組み合わせが発表された時点で、このライブは必ず行かなければと思った。奥田民生とフジファブリックの対バンなのだから。

この2組が同じステージに立って対バンすることには、特別な意味がある。
フジファブリック創始者の志村正彦がプロのミュージシャンを志したのは、奥田民生のライブを観たことがきっかけだった。そこからバンドを結成し、人気と評価を集めたのである。
そしてフジファブリックは奥田民生と同じ事務所に所属し、それから深い交流を持っている。フジファブリックは民生に特に可愛がられる後輩バンドになったと思う。
しかし意外なことに、直接の対バンはしたことがなかった。だが演者もスタッフもファンも、誰しもが待望していた対バンだと思う。
そんな待望のライブが、EXシアター六本木 10th Anniversaryの記念として、2023年にようやく行われた。
フジファブリック
先行はフジファブリック。『LOVE YOU』をSEに登場すると、観客はまるでワンマンかのような盛り上がりで迎え入れる。この組み合わせを求めていた人が集まったからこその、優しくも熱い空気感だ。
1曲目は『徒然モノクローム』。やはり雰囲気はホームで、ワンマンと変わらない盛り上がりになっている。メンバーもテンションが高い。山内は間奏で「いいえっくすぅぅうう!」と叫んでいた。
そんな勢いは新曲『プラナタリア』でも変わらない。リリースされたばかりなのに、ライブを象徴するキラーチューンかと思ってしまう熱気で会場が包まれている。
この日のフジファブリックはやはり気合が入っているようで、さらに『LIFE』を続け観客を踊らせる。山内は「ギター!俺!」と言ってギターソロを掻き鳴らしたりと、民生のファンにも演奏力の高さを見せつけいた。
男性客「総くんカッコいい!!!」
山内「......なんて?」
興奮した男性ファンの言葉を聞こえないフリをする山内。ニヤニヤしているので照れているのだろう。内心はもっと言われたいのかもしれない。
EX シアター六本木は、フジファブリックが何度もステージに立った会場だ。もしかしたらこの10年間の中では、フジファブリックが最もライブを行った会場かもしれない。
とくに金澤ダイスケにとっては大切な会場である。山内が「キーボードの金澤はここが聖地です」と話すと、客席から笑いが漏れていた。聖地になった理由は、あえてここでは触れないでおきたい......。
民生さんがいたからSMAに入ろうと決めました。その頃からライブのオープニングアクトをやらせてもらったりとか、お世話になり続けていました。でも直接の対バンはやったことがなくて、今回が初めてなんです。
やったぞ!志村くん!
空を見上げるように上を向いて、呼びかけるように話す山内。
そもそもフジファブリックは志村正彦が奥田民生に出会い、その音楽に感動したことがきっかけで始めたバンドなんです。民生さんがいなければ、フジファブリックは存在しないんです。
だから今日は特別な日にしたいです。EXシアターの10周年おめでとうの気持ちと、民生さんへの感謝と尊敬の気持ちと、全ての愛を込めて演奏します。
フジファブリックにとって大切なメンバーの志村正彦と奥田民生の関係性について語ってから、演奏が再開された。
披露されたのは『愛のために』。まさかの奥田民生のカバーだ。
原曲に忠実なアレンジだが、フジファブリックだからこその個性が滲み出る熱い演奏でもある。赤い照明に照らされながら歌い演奏する姿がクールで痺れる。この楽曲は奥田民生がユニコーン解散後、最初にリリースしたシングル曲だ。ちょうど中学生の志村正彦が奥田民生と出会い、プロのバンドマンを志した頃の楽曲かもしれない。
ここからは再びフジファブリックの楽曲で盛り上げていく。「気合い入れてくぜ!」と独特な煽りをひてから、ライブで欠かせない楽曲となった『FEVERMAN』続ける。
この楽曲では、会場全体が振り付けを踊って楽しんでいた。民生のグッズを身につけた人もきちんと踊れていたので、やはり兼任ファンが多いのだろう。山内は背面ギターを披露したりと、パフォーマンスでも魅せる。
続く『ミラクルレボリューション No.9』でも、観客は見事に揃った振り付けで踊っている。山内は最初からハンドマイクで客席を煽ったりと、いつも以上にテンションが高いようだ。
