オープニング
神田伯山「お客さん、みんなイライラしているみたいで」
尾崎世界観「入場と開演が押しちゃいましたからね」
神田伯山「私たちの演目の時間が短くなることはありませんから。全て主催者が責任を取ります」
開演予定時刻を15分ほど過ぎてからスタートした『ライブナタリー” 六代目 神田伯山 × クリープハイプ 』。

自らの挨拶もせず話し始めた神田伯山と尾崎世界観。開演前に二人がオープニングトークを行なったのだ。
たしかに開場も開演も遅れた。開演15分前でも入場待ちの行列が会場の外に伸びていた。客席の雰囲気は、良いとは言えない状態である。

しかし内容は変わらないことを伝え、責任は主催者が取ることをユーモアを交えて説明したことで、来場者を安心させた。一瞬で場は明るくなり、会場には拍手が鳴り響く。
開場が遅れたことにも、何かしらトラブルや理由があったのだろう。致し方がなかったのかもしれない。
神田伯山は「私を応援してくれている人はスマホのチケットに慣れていないから、入場が遅れた理由は私を応援している人のせいです」と言って、主催者側もフォローした。ファンとの信頼関係ができているからこそのジョークだ。
尾崎世界観は開演が遅れたことに絡ませて、自らが「イラッとした話」を繰り広げる。「人の悪口を言うクズアカウントは、ローソンのスイーツが当たるツイートと、前澤社長の現金ばら撒きツイートをRTしてる」と自論を語る。
尾崎世界観はそういう捻くれ者である。
神田伯山「Twitterを見たらクリープハイプのファンの子が、講談を初めて観るから楽しめるか不安とつぶやていた」
尾崎世界観「でも伯山さんの講談は初心者でもわかりやすくて楽しめると思いますよ」
神田伯山「そうですね。今日は初めての方でもわかりやすい演目を用意しました。クリープハイプはヒット曲満載のわかりやすいセットリストなんですよ?」
尾崎世界観「そうですね。ヒット曲自体が自分にはないですけれど、わかりやすい曲を用意しました」
神田伯山「クリープハイプを聴いたことがない私を応援してくれている人でも、しっかり楽しめる内容ですかね」
尾崎世界観「それは無理だと思います」
尾崎世界観はやはり捻くれ者である。
神田伯山「携帯電話、スマートフォンの電源は切ってもらえたらと思います。携帯のバイブの音だとしても、鳴ってしまったら空気が壊れてしまうので。ロックバンドのライブなら多少音が鳴っても気にならないかもしれないですけれども」
尾崎世界観「お客さんがスマホのライトをステージに向ける演出とかあるんですよ。ラウドロックバンドがよくやるんですけれど」
神田伯山「そうなんですか?今日はそれができないのが申し訳ないです」
尾崎世界観「いや、僕はあれ大っ嫌いなんですよwww」
尾崎世界観はやはり捻くれ者である。
神田伯山
オープニングトークを終えて、少しの時間を置いてから神田伯山の講談が始まった。
マクラもなく本題が始まる。そして鳥肌が立つ。先程まで尾崎世界観と話していた人物とは別人に思うほどに、声も話し方も違うからだ。
オープニングトークでも会場の空気を一瞬で変えていたが、講談では別の方法で空気を一瞬で変えてしまった。
その語り方によって、物語の世界に一瞬で引き込んでしまう。
音楽と講談は親和性があるのかもしれない。
張扇や拍子木を机に叩く時、細かな調整で音のニュアンスを変えている。
それは場面展開が変わったことを知らせる意味だったり、物語を盛り上げたり話のテンポを上げるためだったりと、様々な意味があるのだろう。
つまり音を使って場を掌握し、聴き手の感情を操るのだ。
