量子科学技術研究開発機構(QST)は3月11日、悪性黒色腫(メラノーマ)など多くのがん細胞の表面に存在する「代謝型グルタミン酸1型受容体(mGluR1)」を標的とし、放射性核種を置き換えるだけで診断と治療を一体化できる「セラノスティクス薬剤」の開発に成功したと発表した。この研究は量子医科学研究所の張明栄部長、謝琳主幹研究員らの研究グループによるもの。成果は「Molecular Therapy」にオンライン掲載されている。
近年、がん治療において「治療(Therapy)」と「診断(Diagnosis)」を融合させた「セラノスティクス」が注目されている。

特に放射性同位元素を用いる「ラジオセラノスティクス」では、がん細胞の目印に集まる薬剤にPET核種などを結合させて画像診断(がんの状態や薬剤の集積量を確認)を行った後、同じ薬剤の核種を細胞殺傷能力の高いα線核種などに置き換えて治療を行う。事前に効果を予測できるうえ、極めて少量の投与でがん細胞を強力に破壊できるため、副作用を抑えた個別化医療として期待されている。
今回研究グループが着目した「mGluR1」は、悪性黒色腫や乳がん、大腸がん、膵臓がんなど幅広いがん種で高発現している分子である。これまでmGluR1を標的とした治療薬の開発は進められてきたが、効果の持続性や副作用の面で課題が残っていた。そこで同研究では、mGluR1を標的としたセラノスティクスを可能にする「PET診断薬」と「α線標的アイソトープ治療薬」のペアの開発を目指した。
研究グループは、以前開発したmGluR1標的治療薬を改良し、PET診断薬「11C-IMTM」と、α線標的アイソトープ治療薬「211At-AMTM」を開発した。悪性黒色腫の細胞を移植したマウスモデルを用いた評価では、診断薬の「11C-IMTM」を用いたPET撮像では、腫瘍部位への高い集積が確認できた。一方で、脳や血液への集積は低く、安全性の高い診断薬としての条件を満たしていた。
さらに、治療薬の「211At-AMTM」を単回投与したところ、皮下の原発巣のみならず、肺への転移巣に対しても顕著な増殖抑制効果を示し、生存期間が約2倍に延長した。難治性の膵臓がんモデルにおいても、単回投与で半数近くの個体で腫瘍が消失するという極めて高い治療効果が確認された。
同研究は、mGluR1を標的とした世界初のセラノスティクス薬剤の開発報告となる。がん細胞におけるmGluR1の発現をPET画像で事前に「診て」、それに合わせて確実に「治す」個別化医療の実現につながることが期待される。
「今後は、ヒトへの初回投与(First-in-human試験)の実施を目指し、薬剤構造のさらなる最適化や体内動態の改善、最適な投与量および回数などの検討を進めていく方針である」と、研究グループは述べている。
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・量子科学技術研究開発機構 プレスリリース