最高の盛り上がりの中、感慨深そうに「この幸せを噛み締めています。ありがとうございます」と話す山内。
次が最後の曲です。
すぐにまた、笑顔で会えることを願って歌います。
山内が言葉を選びながら丁寧に最後の挨拶をして、最後に『破顔』が演奏された。
この楽曲では金澤もエレキギターを弾いていることもあり、ギターの音に厚みが生まれ迫力か増している。白く伸びていく眩しい照明の光は、楽曲のメッセージを最大限に伝える手助けをしている。そんな空間で歌う山内の歌声は、いつもよりも荒々しいものの、魂を揺さぶるものだった。
山内が「フジファブリックでした。ありがとうございました」と挨拶してから、やり切った表情でステージを去っていくメンバー。特別な対バンで、特別な想いを込めて演奏していたのだろう。
そういえば今回のライブは珍しく、志村正彦が作詞作曲した楽曲がセットリストにひとつもなかった。対バンではほぼ毎回演奏される代表曲『若者のすべて』すらやっていない。むしろ観客は奥田民生との対バンならば、志村の作った楽曲を必ずやると予想していた人が多いのではないだろうか。
しかし新曲含む今のフジファブリックで魅せるようなセットリストではあった。
もしかしたら「今のフジファブリックも民生さんと対バンできるぐらいカッコいいから安心してね」と志村に伝えようとしたからこその、セットリストなのかもしれない。
◾️セットリスト
01. 徒然モノクローム
02. プラネタリア
03. LIFE
04. 愛のために ※奥田民生カバー
05. FEVERMAN
06. ミラクルレボリューション No.9
07. 破顔
奥田民生
ステージが暗転した瞬間から、女性ファンの黄色い声援や男性ファンが「民生!」と叫ぶ野太い声が聞こえる。始まる前から熱気が凄い。
それでもゆっくりと登場ひた奥田民生 MTR&Yはマイペースに準備を進めている。ギターを確認しながら「ノイズ出てない?」と小声で言ってメンバーと確認し、問題ないことがわかると、そのままSGをストロークして歌い出した。
1曲目は『The STANDARD』。民生の弾き語りから始まり、順番にバンドの演奏が重なっていく。バラードだけど壮大では無い。むしろ寄り添ってくれるような近さを感じる演奏だ。そんな歌と演奏が泣ける。
いきなり大団円かのような、感動の余韻に包まれる会場。だがライブは始まったばかり。曲間なしで『KYAISUIYOKUMASTER』へとなだれ込み、ここからロックなライブが繰り広げられていく。後半では長尺のギターソロがあったりと、先程まで感動の余韻に浸っていた観客は、今度は興奮して踊っていた。
「年末にこんなライブの機会をテレ朝から与えられてしまいました。最近はユニコーンで忙しいんですけど」と文句を言いつつもニヤニヤして楽しそうな民生。だが「今日のライブがなければバンドメンバーにも今年はもう会わなかったですからね。これがMTR&Yとしては仕事納めです」とも話していたので、主催者に感謝の気持ちもあるようだ。
民生が「1、2、3、4」とカウントして『ハナウタ』から演奏が再開。奥田民生はメロディメーカーだ。このように心地よいミドルテンポの演奏だと、美しいメロディの魅力が際立つ。『MANY』もそうだ。心地よくも力強い演奏なので、ロックミュージシャンとしての軸はズラさずに音楽で癒してくれる。
客席が良い雰囲気になっていることを感じ取ったのだろう。満足気に「ありがとう!」と言う民生。そして『解体ショー』でも、さらに心地よいロックを鳴らして観客を音楽に酔わす。
民生「もう終わるね」
観客「えええええええええ!!!」
民生「そりゃあ終わるでしょ!」
観客「wwwwww」
民生「来年もよろしくお願いします」
ライブの話なのか年末だから今年も終わるという話なのか、どちらとも取れる独特なコミュニケーションを観客として、心の距離を縮める民生。
ここから後半戦。民生が叫ぶようにカウントしてから、代表曲のひとつ『さすらい』が演奏された。観客は一斉に腕を上げ、会場のボルテージは一気に最高潮に。最初のサビ前に 「六本木!」と叫んでマイクから離れると、観客の合唱が響く。誰もが知る名曲だからこその一体感だ。
さらに『最強のこれから』を続けて、重厚な演奏で圧倒させる。民生は叫びまくるし、ステージ中央に出てギターソロをひたすらに弾き倒す。歌よりもギターソロの方が長いぐらいの熱演だ。