だから引き込まれるし感動してしまう。それは音楽のライブと似ている。バンドの音を聴けば感情が揺さぶられるように、講談でも感情が揺さぶられた。
むしろ音楽のライブ以上に、演者が空気を操っている部分は大きいかもしれない。その場で生で観て体感しなければ、理解できない特殊な感情かもしれない。
演目は『中村仲蔵』。
名門の出ではない「血のない」役者の中村仲蔵が、自らの演技の工夫によって出世していく物語。
まるでクリープハイプに向け、メッセージを送っているかのような演目だった。
「お馴染み人情話。中村仲蔵というお話で、今日のところは休憩でございます」
話が終わった瞬間に盛大拍手が送られた。
講談を初めて見るクリープハイプのファンも感動させたからこその、大きな音で長い拍手だった。
クリープハイプ
ロックバンドと講談師によるイベント。お互い普段とは違う客層が多い客席。
特にクリープハイプは雰囲気が普段とは違うライブになっていた。
気を使って「椅子から立ち上がっても良いのかな?」と悩むクリープハイプのファン。ロックバンドをどう楽しむべきか悩む神田伯山ファン。
アウェイではないはずなのに、居心地があまり良くない雰囲気。こんな雰囲気は珍しい。全く別ジャンルの共演だからこその空気だ。
しかしクリープハイプは音楽によって、少しづつ空気を自分たちのものにしていく。
1曲目は『5%』。ゆっくりと確かめるように歌い演奏するバンド。それをしっかり受け止める客席。
そして『鬼』『火まつり』と続ける。怪しげで暗い雰囲気の楽曲の連発。しかしそれが刺激的でゾクゾクする。
『キケンナアソビ』も聴いていてゾクゾクする。そんな怪しげな曲。
普段のクリープハイプはフェスやイベントで、ダウナーな曲を連発することは珍しい。
いつも以上に曲間を長く取っていた。これも珍しい。
1曲1曲を丁寧に確かめるように演奏していた。いつもとは違う方法で、自身の音楽を全員に届けようとしていた。
少しづつ盛り上げて空気を作っていく様子は、講談に近いかもしれない。
伯山さんに中村仲蔵やりますと言われて、ドキッとしました。自分も表現者として共感できる話なので。でも、自分が出る前にやられるとプレッシャーになりますね。仲蔵に恥じないよう、精一杯やります。
短いMCを挟み、演奏を再開。そして、空気がガラッと変わる。パッと明るい雰囲気に一瞬で変わった。
軽快なリズムのドラムが響き、先程まで暗かった照明が明るくなる。そして『イト』が始まる。
クリープハイプの中でも特にポップでキャッチーな楽曲。座っていたお客さんでも立ち上がる人が増えてきた。
神田伯山が語りで客席の空気を操っているように、クリープハイプも演奏で空気を操っている。
そしてライブ定番曲『ラブホテル』を続けることで、会場の熱気がどんどん上がっていく。序盤の居心地悪い空気は既に存在しない。
ラストのサビで演奏を止めて話し出した尾崎世界観。ここで喋ることもライブの定番である。
普段はSEを流さないんだけど、今日は調子に乗ってかけてみました。でも慣れてないからサビが始まる前に演奏を始めてしまいました。何も証明できませんでした。でも伯山さんには想いは届いているでしょう。
SEに使った楽曲はジョー山中『人間の証明のテーマ』。神田伯山がラジオのオープニングで使用している楽曲だ。
クリープハイプなりに神田伯山へのリスペクトを言葉ではなく音楽で示したのだろう。
そして想いを届けるように、最後のサビを叫び歌う。客席は腕を上げて応える。この客席の反応が、神田伯山に想いが届いた証明になるはずだ。
仲蔵には「血」がなかったかもしれないけれど、自分には「普通の声」がありませんでした。今日初めて観た人も変な声だなと思ったでしょ?
