熊本大学は3月3日、脳梗塞既往のある非弁膜症性心房細動患者で直接経口抗凝固薬(エドキサバン)併用カテーテルアブレーション治療の有効性と安全性を多施設共同で検証したと発表した。この研究は、同大病院脳神経内科・脳卒中治療学寄付講座の木村和美特任教授、福井大学医学部脳神経内科学の西山康裕教授、新東京病院の清水渉副院長、日本医科大学循環器内科の岩﨑雄樹准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Neurology」に掲載されている。

心房細動は臨床で最も頻度の高い不整脈であり、加齢とともに有病率が急速に上昇する。また、心房細動は心臓内に形成される血栓を介して脳梗塞を引き起こし、その重症度、死亡率、後遺症の点で他の脳梗塞と比較して著しく転帰不良であることが知られている。直接経口抗凝固薬(DOAC)の普及により心房細動関連脳梗塞の発症率は低下しているものの、依然として年間1~4%の患者が脳梗塞を発症し、特に脳梗塞既往患者では再発リスクが7~10%と極めて高いことが問題となっている。この高い再発リスクをいかに低減するかは、脳卒中診療と循環器診療の双方における重要な課題である。
カテーテルアブレーションは、薬物療法で十分な効果が得られない場合や、症状の強い心房細動に対して確立した治療法であり、近年は早期のリズムコントロール戦略が心血管イベント抑制に寄与する可能性も報告されている。後ろ向き観察研究では、カテーテルアブレーション施行例で脳卒中や死亡が少ないとする報告が多数ある。その一方で、脳梗塞発症後早期の心房細動患者は高齢・虚弱・併存疾患を多く抱えており、侵襲的治療であるカテーテルアブレーションの安全性が懸念される面もある。そのため、脳梗塞既往のある心房細動患者に対し、脳梗塞二次予防としてカテーテルアブレーションを積極的に行うべきかどうかについては、明確なエビデンスが不足していた。
今回実施したSTABLED試験は、この臨床的課題を解決することを目的に、脳梗塞発症後1~6か月の心房細動患者を対象として、抗凝固療法単独と抗凝固療法+カテーテルアブレーションを直接比較する前向きランダム化比較試験として計画された。目標症例数は各群125例の合計250例とし、2018年3月に登録を開始、2021年7月には目標を上回る251例の登録を達成した。登録後は最短3年以上の追跡期間を設け、観察期間は2024年3月に終了した。
研究には、20~85歳の非弁膜症性心房細動を有し、6か月以内に脳梗塞を発症した患者で、エドキサバンを使用中または使用予定、かつmRSで3以下の基準を満たす患者が登録された。参加者は、標準的な薬物療法のみを受ける「標準薬物治療群」と、標準薬物治療に加えてカテーテルアブレーションを受ける「アブレーション群」に無作為に割り付けられた。解析対象となった249人のうち、75.1%が男性で、平均年齢は71.7歳であった。標準薬物治療群は124人、アブレーション群は125人で、両群とも追跡期間の中央値は3年以上であった。
主要評価項目(脳梗塞の再発、全身性塞栓症の発症、総死亡、心不全による入院の複合イベント)の発現率は、標準薬物治療群で4.9%/100人-年、アブレーション群で5.6%/100人-年であり、ハザード比は1.11(95%信頼区間0.62~2.01)であった。死亡率は標準薬物治療群で1.0%/100人-年、アブレーション群で2.8%/100人-年であった。カテーテルアブレーション関連の有害事象として、心タンポナーデと脳梗塞が各1件(各0.8%)認められた。
これらの結果から、非弁膜症性心房細動を有し最近脳梗塞を発症した患者において、標準薬物治療にカテーテルアブレーションを追加しても、主要複合評価項目のリスクを有意に低減する効果は確認されなかった。
今回の研究成果は、脳梗塞後の治療選択において、アブレーションは一定の効果やメリットがある治療だが、必ずしも標準治療と併用することが有利とは言えないこと、また高リスク患者に対しては慎重な判断が必要であることを、世界で初めてエビデンスとして提示するものである、と研究グループは述べている。
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・熊本大学 プレスリリース