東京科学大学は3月2日、紅麹コレステヘルプ腎症の原因物質と発症機序を解明したと発表した。この研究は、同大医歯学総合研究科 腎臓内科学分野の關口裕太大学院生、森雄太郎テニュアトラック助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International Reports」に掲載されている。

2024年3月に小林製薬の紅麹を原料とするサプリメントによる健康被害が報告され、回復した患者においても、その多くが部分的な腎機能低下を残した状態であることが判明している。原因物質についてはプベルル酸の可能性が高いとされているものの、依然として不明な点が多く、発症機序についても十分には解明されていない状況が続いていた。
今回の研究では、紅麹コレステヘルプ有害ロット/プベルル酸腎症モデルマウスを作製した。その結果、有害ロットを投与したマウスでは、血液検査において腎機能障害を認め、尿検査でもアルブミン尿や尿糖が確認された。また、病理切片では、ヒトと同様の尿細管障害が認められ、Masson trichrome染色およびPicro-Sirius Red染色により、腎臓に線維化が生じていることが確認された。一方で、炎症細胞浸潤や糸球体障害は顕著ではなかった。プベルル酸についても腹腔内投与を行ったところ、同様の所見が得られた。
これらのモデルに対してトランスクリプトーム解析を行ったところ、紅麹コレステヘルプの有害ロットおよびプベルル酸を投与したマウスの腎臓は、非常に近いRNA発現パターンを示すことが明らかになった。この結果は、プベルル酸が原因物質である可能性と矛盾しない。
さらに、パスウェイ解析により、これらの処理が腎臓におけるミトコンドリア機能を著しく低下させることが示唆された。
そこで次に、この現象がヒト腎由来初代培養細胞においても再現されるかを検討した。その結果、プベルル酸は尿細管上皮細胞において細胞死を引き起こすことがわかった(EC50=66.04μM、抗がん薬シスプラチンの約2倍)。その細胞死は、主として壊死(ネクローシス)だった。
細胞死が生じるよりも短時間の処理を行った細胞では、ミトコンドリア膜電位の低下、ATP量の減少、ROSの増加がみられた。また、バイオアナライザーによる測定では、ミトコンドリアの最大呼吸能の低下が観察され、呼吸鎖障害によるミトコンドリア機能低下が生じていることが示唆された。これらの結果から、ミトコンドリア障害が細胞死の一因であると考えられた。
今回の研究によって、これまで機序が明らかでなかったコレステヘルプ腎症について、その発症機序の主要な部分が解明された。この成果は、後遺症に苦しむ患者の予後改善や治療法の確立に向けた今後の研究の礎となることが期待される。一方、ミトコンドリアが豊富な他臓器における障害は、ヒトではこれまで報告されておらず、影響が腎特異的に生じる理由については、物質の取り込み経路などを含めたさらなる検討が必要であると考えられる。
また、この研究で使用したヒト腎由来オルガノイドは、通常の培養細胞と比較して約10倍高い感度で毒性に対する応答を示しており、薬剤毒性試験における創薬プラットフォームとしての有用性が示された。「これらのオルガノイド技術を応用した創薬支援を事業とする大学発ベンチャーの設立も計画している」と、研究グループは述べている。
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