
新しい情報システムを構築するとき、SIerに依頼するのではなく自分たちでクラウドサービスを組み合わせることが当たり前になりました。これは便利な一方で、さまざまな問題が発生し、その現象には名前がつけられるように。今回はこういった問題の現状と、その対策について紹介します。
SaaSが多すぎて管理できない問題
複数のクラウドを組み合わせて利用することが前提となった背景として、次から次へと登場する便利なクラウドサービスがあります。営業はSalesforce、会計はfreeeやMoney Forward、ドキュメントはGoogle Workspace、内部チャットはSlack、プロジェクト管理はNotionやAsana、といった具合です。
これらすべてがSaaS(サース:Software as a Service)*で提供され、多くの企業で必要十分な機能が月額の利用料を支払うだけで使える時代です。
*SaaS:必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェアのこと。
組織全体として導入するのではなく、部署単位で最適なツールを導入することもできます。業務単位でのコストパフォーマンスを考えたとき、SIer*にシステム開発を依頼するよりも安価であるため、情報システム部門としても導入を止めることが難しいのです。
「システムインテグレーター」の略で、顧客に合わせたシステムを設計、開発、運用、保守などあらゆる業務をまとめて担当する会社を指す。
■SaaS散在の問題点
この結果として、便利さと引き換えに「SaaSスプロール(SaaS Sprawl)」という課題が生まれました。これは、組織内に数十や数百といった規模のSaaSサービスが散在する状態を指す言葉です。
単に便利なサービスがあるだけでなく、それぞれが独立してデータを保持し、それらを連携しきれていない状況が発生しているのです。
こうなってしまうと、ツールが増えすぎることによって、逆に業務が煩雑化する状況が発生するようになってしまいます。
他の業務と連携しようとしたときに、データが連携していないため、複雑なデータの加工が必要になるのです。そして、情報システム部門としても社内にどれだけのSaaSがあるのか把握することが難しくなってきているといいます。
乱立するSaaSを統合するには
乱立する複数のSaaSを統合したいものですが、SaaSはその運営企業のタイミングで更新されます。つまり、従来のようなシステム間を連携する仕組みを作っても、ツールが更新されると動作しなくなってしまうのです。
ここで必要になるのが、「ダイナミックインテグレーション」という考え方です。従来のように「決まったシステム間の固定的な連携」を作るのではなく、環境変化やツールの更新に対しても自動的かつ柔軟に連携できる仕組みを作ることを意味しています。
これはSaaS間の連携だけではありません。社内にはこれまでに開発されたシステムも稼働しており、これらのシステムとの統合も考えなければなりません。手作業でスクリプトを作成したり、Webhook*によって連携したりする方法もありますが、連携するツールが増えると、あっという間にスパゲッティ状態*に陥ります。運用が属人化し、ツールが更新されるたびに壊れてしまうのです。クラウドが無限に増える時代に、手動での開発や連携に限界があることは明らかです。
*Webhook:アプリケーション間で連携するとき、一方からもう一方に対してイベントを自動的に通知する仕組み。人が操作することなくシステム間を連携できる。
*スパゲッティ状態:複数の処理が複雑に入り組んで、スパゲッティが絡み合ったように見え、全体を把握できない状態。
ここで登場するのが、「iPaaS(アイパース:Integration Platform as a Service)」です。簡単に言えば、「クラウドやオンプレミス、SaaSをつなぐための統合専用プラットフォーム」です。
iPaaSの考え方
iPaaSで大事なのは、単に複数のサービスを「連携する」ことではなく、「連携を抽象化する」ことです。
APIが変更されても、それを動的に吸収できれば、修正にかかる作業がなくなります。エラーが発生しても再試行やログ出力、データ変換の一元化などができれば、品質も確保できます。
これを実現するためには、「OpenAPI」と呼ばれるAPIの標準的な仕様に準拠すること、「GraphQL」という柔軟な問い合わせ方法を使うことが考えられます。これにより、接続設定を自動的に生成でき、SaaSを導入したときの連携にかかる工数も削減できる可能性があります。
さらに、近年はiPaaSの進化が目覚ましく、単なるデータ連携だけでなく、リアルタイムでのイベント処理や機械学習の使用にまで拡張されています。
つまり、連携したい項目を単純に対応づけるだけでなく、意味的な関係をAIが判断してデータの統合を提案できるようになってきました。担当者はそれを調整するだけで済むため、これこそが「ダイナミックインテグレーション」だと言えるでしょう。
異常検知もAIが判断し、どのSaaSをどうつなげると業務効率が最大化するかをAIが提案してくれるような未来が現実になりつつあります。
利用者としては、事前に統合するための構成を設計しておくというよりも、動的に生成される連携から将来の姿をイメージすることが大事になってきます。SaaSスプロールに課題を感じている企業ほど、ダイナミックインテグレーションを検討する段階にあると言えるでしょう。
まとめ
SaaSスプロールによって、データが特定の部門内に閉じ込められることを防ぐために考えるべきは、「技術」よりも「文化」です。それぞれの部署が他のサービスとの連携を意識して、全体最適を考えられるかが、ダイナミックインテグレーションにおいて重要です。
iPaaSのようなツールの選定や、連携についての手法を考えるだけでなく、組織全体としての視点から立場に捉われず協力できることが求められています。
増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)。情報処理技術者試験にも多数合格。ビジネス数学検定1級。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピューターを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発、データ分析などを行う。著書に『Pythonではじめるアルゴリズム入門』『図解まるわかり プログラミングのしくみ』『「技術書」の読書術 達人が教える選び方・読み方・情報発信&共有のコツとテクニック』(翔泳社)、最新刊の『実務で役立つ ログの教科書』(翔泳社)がある。
※本記事に記載されている会社名、製品名はそれぞれ各社の商標および登録商標です。
※本稿に記載されている情報は2026年1月時点のものです。
