ああ、やっぱり東京事変だなあ
4月8日。政府が緊急事態宣言を発表したというニュースが報道された翌日。東京事変が”再生”してから最初のEP『ニュース』を発売した。久々の嬉しいニュースだ。
元旦に新曲『選ばれざる国民』を発表し2月29日には”再生”後最初のライブを行った。しかしライブを観れなかった自分は、東京事変が令和2年に存在していることに実感がわかなかった。
それが新作EP『ニュース』を聴いて実感が沸いた。「ああ、やっぱり東京事変だな」と思った。東京事変にしかできない音楽だと思った。
改めて東京事変は「椎名林檎が中心のロックバンドではない」と思った。椎名林檎のソロではできない音楽。もちろん他のメンバーのソロでも作れない音楽。
EPに収録された新曲は東京事変がどのようなバンドなのかを伝えてくれる最高の『ニュース』だ。
言葉ではなく音楽で「どのようなバンドか?」を説明する
東京事変を「椎名林檎が中心のロックバンド」と思っている人が多い。
『群青日和』のMVでのセクシーで色気ムンムンな椎名林檎カッコよくギターをかき鳴らす椎名林檎の印象が強いからだろうか。たしかに『群青日和』は最高のロックチューンだが「椎名林檎が中心」と評することには違和感がある。他のメンバーも中心と思えるほどアクが強いからだ。
EPを聴けばメンバーの個性を感じるはずだ。1曲目の『選ばれざる国民』からいきなり他のメンバーのアクが強い個性を伝えてくる。
歌い出しがギターの浮雲だ。椎名林檎ではない。作曲も浮雲が担当している。
この曲は椎名林檎、浮雲、伊澤一葉の3人で歌っている。3人のコーラスワークと掛け合いのように歌い継ぐ歌唱が印象的だ。エレキギターのフレーズも耳に残る。
浮雲の才能を強く感じる曲なのだ。
その才能を活かすように亀田誠治と刄田綴色が安定感あるリズムで支え、伊澤一葉が鍵盤の音で彩り椎名林檎が歌声で華やかさを加える。それによって「東京事変の音楽」になっている。椎名林檎とバックバンドという関係性では生まれない曲だ。
再始動後に最初に発表された曲が『選ばれざる国民』である。今まで東京事変について詳しく知らなかった人に「椎名林檎が中心のバンド」ではないこととを言葉ではなく音楽で説明しているのだ。
それは他の曲でも共通している。
メンバー全員が作曲している
1:選ばれざる国民
作詞:椎名林檎 作曲:浮雲
2:うるうるうるう
作詞:椎名林檎 作曲:伊澤一葉
3:現役プレイヤー
作詞:椎名林檎 作曲:亀田誠治
4:猫の手は借りて
作詞:椎名林檎 作曲:刄田綴色
5:永遠の不在証明
作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
EPには5曲収録されており、5人のメンバーがそれぞれ1曲ずつ作曲をしている。そのためか作曲には各メンバーの個性が表れている。
伊澤一葉は過去には『キラーチューン』『雨天決行』などで作曲をしていた。過去曲からもわかるように、美しいメロディを作ることが得意なメロディメーカーである。新曲『うるうるうるう』でも美しいメロディが印象的だ。
『現役プレイヤー』はベースの亀田誠治が作曲をしている。
多くのJ-POPの名曲をプロデュースした亀田誠治らしいキャッチーなメロディと展開。しかしベースソロから始まる曲だし、歌うようにメロディを奏でる複雑なベースラインは歌メロと同じぐらいに目立っている。
『選ばれざる国民』では浮雲のギターフレーズが印象的だった。『うるうるうるう』では伊澤一葉の鍵盤が目立つ部分が多い。椎名林檎が作曲した『永遠の不在証明』はイントロなしで歌から始まる。歌声が演奏を引っ張るような曲だ。
作曲者の担当楽器が映えるようになっているとも思う。作曲者の長所を引き立つ楽曲が揃っているのだ。編曲時に意識していたのかもしれないが、作曲者の癖や個性によって自然とそうなったのではと思う。
その中で刄田綴色が作曲した『猫の手は借りて』は特殊に感じる。
刄田綴色のドラミングが前面に出ているわけでもない。メンバー全員のアンサンブルが印象的なのだ。全員が平等に目立っている。
──4曲目は刄田さん作曲の「猫の手は借りて」です。オルタナティブなギターロックであり、デヴィッド・ボウイやQueenを想起させるスペースオペラっぽさもある曲調は、刄田さん曲としてはちょっと意外でした。
尺や構成についてはみんなで手を加えましたが、デモの段階からきちんとアンサンブルができた状態でした。コードワークも弦楽器をたしなんでいる人の手癖のような響きで。もともとの彼の素養からして当然なんですけど、アカデミックな側面を彼は隠したがるし。こうして改めて作品として残せて幸せです。刄田は、事変を象徴する存在だと思います。
──椎名さんの中では、刄田さんがミスター東京事変という認識ですか?
