電気通信大学は3月12日、マイクロ波を用いて乳がんを正確に診断するための新しい画像再構成アルゴリズムを開発したと発表した。この研究は、同大大学院情報・ネットワーク工学専攻の中嶋睦月氏、朱沛賢助教、木寺正平教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「IEEE Transactions on Antennas and Propagation」にオンライン掲載されている。

乳がんは女性で最も罹患率が高いがんであり、早期発見が生存率を左右する。しかし、主流のマンモグラフィは放射線被ばくや検査時の痛みを伴ううえ、日本人女性の約8割が該当する乳腺密度が高い「高密度乳房(デンスブレスト)」では、がんと乳腺の識別が難しいという課題があった。代替手法として期待されるマイクロ波イメージングも、乳腺とがん組織の電気的性質が酷似しているため、これまでは画像が不鮮明になりやすいという数学的な壁があり、十分に解明されていなかった。
研究グループは、マイクロ波散乱の非線形性に起因する問題を解決するため、背景情報を逐次更新する「背景更新型コントラストソースインバージョン法(BU-CSI)」を開発した。この手法により、組織の電気的性質を示す複素誘電率のわずかな違いを高精度かつ定量的に可視化することに成功した。
高密度乳腺モデルを用いたシミュレーションの結果、提案手法は従来の標準的な手法と比較して、がん組織の特定精度が飛躍的に向上することが確認された。特に誘電率の実部において、乳腺と識別できるレベルで正確な再現が可能となった。また、がんが存在しない場合には乳腺と同程度の誘電率を推定しており、偽陽性を抑えられることも示された。本手法は膨大な計算時間を要する順解法を繰り返す必要がなく、計算コストを低く抑えつつ高精度化を実現した点が画期的である。
同研究成果は、被ばくや痛みのない乳がん診断技術の精度を大きく高めるものである。計算負荷が低いことから、装置の小型化や低価格化にも寄与すると考えられる。
「本技術は、将来的に病院のベッドサイドや検診車、さらには家庭でのセルフチェックを可能にするポータブルな乳がん検診装置のコア技術になることが期待される。また高頻度計測を可能とするため、観測データの時間差分を用いることで、より高精度な診断が可能になると考えられる」と、研究グループは述べている。
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