山口大学は2月18日、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)の患者免疫グロブリンG(IgG)が、血液神経関門(blood-nerve barrier:BNB)を破綻させる分子機序を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科臨床神経学講座の清水文崇准教授、大学研究推進機構総合科学実験センター資源開発分野(遺伝子実験施設)の水上洋一教授、渡邊健司助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」に掲載されている。

CIDPは、2か月以上にわたり徐々に進行する四肢の筋力低下と感覚障害を認める免疫介在性の末梢神経障害である。CIDPの原因は未解明だが、髄鞘が免疫によって壊される(脱髄)が主病態となる。脱髄を起こす原因のひとつとして、IgG自己抗体が髄鞘に結合することで、マクロファージや補体などの免疫に関わる細胞やタンパク質が髄鞘を攻撃してしまう可能性が考えられている。最近では、CIDPに対してIgGを分解する作用機序をもつFcRn阻害薬(エフガルチギモド)が新たに用いられるようになってきた。
CIDPは障害される神経の部位や障害のされ方によって典型的CIDP、多巣性CIDPなどに分類され、それぞれ病態が異なっていると考えられている。また、多巣性運動ニューロパチー(multifocal motor neuropathy:MMN)は、CIDPの類縁疾患で感覚障害を伴わない左右非対称性、上肢遠位優位の筋力低下、筋萎縮を主徴とする後天性の慢性脱髄性末梢疾患である。
これまでCIDP患者のIgG自己抗体が、BNBにどのような影響を及ぼすかが不明であった。そこで研究グループは、独自に樹立したヒトBNB構成条件的不死化血管内皮細胞株とCIDP患者やMMN患者の血清から精製したIgGを用いて、CIDPでのBNB破綻の詳細な分子メカニズムを解明する研究に着手した。
実験の結果、典型的CIDP患者由来IgG(典型的CIDP-IgG)や多巣性CIDP-IgGはMMN-IgGや健常者IgGと比較し、ヒトBNB構成内皮細胞の透過性を増加させることが明らかになった。
また、RNAシークエンス、ハイコンテントイメージング、BNB機能解析により、以下が示された。
1)典型的CIDP-IgGはヒトBNB構成内皮細胞株のMIP-3α、GM-CSF、VCAM-1を増加させる。
2)多巣性CIDP-IgGはBNB構成内皮細胞株のタイトジャンクション関連タンパク質であるclaudin-5を低下させる。
3)MMN-IgGはTNF-αやVCAM-1を増加させる。
さらに、典型的CIDP-IgGや多巣性CIDP-IgGにGM-CSF中和抗体を併せて作用させると、BNB構成内皮細胞株の透過性低下が改善された。一方、GM-CSFをヒトBNB構成内皮細胞に作用させるとBNB透過性が増加した。
これらの結果から、典型的CIDP-IgGや多巣性CIDP-IgGが直接的にBNB透過性を増加させ、バリアー機能を低下させることが明らかになった。また、典型的CIDP-IgGや多巣性CIDP-IgGを作用させるとBNB内皮細胞から産生されるGM-CSFが増加し、BNBバリアー機能を低下させていることがわかった。
IgGにより典型的CIDPではMIP-3α、GM-CSFとVCAM-1、MMNではBNB内皮細胞でのTNF-αとVCAM-1の発現が増加し、炎症細胞の末梢神経内侵入を惹起する機序が考えられた。典型的CIDP患者、多巣性CIDP患者のIgGが直接的にBNBを破綻させることが示され、CIDP-IgGのBNBに対する病原性が明らかになった。
現在CIDPの治療薬として用いられているFcRn阻害薬(エフガルチギモド)はFcRn阻害作用を介してIgGリサイクリングを阻害することで、IgGを分解し、血中IgGを低下させる作用機序を持つ。「エフガルチギモドがBNBに対する病原性を有するIgG自己抗体を血中から低下させることで、BNB破綻を回復することが想定され、エフガルチギモドがCIDPに対してなぜ効くのかを説明しうる発見であると考えられる」と、研究グループは述べている。
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