで働いていれば自ずと会話をすることも多く、小さな手がかりから話を聴き出せる可能性も高い。案の定、本書で紹介される話は、あまり聞いたことのない貴重な話が多い。
とは言え、それらを聴くのはかなり骨が折れる作業だということは想像に難くない。タイミングを見計らって「聞く」「書く」を繰り返す。何日にもわたって聞く話もある。そして聞いたことをまとめ、ご本人や家族にお渡しする。涙を流し感謝して亡くなった方などもいて、ひとりのひとりのこれまでの人生の重みを感じさせられる。

実際、著者が混乱するほど当時の難しい仕事内容を説明する方もいる。また、そんな場所は実際あったのか?と思い調べてみると本当にあったとか、現在のことより鮮明に過去のことを記憶しているパターンが多い感じがする。
時間はかかるものの、これらの様子を見ていると、「信頼」を築いた上での「傾聴」の重要性を感じます。
いわゆる問題行動と呼ばれるものにもよくよく解ってくるとちゃんとした理由があったりする。それらは長い間、ご本人が気にかけていたことや、懸命にしていたことなどと繋がっていたりする。そんな話もちらほらあって切ないなぁ~なんて思ったり。
ともあれ、晩年に自分の生きて来た道を真剣に聴いてくれる誰かが居たということは、なによりもご本人にとってゆたかな時間であったに違いないと感じます。実際、人手不足の介護現場でやるのは大変難しいわけですが、こんなひと時が少しでも増えるといいなぁと思いました。
ということで100人いれば100パターン。その人の過去を掘り起こすことによって見えてくるものは果てしなく大きい。そしてそこから見える「むかしの日本」も大変貴重は記録となることだろう。
本書はそのような話と、介護現場の厳しい状況などが一体となって書かれていますが、続編があるのなら、純粋に利用者さんが語った話だけをまとめたものも読んでみたいなぁと思いました。
ところで本作は随分前に書かれたもの。六車さん、まだ介護の現場にいらっしゃるのかな?と調べてみたら、介護関連の新刊も出されていました。介護民俗学の方はどうなっているのか気になります。
六車由実プロフィール
1970(昭和45)年静岡県生れ。社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員。大阪大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。専攻は民俗学。2003(平成15)年、『神、人を喰う――人身御供の民俗学』でサントリー学芸賞受賞。東北芸術工科大学芸術学部准教授を経て、介護士に。介護の現場に民俗学の「聞き書き」の手法を取り入れた経緯を綴った『驚きの介護民俗学』で脚光を浴びる。同書は日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。2018年5月現在、デイサービス施設「すまいるほーむ」管理者・生活相談員。介護の世界をより豊かにする試みを続けている。(新潮社・著者プロフィールより)
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驚きの民俗学を読んでいるとき、ずっとこちらの本のことを思い出していました。
