神戸大学は3月2日、STAT3経路に着目した敗血症関連骨格筋萎縮の新規治療法を発見したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院 救命救急科の大野雄康病院講師、小谷穣治教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

敗血症は、病原体に対する制御できない宿主の免疫反応により、多臓器不全が引き起こされた状態である。2020年のデータによると、全世界で推計4890万人の敗血症患者が発生し、しかもこの数は増え続けている。
敗血症患者の40~70%が、過度な炎症による敗血症関連骨格筋萎縮を発症する。集中治療室(ICU)において骨格筋萎縮を発症すると、離床や人工呼吸離脱が困難になり、患者のQuality of life(QOL)が大きく制限される。さらに、骨格筋萎縮は長期生存率の低下とも関連する。このような重大な問題を引き起こすにも関わらず、敗血症関連骨格筋萎縮の発症機序には不明点が多く、有効な治療法も確立されていなかった。
今回、研究グループが注目したのは、代表的な炎症性サイトカインIL-6の下流にある炎症伝達シグナル「STAT3経路」である。
まず、8~12週の雄性C57/BJ6マウスに糞便懸濁液(1.0mg/g)を腹腔内注射し、敗血症を導入した。治療群のマウスには敗血症導入1時間後にSTAT3阻害薬であるC188-9(50mg/kg)を腹腔内注射した。処置1日後および3日後に前脛骨筋を摘出し、分子細胞学的評価と形態学的評価を行った。さらに、細胞レベルでのより直接的な反応を観察するため、マウスC2C12筋管細胞をグラム陰性菌の細胞壁外膜を構成するリポポリサッカライド(LPS、1μg/mL)およびC188-9(10μM)存在下/非存在下で2日間培養し、同様の検討を行った。
最後に、得られた実験結果の臨床的妥当性を検証するために、同大医学部附属病院ICUに入室した敗血症患者を対象とした前向き観察研究を実施した。ICU入室時のIL-6濃度と、種々の敗血症の重症度指標(血中乳酸値、CRP、SOFA score、プロカルシトニンなど)、および腸腰筋指数(CTで計測した腸腰筋横断面積を身長の2乗で除した数値)の経時変化の関係を調べた。
マウスにおいて、敗血症は前脛骨筋のSTAT3経路を活性化(P-STAT3/STAT3比上昇で計測)した。さらに、ユビキチンプロテアソーム経路(MuRF1およびAtrogin-1/MAFbxタンパク発現上昇)およびオートファジー経路(LC3B-IIタンパク発現上昇と蛍光免疫染色によるLC3 dotsの増加)が活性化し、これにより骨格筋萎縮を発症した。C188-9を投与すると前脛骨筋のSTAT3経路とユビキチンプロテアソーム経路の活性が減弱し、骨格筋萎縮が改善した。一方、C188-9はオートファジー経路には影響を与えなかった。
マウスC2C12筋管細胞においても、LPS投与により同様のシグナルが活性化し、筋管細胞萎縮が生じた。C188-9投与により、マウスと同様にSTAT3経路とユビキチンプロテアソーム経路の活性が減弱し、筋管細胞萎縮が改善した。細胞レベルでもC188-9はオートファジー経路の活性に影響を与えなかった。
さらに敗血症患者において、血漿中IL6濃度は敗血症の重症度、および腸腰筋指数の減少率と有意に相関していた。また、敗血症関連骨格筋萎縮が重度であった群は、そうでない群に比べて累積生存率が有意に低下した。
以上の結果により、敗血症はSTAT3経路、ユビキチンプロテアソーム経路およびオートファジー経路の活性上昇を通して骨格筋萎縮を引き起こすことが示された。
マウスおよび筋管細胞でSTAT3を薬理学的に阻害すると、ユビキチンプロテアソーム経路の活性が減弱し、敗血症関連骨格筋萎縮が治療できた。これらの結果は、これまで有効な治療法がなかった敗血症関連骨格筋萎縮の新規治療の可能性を示唆する。
STAT3経路を抑制する薬剤は、重症COVID-19の治療や関節リウマチの治療など、実臨床の現場ですでに使用されている。これらの薬剤を敗血症患者に転用(ドラッグリポジショニング)することにより敗血症関連骨格筋萎縮を治療し、敗血症患者の生命予後およびQOLが改善できる可能性がある。
「今回の研究成果は、STAT3阻害薬の臨床応用の理論的根拠を提示するものだ。本研究成果に基づき、今後臨床試験が行われ、最終的には敗血症患者の生命予後・機能予後の改善につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・神戸大学 プレスリリース