10年ほど前に『BS☆フジイ』というテレビ番組が放送されていた。藤井フミヤの冠番組で、毎回ゲストにアーティストを呼び、トークとセッションをする音楽番組だ。
2008年1月にはフジファブリックがゲストで出演していた。『TEENAGER』というアルバムをリリースしたばかりで、そのプロモーションとして出演したのだと思う。
そこでのフジファブリックと藤井フミヤのセッションが印象深かった。特に玉置浩二の『メロディー』のカバーが素晴らしかった。
志村正彦が「藤井フミヤと一緒に歌いたい」という涙のリクエストをしたことで、実現したカバー。
自分がこの演奏で最も心に残った部分は、志村正彦の歌声だ。
彼は決して技術があるボーカリストではない。2008年は喉の調子が悪い時も多々あった。『TEENAGER FANCLUB TOUR』の中野サンプラザ公演の2日目は、声がガラガラで心配したことを覚えている。
この日も不調だったと思う。藤井フミヤの歌唱と比べたら、技術力も喉の調子も雲泥の差だった。
それでも1つひとつの言葉を丁寧に心を込めて歌う声が、自分の胸に突き刺さった。
あんなにも 好きだった きみがいた この町に
いまもまだ 大好きな あの歌は 聞こえてるよ
いつも やさしくて 少し さみしくて
志村の歌からパートから始まったカバー。最初のワンフレーズで、いきなり心を掴まれた。
どれだけ技術を磨いてテクニックを身につけても、たどり着けないような感情を揺さぶる凄みがあった。
技術とは違う部分の、感情を伝えるという部分では、志村正彦はボーカリストとしては一流だと思った。
楽曲自体も素晴らしい。美しいメロディと切なくて優しい歌詞。心に沁みる名曲だ
実はこのカバーを聴くまで、玉置浩二の楽曲をまともに聴いたことがなかった。フルサイズで聴いたのはこれが初めてだ。
もちろん存在は知っていた。しかし良い印象は持っていなかった。歌が上手いけれど、変わり者のシンガーというイメージ。そのため積極的に聴こうとは思っていなかった。
それがフジファブリックと藤井フミヤのカバーを聴いて、聴かなかったことを後悔した。玉置浩二が素晴らしいソングライターだと、志村正彦が気づかせてくれた。
フジファブリックは名曲を作り感動させるだけでなく、自分の知らなかった名曲とも出会わせてくれた。
そうやって世代もジャンルも超えて、音楽は繋がっていく。彼らには多くの音楽の素晴らしさを教わった。
志村正彦の作る新曲を聴けなくなってから、10年以上が経ってしまった。彼の存在を知らない若い音楽ファンが増えても、仕方がない年月が経ってしまった。
しかし志村正彦は今でも日本の音楽シーンに、大きな影響力がある。むしろ生前よりも、その影響力は強まっている。
フジファブリックは今でも活動を続けている。志村正彦の作った音楽も、ライブで歌い継がれている。
リアルタイムで志村の存在を知らないファンも増えてきた。しかし今でも全てのファンにとって、大きくて大切で愛すべき存在であり続けている。バンドが続くことで、新しいファンにも志村正彦の音楽や存在の魅力や凄さが伝わっているからだ。
彼の音楽をカバーするアーティストは増えてきた。特に『若者のすべて』は、多くのアーティストにカバーされている。
Bank Bandや槇原敬之などの先輩アーティストだけでなく、柴咲コウや日向坂46のメンバーなど、ファン層もジャンルも違うシンガーのカバーも多い。
かつては想像できなかったぐらいに、多くの人に届いている。自分がフジファブリックのおかげで玉置浩二を知ったように、カバーをきっかけにフジファブリックや志村正彦を知った人もいる。
彼の音楽を伝えて拡げているのは、プロのミュージシャンだけではない。
【志村さん楽曲を歌い継ぐ】
— 山梨日日新聞社 (@sannichi) 2021年7月7日
人気ロックバンド「フジファブリック」でボーカルとギターを務めた富士吉田市出身の志村正彦さん(享年29)の母校・吉田高の生徒が、志村さんの楽曲を合唱曲や野球の応援曲として歌い継ぐプロジェクトに取り組んでいます。詳しくはあす8日付本紙23面に。 pic.twitter.com/bgomMi2Dgv
彼の母校である山梨県立吉田高等学校では、志村正彦の残した楽曲を、合唱曲や野球の応援曲として歌い次ぐプロジェクトが行われている。
山梨県富士吉田市の防災無線では『若者のすべて』が流れている。彼の誕生日である7月10日に合わせ、その前後1週間の期間限定で流れるようだ。(「若者のすべて」を防災行政無線で 富士吉田市|NHK 山梨県のニュース)
あんなにも好きだった君がいたこの町に、いまもまだ大好きなあの歌は聞こえている。
フジファブリックに影響を受けたアーティストが、続々と登場している。彼の影響を受けた新しい音楽が、続々と生まれている。
フレデリックやキュウソネコカミなど、音楽フェスのメインステージに立つバンドも強い影響を受けている。
ネクライトーキーも影響を公言した上で、『タイフー!』というフジファブリックをオマージュした曲を発表している。
Cody・Lee(李)の高橋響は、Twitterでフジファブリックについて語ることが多い。自身のバンドのことよりも、フジファブリックについてのツイートが多いと思うほどにだ。
メンバーは志村正彦をリアルタイムでは知らないかもしれない。生で志村の歌声を聴いたことはないかもしれない。それでも彼の音楽から影響を受けて、素晴らしくて新しくて最高な音楽を作っている。
きっとフジファブリックのファンにも、魅力が伝わる音楽だと思う。彼らの音楽も聴いてほしい。
そうやって過去の音楽は若い世代に伝わっていくし、若い世代の音楽は上の世代に聴かれていく。そうやって音楽は繋がっていく。音楽が聴かれ続ける限り、ミュージシャンは生き続ける。
ちなみにこの記事を投稿したのは7月10日。志村正彦の誕生日だ。今日は特別な夜さ。素敵な夜になりそうだ。
今でもあなたの誕生日を祝う人がたくさんいる。あなたの音楽に救われ続ける人がたくさんいる。おめでとう。そして、いつもありがとう。
最後にフジファブリックが自分に教えてくれた名曲『メロディー』の最後のフレーズを引用して、この文章を締めようと思う。
きみのこと 忘れないよ
いつだって 楽しくやったよ
メロディー 泣かないで
あの歌は 心から 聞こえてるよ
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