金沢大学は3月2日、筋肉の再生を誘導する新たなマクロファージ集団の同定に成功するとともに、この細胞が進行性骨化性線維異形成症(FOP)における異所性骨化の原因になっていることを解明したと発表した。この研究は、同大がん進展制御研究所の岡本一男教授、東京大学大学院医学系研究科の高柳広教授、尹文強氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Investigation」に掲載されている。

運動器の障害は、要支援・要介護となる原因の第1位を占めている。特に、加齢に伴い筋肉量や運動量が低下すると、次第に体を支える力が弱まり、転倒のリスクが高まる。転倒や打撲による筋肉の損傷は、体の不安定性をさらに増大させる要因となる。また、がんなどの疾患による長期療養においても、筋肉量の減少や筋力の低下がしばしば見られ、患者の生活の質や治療の経過に大きな影響を与えることも知られている。超高齢社会を迎えた日本にとって、こうした問題の克服は非常に重要な課題である。
骨格筋は体を動かす役割に加え、体重の約40〜50%を占める体内最大のエネルギー消費器官でもある。また骨格筋の損傷は、日常で最も頻繁に起こる外傷の一つである。筋肉が傷つくとまず炎症が起こり、その後に組織が作り直される「修復」というプロセスを経て、元の状態へと回復していく。この修復過程では、炎症を引き起こしたり抑えたりするさまざまな免疫細胞と、筋肉の再生に重要な幹細胞(筋サテライト細胞)が複雑かつ緻密に連携しあうことがわかっている。しかし、どのような免疫細胞がどのような仕組みで筋肉の修復を助けているのか、いまだ不明な点が多く残されている。
一方、筋肉の再生がうまく進まない場合、組織の線維化や異所性骨化といった組織構造の破綻が生じることがある。その深刻な例が、FOPという遺伝性の希少疾患である。FOPは、外傷や炎症をきっかけに、本来骨ができないはずの筋肉や腱に骨が形成されてしまうという、非常にまれな疾患である。現在、根本的な治療法は確立されておらず、また外科的治療や筋肉内注射も禁忌とされている。このため患者は、日常の些細な外傷や筋肉の過度な負荷に細心の注意を払いながら生活しなければならず、新たな治療法の開発が強く望まれている。しかし、外傷をきっかけになぜ異所性骨化が起こるのか、その詳しい仕組みはいまだ解明されていない。
今回の研究では、マウスの大腿屈筋群を切開して筋肉を損傷させるモデルを利用し、筋肉の修復過程を解析した。まず、損傷を受けた筋組織では免疫細胞の中でもマクロファージが最も多く集積することに着目し、筋損傷後にマクロファージがどのようなタンパク質を産生しているかを、RNAシークエンシング法により調査した。その結果、筋損傷によりアクチビンAという分子が大量に発現することを発見した。さらに、アクチビンAは筋肉の元となる幹細胞に働きかけてその増殖を促し、筋肉の再生を促す機能を持つことがわかった。
次に、損傷した筋肉に集積したマクロファージを対象に、シングルセルRNAシークエンス解析を実施し、どのようなマクロファージがアクチビンAを産生しているのかを詳細に調べた。その結果、マクロファージは複数のグループに分類されることがわかった。その中でも特定の細胞膜タンパク質(CD9、PDPN、IL-7R)を発現するグループがアクチビンAを特に多く産生し、筋肉の修復を専門的に担っていることを突き止めた。
マクロファージを持たないマウスに筋損傷を与えると、通常のマウスに比べて筋肉の修復が遅れる。しかし、このマウスにCD9陽性PDPN陽性IL-7R陽性マクロファージ集団を移植すると、筋肉の修復が改善した。一方、それ以外のマクロファージ集団を移植しても同様の効果は見られなかった。以上の結果から、このマクロファージ集団が筋肉の修復を促進する機能を持つことが明らかとなり、研究グループはこの集団を「骨格筋修復型マクロファージ:Mrep(エムレップ)」と名付けた。
さらに、MrepがアクチビンAを作れないようにしたマウスでは、筋肉の修復が大幅に遅れることが確認された。これにより、Mrepが産生するアクチビンAこそが筋肉を正常に修復するための主要因子であることが明らかになった。また、Mrepは損傷した筋肉から放出される「DAMPs」と呼ばれる危険信号分子の刺激を、細胞表面にあるTLR4という受容体を介して受け取ることで、アクチビンAを産生することも判明した。
次に、Mrepによる筋肉修復とFOPの病態との関連を調べた。FOPでは異所性骨化が起こる前に患部で強い炎症が生じることや、免疫抑制剤の投与により新たな骨化が抑えられたという臨床報告から、免疫系の関与が示唆されてきた。またFOPの原因遺伝子は、骨形成を調整する受容体の一つであるACVR1の遺伝子変異であることが同定されている。近年、アクチビンAがこの変異型ACVR1に結合して骨を作る異常なシグナルを誘発することがわかってきたが、外傷に伴う炎症がアクチビンAの産生にどう関わるのかは不明であった。
研究グループは、FOPの異所性骨化を引き起こすアクチビンAの供給源が、筋損傷により集積するMrepである可能性に着目し、検証を行った。実際に、FOPのマウスモデルに筋損傷を与えると、損傷部位に異所性骨が形成され、その部位ではMrepがアクチビンAを産生していることを確認した。Mrep由来のアクチビンAは、筋線維間の隙間に存在する間葉系前駆細胞上の変異型ACVR1に作用して刺激を与え、骨を作る骨芽細胞へと分化誘導させることがわかった。一方、FOPのマウスモデルにおいてマクロファージがアクチビンAを産生できないようにすると、異所性骨の形成が抑えられた。加えて、TLR4に対する阻害剤を投与するだけでも異所性骨の形成が抑制された。
以上の結果から、Mrepは通常の筋損傷では筋肉の修復を促進するが、FOPにおいては外傷をきっかけに集積し、異所性骨化を引き起こす因子として働くことが明らかになった。
今回の研究により、筋肉の修復に不可欠な新しいマクロファージ集団Mrepの存在が明らかとなった。さらに、通常なら筋肉を治すはずのMrepの働きが、FOPという特殊な病的環境下では「異常な骨を作る指令」へとすり替わってしまうという病態機序を突き止めることができた。
「本研究成果により、Mrepを標的とする制御法が筋肉の再生を促す新しい治療法だけでなく、FOPの異所性骨化を食い止める画期的な薬の開発にもつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・金沢大学 プレスリリース