名古屋大学は3月12日、がん免疫療法で用いられるCAR-T細胞療法の効果が体内で長く続く仕組みの一端を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学の竹内裕貴大学院生、葉名尻良助教、寺倉精太郎講師、清井仁教授らの研究グループが行ったもの。研究成果は、「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」に掲載されている。

CAR-T細胞療法は、患者自身の免疫細胞(T細胞)を体外で遺伝子改変し、がん細胞を効率よく攻撃できるようにしてから体内に戻す治療法であり、一部の血液がんに対して高い治療効果を示している。一方で、治療後にCAR-T細胞がどれだけ長期間体内に残り、働き続けるかには個人差があり、その違いが治療効果の持続性に影響すると考えられてきた。しかし、CAR-T細胞の持続性を左右する具体的な生物学的仕組みについては、これまで十分に分かっていなかった。
研究グループは、CAR-T細胞における遺伝子発現やタンパク質の変化を網羅的に解析し、細胞実験および患者データの解析と組み合わせることで、同細胞内で「コレステロールを作る働き(コレステロール生合成)」が重要な役割を担っていることを見いだした。解析の結果、コレステロール生合成に関わる代謝経路が活発なCAR-T細胞ほど増殖能力や機能が維持されやすく、体内で長く生存する可能性が高いと判明している。
また、コレステロール生合成を調節する薬剤を用いた細胞実験において、この代謝経路を抑制するとCAR-T細胞の増殖や機能の低下が確認された。これにより、コレステロール代謝がCAR-T細胞の働きを制御する重要な要因であることが裏付けられている。さらに、患者データの解析においても、血中の脂質指標とCAR-T細胞の体内での持続性との間に関連が認められ、基礎研究の結果と臨床データの一致が示されている。
次に異なるタイプのCAR-T細胞を比較したところ、CARの設計の違いによって細胞の代謝の特徴が変わり、それが持続性に影響する可能性が判明した。具体的には、CD28型のCAR-T細胞ではコレステロール生合成が比較的弱く、体内での増殖や持続性がやや限られる傾向が見られた。一方、4-1BB型やCD79a/CD40型のCAR-T細胞では、コレステロール代謝の働きがより活発であり、細胞が増えやすく、長期間体内で働き続けることが確認された。
これらの成果は、CAR-T細胞の代謝状態を調整することで、治療効果をより長く持続させる新しい治療戦略の開発につながる可能性を示すものである。「今後は、コレステロール代謝に関連する分子を指標として、治療前にCAR-T細胞の効果持続性を予測する新たなバイオマーカーの開発や、代謝を調節する薬剤を組み合わせた新しい治療戦略の検討などが期待される」と、研究グループは述べている。
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