自分でも変な声がコンプレックスだったし、ライブハウスの店長に変な声だからブッキングに困ると言われて、集客もできずにノルマだけ払ってライブをやることが多かったです。
それでも変な声を好きになってくれる人が増えていって、今では音楽で生活することができています。改めて幸せだなと思っています。もう少しだけ変な声に付き合ってください。
きっとこの日の「中村仲蔵」が尾崎世界観には胸に響いたのだろう。そんな想いを感じるMCをしてから、鋭いエレキギターの音が響く。
『イノチミジカシコイセヨオトメ』だ。
この歌は「普通」になることを夢見ているピンサロ嬢の曲。〈明日には変われるやろか〉と歌われる、絶望と希望が共存した楽曲。
講談の演目でも違和感がない内容の歌詞。神田伯山との対バンだからこそ、セットリストに組み込んだのかもしれない。
この日の『二十九、三十』は神田伯山へのアンサーに感じてしまった。『中村仲蔵』は20代から30代までの役者としてに物語である。
いつかはきっと報われる
いつでもないいつかを待った
もういつでもいいから決めてよ
そうだよな だから「いつか」か
誰かがきっと見てるから
誰でもない誰かが言った
もうあんたでいいから見ててよ
そうだよな だから「誰か」か(クリープハイプ / 二十九、三十)
悩みや葛藤を表現したような歌詞。まるで中村仲蔵と自身を重ねているかのような歌詞。
神田伯山の演目をバンド側は直前まで知らなかったらしい。だからこの選曲は偶然ではあるが、『中村仲蔵』は神田伯山が得意とする演目の一つである。
また尾崎はこの演目が特に好きで表現者として共感してしまうと語っていた。彼が講談を初めて見た時の演目も『中村仲蔵』だったらしい。
クリープハイプ側から神田伯山にオファーを出して、今回のライブが決まったという。それもスケジュールの都合で数回オファーを出したものの実現せず、念願叶っての共演だ。
それもあり尾崎世界観が好きな『中村仲蔵』への想いも込めてセットリストを組み、演奏し歌ったのかもしれない。
この日の『二十九、三十』は名演だった。胸に突き刺さった。仲蔵の出世していく姿と、クリープハイプが売れていく姿を思い浮かべてしまった。
今日はありがとうございました
一言だけ話してから、ゆっくりとギターをストロークする尾崎世界観。そして優しく歌い始めた。
最後の曲は『栞』。音源とは違うサビの弾き語りから曲が始まるバージョンだ。
桜色にステージを照らす証明。その証明は客席まで伸びて、ファンの挙げる腕までも桜色に染める。
会場外の中野通りには満開の桜の木が並んでいた。そんな季節にそんな場所で聞く『栞』は特に胸に刺さる。

自分の前の座席にいたお客さんは、年配の男性だった。おそらく神田伯山のファンなのだろう。クリープハイプのライブ中は、座って腕を組んでライブを観ていた。
しかクリープハイプが『栞』を演奏し終えると立ち上がり、盛大な拍手を送っていた。
そういえば神田伯山の講談が終わった後もクリープハイプのファンが盛大な拍手を送っていた。
全くジャンルが違って、全くファン層が違ったとしても、本気のステージは人の心を動かすのだ。
自分は神田伯山の講談を始めて観た。それによって講談の魅力を知ることができた。
前の席にいた男性はクリープハイプを初めて観たと思う。それによってロックバンドの凄さを感じることができたはずだ。
「伯山さんにも大きな拍手を」と尾崎世界観が言って、深く頭を下げたメンバー。
その一言だけを言ってステージを去っていった。必要以上に長い言葉はいらない。音楽で全てを伝えたのだから。
二組ともいつも通りに自身の演目と演奏をこなしたのだと思う。しかしそれが交差することでいつもとは違うステージになっていた。
簡単なあらすじになんかにまとまらない神田伯山の講談と、クリープハイプの音楽と歴史。それが奇跡的に交差して出会ったことで、二組の魅力が最大限に引き出されていたように感じる。
2組とも素晴らしい工夫の、最高のステージだった。
神田伯山、クリープハイプ、日本一!
ライブナタリー ”六代目 神田伯山 × クリープハイプ ”@中野サンプラザ 2021.3.26
■セットリスト
01. 5%
02. 鬼
03. 火まつり
04. キケンナアソビ
05. イト
06. ラブホテル
07. 大丈夫
08. イノチミジカシコイセヨオトメ
09. 二十九、三十
10. 栞
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