滋賀医科大学は3月3日、日本人一般男性におけるアルツハイマー病(AD)関連血液バイオマーカーの関連因子を明らかにしたと発表した。この研究は、同大NCD疫学研究センターおよび神経難病研究センターとシスメックス株式会社との共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に掲載されている。

ADは認知症の主な原因であり、記憶力や判断力などの認知機能が長い時間をかけて徐々に低下していく進行性の神経変性疾患である。ADでは、症状が現れる何十年も前から、脳の中に異常なタンパク質の蓄積が始まっている。代表的なADの異常蓄積タンパク質は、細胞の外に蓄積するアミロイドβ(Aβ)と、細胞の内に蓄積するタウ(Tau)タンパク質、過剰にリン酸化されたタウ(P-tau)であり、これらはそれぞれ「老人斑」および「神経原線維変化」と呼ばれている。症状が出る前のできるだけ早い段階でADの兆候を捉えることが、将来の治療や予防戦略の鍵となっている。
現在、これら脳内の変化(Aβの蓄積、Tau蓄積、神経変性といった病理学的変化)を調べるにはPET検査や脳脊髄液検査が用いられているが、費用が高く、身体への負担も大きいという課題がある。これに対し、血液で調べられる「血液バイオマーカー」は身体への負担が少なく多くの人に適応できる方法として近年期待されている。しかし、これまでの血液AD関連バイオマーカー研究の多くは、すでに認知症や認知機能障害のある患者を対象としており、大規模な一般住民集団を対象とした研究はほとんど行われていなかった。
そこで研究グループは今回、日本人一般男性を対象に、血液中のAD関連バイオマーカーとさまざまな要因との関連を検討するとともに、認知機能との関連を検討した。
研究では、滋賀県草津市住民から無作為に抽出された40歳以上の男性845人(46~83歳、平均年齢69歳)を対象とした。AD関連バイオマーカーであるAβ40、Aβ42、総tau(T-tau)、P-tau181およびNfLの血漿濃度を全自動免疫測定装置High Sensitivity Chemiluminescence Enzymeimmunoassay(HISCLTM-5000)を用いて測定。認知機能はCognitive Abilities Screening Instrument(CASI)で評価(100点満点)した。
線形回帰モデルを用いて、AD関連バイオマーカーと年齢や腎機能を示す推定糸球体濾過量(eGFR)を含めたさまざまな因子との関連を検討するとともに、認知機能との関連を検討。また、対象者をAβ42/Aβ40のカットオフ値0.102で2群に分け、AD関連バイオマーカーおよびCASIスコアを比較した。
血漿中のAβ40、Aβ42、T-tau、P-tau181、NfLおよびP-tau181/T-tau比は年齢が高いほど高く、eGFRが低いほど高いという関連を示した。一方、Aβ42/Aβ40比は年齢と負に関連し、eGFRとの明らかな関連を認めなかった。
Aβ40、Aβ42、T-tau、P-tau181、NfLおよびP-tau181/T-tau比はCASIスコア(認知機能)と有意な負の関連を示したが、年齢や教育年数、eGFRなどの影響を取り除いたところ、T-tauとP-tau181のみがCASIスコアと有意に負に関連することがわかった。
Aβ42/Aβ40≦0.102であるアミロイド陽性群(脳内にアミロイドが蓄積している可能性が高い)の割合は、年齢が高いほど多いという結果だった。60~69歳では、アミロイド陽性群と陰性群(Aβ42/Aβ40>0.102)で、年齢、CASIスコアに差はなかったが、P-tau181、P-tau181/T-tau比およびNfLはいずれもアミロイド陽性群で有意に高値を示した。同様に、70歳以上においても、P-tau181、P-tau181/T-tau比およびNfLはいずれもアミロイド陽性群で有意に高値を示した。
これらのことから、同研究で測定したAD関連バイオマーカーのうち、P-tau181およびT-tauの血漿濃度が高いほど、認知機能が低いことが明らかとなった。この関連は、年齢や腎機能を含む複数の要因の影響を統計的に取り除いた後でも認められた。
特に60歳以上で、脳にAβが溜まっている可能性が高い人では、神経原線維変化の形成を示す指標(P-tau181、P-tau181/T-tau比)や神経傷害を示す指標(T-tau、NfL)が高い傾向が見られた。一方で、認知機能には明らかな差が認められなかった。つまり、症状のない段階でも、血液AD関連バイオマーカーによって脳内で進行しているADの病理変化を捉えられる可能性を示している。ただし、血液中のAD関連バイオマーカーは年齢や腎臓機能の影響を強く受けるため、結果を解釈する際には、これらを合わせて考えることが重要と考えられる。
以上より、血液中のAD関連バイオマーカーが年齢や腎機能と密接に関連すること、そして特にT-tauおよびP-tau181が、症状が現れる前の段階(前臨床期)における認知機能低下と関連する可能性が示された。
今回の研究結果は、日本人の一般男性集団を対象とした横断研究結果であり、今後は、日本人の一般女性集団を対象とした横断研究結果と組み合わせて解析することで、性差によって異なるのか否かを明らかにしていく必要がある。
「縦断研究の結果を含めた検討を進めることで、症状が現れる前の段階でADを捉えるために、血液バイオマーカーをどのように解釈すべきか、より精度の高い知見が得られると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・滋賀医科大学 プレスリリース