そんな凄まじい演奏に圧倒されていると、間髪入れずにドラムのカウントから次の曲へ。演奏されたのは『Black Dog』。レッドチェッペリンのカバーだ。
カバーというよりもコピーと評した方がいいよな、原曲に忠実な演奏である。「アーア!」というコールアンドレスポンスも完全再現していた。
だがそのサウンドからは民生節もしっかり感じる。それは『愛のために』をカバーしたフジファブリックの演奏に近い。リスペクトとバンドとしての魅力が組み合わされば、他人の曲でも自然と個性が滲み出るのだろう。
そこから曲間なしで民生のギターリフからメドレーのように『快楽ギター』が続く。これが本編最後の曲だ。明らかにこの曲では観客の盛り上がりが違う。フロアは踊り狂うように揺れていた。
最高の演奏で本編を終えてステージを去っていく民生とMTR &Y。アンコールの拍手が鳴り響く中、マイクスタンドとアンプが運ばれてくる。どうやらアンコールではセッションが行われるようだ。
予想は的中したようで民生とMTR &Yと共に山内総一郎も再登場した。「総ちゃんが普通に来ました。まあアンプとギターがある時点で出るってわかるでしょ」と開口一番に言う民生。
今の奥田民生のバンドセットライブは、真ん中のスペースを空けた配置で行っている。そのため山内がフロントマンのように中心に立つことになるのだが、民生は「うちはゲストが出ると真ん中に立って主役になる」と言って山内をいじっていた。山内はまんざらでもなさそうに照れ笑いしている。
山内総一郎「高校生の頃に毎日民生さんのライブドキュメンタリーを観てたんです。スタジオリハしてる映像を見て、俺もそんな生活をしたいと思ってました」
奥田民生「俺が子供ばんどを観て憧れてたみたいな感じか?」
山内総一郎「その時に次にやるこの曲をやっていたんです」
奥田民生「これを!?」
民生は忘れているのか、それとも照れているのか、大袈裟にリアクションを取っていた。そして「最後にその曲をやって忘年会に行きましょう!」と年末だからこその挨拶をしていた。
曲が始まるかと思いきや、民生は山内に近づき向き合うように指示すると、ギターフレーズを鳴らした。それに応えるように山内も複雑なプレイでギターを掻き鳴らす。このままギターバトルなのようにバチバチに弾き合うのかと期待し、歓声をあげる観客。
しかし山内はギターがめちゃくちゃ上手い。自分は敵わないと思ったのか、弾くのを止めてそそくさと立ち位置に戻る民生。観客の歓声は笑い声へと変わる。
そんな民生だが曲が始まると先輩としての貫禄を見せつけるように山内を引っ張る。演奏されたのは『BEEF』。ソロ活動初期の名曲だ。
歌も演奏もキレッキレな民生と、それに喰らいつこうと熱量ある声で歌う山内。そんな先輩と後輩によるぶつかり合いのようなセッションに痺れる。
だが二人はロックを愛する音楽仲間でもある。笑顔で向き合ってギターソロを一緒に弾いたり、隣に並んで一歩ずつ前に進みながら弾いたりと楽しそうだ。心の底から音楽を楽しんでいるような様子を観て、観客は演奏に興奮しつつも、優しい気持ちになってしまう。
最後に出演者全員と観客とで、記念撮影をして終演した。
特別な組み合わせの対バンだったし、カバー曲やセッションがあったりと、特別な内容もあった。
だが両者ともに特別な組み合わせだからと、気負いしているようには見えなかった。気合いを入れたステージではあるものの、リラックスしているように見える。
それは長年交流があり特別な関係性だからこその安心感を、両者ともに感じていたからかもしれない。特別な関係だからこそ、いつも通りのライブを、いつも以上に良い状態で行えたのかもしれない。それこそが特別なことなのだ。
特別な関係だからいつも以上にいつも通りでいられる。だからこそ何年経っても思い出してしまう特別なライブができる。
今回の対バンライブの内容をを大袈裟に言うのならば、きっとそういうことなんだろう。
◾️セットリスト
1.The STANDARD
2.KYAISUIYOKUMASTER
3.ハナウタ
4.MANY
5.解体ショー
6.さすらい
7.最強のこれから
8.Black Dog ※Led Zeppelinのカバー
9.快楽ギター
アンコール
10.BEEF w/山内総一郎