現場ではみんなそう思っているはずです。入ったばっかりの新しいスタッフもすぐそれに気付きますよ。「ああ、刄田さんが象徴なんですね」って。そこも昔から変わらないですね。どこか支配的で神話的というか、ある種の祀られた何かというか。ここ数日のような寒波が来ると「刄田が今何かに怒っているのだな」と感じます。
椎名林檎は刄田綴色を「事変を象徴する存在」と評しており、他のメンバーやスタッフもそう思っていると語っている。
刄田綴色が事変の象徴として東京事変をまとめている存在なのかもしれない。彼の存在やドラムによって個性が強いメンバーが一つにまとまっているのかもしれない。それも刄田綴色の個性が作曲した楽曲に色濃く出ていると言える。
編曲は東京事変
メンバーの個性はバラバラな上にアクが強い。作曲家としても全員タイプが違う。しかしアルバムとして一つにまとまっている。どの曲もイントロを聴くだけで「東京事変の曲」だとわかる。
それは編曲をメンバー全員で行っているからだ。
個性的な5人が協力して音楽を組み立てていくことで、このメンバーにしか作れない「東京事変の音楽」になるのだ。5人の個性が塊になった時にメンバーの各自の個性ではなく「東京事変の個性」になるのだ。
ずっと“思いやり”とか“労り合い”。今回の作業時間もとにかくお互いへの優しさにあふれています。些細な言動も行動もお互い必ず拾う。「決して逃さない」「すべて笑いにいく」という気迫に満ちています。そういった意味ではむしろ緊張感があると言えるかもしれません。迂闊に独り言などこぼせませんもの。ひと度ボケるのなら息の長いシリーズものとして発展させる覚悟で挑まねばならない。あの強迫観念はなんなんでしょうか。
──椎名さんとしては、楽しくもあり、尊くも感じられますか?
まあ、そうですね。各々が解散から今日までの時間を目一杯生きてきたからこそ、今こうして再会している5人の関係が密なんだろうなと感じます。「お互い、大きくなっとこうね」という暗黙の了解があったはずで、その通り、みんな各々がんばってきたんだなと実感する場面もたまにあります。ただ単に赤ちゃん返りしているだけのようにも思える場面もよくあります。
(引用:
そして活動休止していたのに進化もしている。だから「東京事変が帰ってきた」という喜びだけでなく「東京事変が進化した」という喜びもファンは感じているのだ。
メンバーそれぞれが休止中も別の活動でキャリアを重ねたことで、レベルがさらに高くなった。「同窓会として集まった」ような再結成ではなく、麦わらの一味が「2年後にシャボンディ諸島で」と約束したことと同じようにレベルアップして集まったのだ。
「ああ、やっぱり事変だなあ」と。おそらくメンバーもスタッフも全員、「これこれ!」と感じていたんじゃないでしょうか。しかも、それぞれの出汁がより強まって、水分も飛んで煮詰まっちゃったルーのような。より特徴が強調されています。草木の剪定も思い浮かべました。解散という鋏を一度入れたことで、一気に原種の記憶を取り戻し、四方八方へ伸びる幹や茎の野放図なさまですとか。
インタビューで椎名林檎は「ああ、やっぱり事変だなあ」と語っている。
これはメンバーやスタッフだけが感じたことではないはずだ。ファンも同じだ。
『ニュース』のジャケットを見て、曲を聴いて、以前と同じように驚いて感動して、「ああ、やっぱり事変だなあ」と思って「これこれ!」とファンも感じたはずだ。
最近は気が滅入るニュースが多い。しかし東京事変が出した『ニュース』は久々に喜びを与えてくれるものだった。
まだまだ暗いニュースが続くかもしれないけれど、希望を感じるニュースや喜びを感じるニュースが少しでも増えてほしい。その時は東京事変が目の前で演奏する姿をライブで観れるようになっていますように。
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- アーティスト:東京事変
- 発売日: 2020/04/08
- メディア: CD
