東京農業大学は3月3日、人工知能(AI)を活用して、大腸がん細胞の増殖を抑制する新たな植物由来成分(フィセチン、グラブリジン、シリビニン)を特定したと発表した。この研究は、同大総合研究所の大塚蔵嵩客員教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」に掲載されている。

がんは世界的に主要な死因の一つであり、特に大腸がんは罹患数が世界で3番目に多く、死亡率も2番目に高い極めて深刻な疾患である。近年の研究から、果物や野菜に含まれる栄養素(ファイトケミカル)が、遺伝子の働きを調節するマイクロRNA(miRNA)の状態を改善し、健康維持に寄与することが示唆されてきた。しかし、膨大な種類のファイトケミカルの中から、どの成分がどのmiRNAに作用するかを個別に試験することは困難であり、新しい機能性成分の効率的な発見を妨げる要因となっていた。
そこで、今回の研究では、既知のがん抑制成分であり、miRNAの発現に作用することが知られているレスベラトロールなどの成分を例として、類似した特徴を持つファイトケミカルを人工知能(AI)によって膨大な論文や特許情報から予測した。
候補の中から入手可能性や安全性を考慮して選んだ成分を大腸がん細胞株で試験したところ、フィセチン(イチゴなどに含有)、グラブリジン(甘草に含有)、シリビニン(マリアアザミに含有)の3種が強い増殖抑制効果を示すことを確認した。
さらに、次世代シーケンシング法を用いて、これらの成分ががんに関連するmiRNAの発現に影響を与えるとともに、がんに関与する分子経路(アポトーシス、細胞老化など)にも関わることを突き止めた。
今回の研究は、AIによるデータマイニングと実験生物学を組み合わせることで、膨大な食品成分・ファイトケミカルの中から、その機能性の手がかりを効率よく見出せる可能性を示した。今後、機能性成分の摂取によって体内で起こりうる変化を、miRNAなどのバイオマーカーと組み合わせて捉えることで、「状態の変化」をよりわかりやすく可視化できるアプローチにつながることも期待される。さらに3D培養モデルなどを用いて、体内環境に近い条件での作用や、適切な摂取条件(量・組み合わせ・期間など)について検討を進めることで、効果をより詳細に評価できる可能性がある。miRNAの観点では、ヒトの体内で働くmiRNAだけでなく、食品中に含まれるmiRNAや、細胞間の情報伝達に関わるエクソソームといった領域も近年注目されており、食と健康を結ぶ新たな研究テーマとして発展する可能性がある。将来的にはこのような知見が蓄積することにより、健康維持や個人の状態に合わせた栄養管理戦略の構築につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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・東京農業大学 プレスリリース