あしたの朝子:山口恵以子著のレビューです。
- 作者:山口 恵以子
- 発売日: 2015/06/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
著者の母親の物語は、昭和の風景が広がる
著者の山口恵以子氏のお母様の物語を綴ったという本書。昭和27年からはじまる話は、目まぐるしく変わりゆく日本と、逞しく生きる人々の様子など、パワーに満ち満ちた時代の良さが清々しく描かれた作品でした。
館山市の旅館「しろやま旅館」の娘、朝子。オペラ歌手を目指していたが、扁桃腺手術で声帯がおもわしくなく断念。さらに恋愛するも想いが叶わず。
失恋をきっかけに親の反対を押し切り、声優への新たな道を目指し上京するが、その道も険しくバイトに明け暮れる毎日。
そんな朝子の目の前に現れたのが谷口だった。東京・江戸川区の小さな鋏工場の息子谷口の元へあっさり嫁ぐ。
前半の朝子の独身時代の様子も楽しかったが、結婚後の舅との関係や夫の浮気癖、集団就職の募集や、若い工員たちの上京後の世話等々、旅館のお嬢さんとして育ったどこかふわふわした感じがあった朝子が、どんどん妻になり、母になって、問題に立ち向かってゆく逞しい姿が印象的でした。また、朝子の母親以上にサポートしてくれた叔母との関係も生涯変わることなくずっと心温まるものがあった。
昭和から平成へ、山口さんもちょこっと登場
著者の山口さんもちょこちょこと登場するが、あくまでも脇役。しかし、ラストは彼女が書いた小説が受賞するところで終わっている。時間を重ねて今に繋がった感が味わえた。
「お酒、呑みすぎるんじゃないわよ」と、東京タワーと同じ年の娘を送り出す母親の言葉に、思わずクスリと笑ってしまう。
静かな余生を娘と一緒に過ごされている様子に、長い長い道のりを歩いて来た女性の姿が浮かび上がります。
以前読んだ「月下上海」より、全体的に無理なく描かれているのもやはり毎日一緒に過ごされているお母様のことを書いたからでしょうか。娘が書いた自分の小説。どんな気持ちでお読みになったのかな?80歳をすぎたお母様の感想を是非、聞いてみたいです。