『猫』は必要なのか?
DISH//は最新アルバムに『猫』を入れるべきではないと思っていた。
これは曲が嫌いだからというわけでもない。むしろ名曲だと思っているし大好きな曲だ。
しかし楽曲自体はは2017年に発表されたもの。そして最新アルバム『X』に収録されたものは『THE FIRST TAKE』で披露されたバージョン。スタジオライブに近い音源で、他の楽曲とは毛色が違う。
今の話題性ならば収録せざるを得ないのだろう。この曲をきかけにバンドは飛躍したのだから。
だからボーナストラックとして最後に収録するのならば理解はできたが、アルバムでの『猫』は4曲目。あくまでアルバムを構成する楽曲の1つとしての収録だ。
だからこそ疑問に思う。話題性のためだけに収録したのではと疑ってしまう。
そんな疑念を抱きながらアルバムを聴いてみた。
全てが、自分の偏見で勘違いだった。申し訳ない
アルバムに『猫』は必要だった。それもTHE FIRST TAKEのバージョンである必要があった。最高だ。それはきっと、聴いた人の誰もが思うはずだ。
誰かころころと意見が変わって矛盾ばっかで無茶苦茶な僕を慰めてほしい。
アルバムの要ともなる『猫』
『猫 THE FIRST TAKE ver』はアコースティックで落ち着いたサウンドの楽曲だ。
それに続く次の曲はボーカルの北村匠海が作詞作曲を行い、メンバー全員で編曲をした『あたりまえ』。この曲を続けて聴いた時に、「猫は必要だ」と思ったのだ。
こちらも優しいサウンドのバラード楽曲。まるで『猫』の続きの曲かと思うほどに、流れるように続いて再生される。
この2曲が続くアルバムだからこそ、1曲単位で聴く時以上に胸に沁みるし、深い余韻に浸れる。曲の並びによって楽曲の魅力は増大されるのだ。
そもそも『猫』に至るまでの流れも完璧である。
前半3曲はバンドサウンドが印象的なアップテンポのナンバー。その流れでアコースティックなサウンドと緑テンポのバラードが来ることで、アルバム全体に段丘ができる。だから中だるみを防ぐことができる。
ヒット曲だから入れたというわけではなく、アルバムを作るために必要な楽曲だから収録したのだ。
もちろん『猫』をきっかけにDISH//を知った人も多いので、そのような人に聴いてもらう「きっかけ」にはなっている。そのような人たちは、きっと『X』の収録曲を聴いて驚くだろう。
DISH//がバンドとして個性的で力強い演奏をしていて、様々なタイプの名曲が揃っていることを知ることになるからだ。彼らは『猫』だけの一発屋でもないし、『猫』のようなバラードばかり歌うバンドでもない。
DISH//はロックバンド
DISH//は不思議な立ち位置のバンドだと思う。
メンバーは俳優など音楽以外の活動も多い。アイドルとしての活動や魅せ方もしている。本人たちが作詞作曲に関わっていない楽曲の方が多い。活動初期は楽器を演奏しないこともあった。
だから音楽ファンからは舐められたり偏見を持たれることもあったと思う。『猫』をきっかけに少しずつ変わってきたが、まだ正当に評価されない部分も多い。
『X』はそんな偏見をぶち壊してくれるアルバムだ。ロックバンドでアーティストであるDISH//の凄みが、今までで最も伝わる作品である。
今作はバンドのクリエイティブな部分が存分に発揮されていて、メンバーの音楽への想いも詰め込まれている。
1曲目の『ルーザー』からしてそうだ。
この曲は北村匠海が作詞を行い、作曲と編曲はメンバー全員で行っている。そのためかメンバーの力強い演奏が前面に出ている。
ロックでありつつもジャジーな雰囲気もある演奏。それでいてキャッチーさもあるメロディ。これは様々なミュージシャンから楽曲を提供され、様々なジャンルを歌い演奏してきた経験のあるDISH//だから作れる音楽だ。様々な音楽の魅力的な部分が組み合わさって個性的で魅力的な楽曲になっている。
大敗ばかりも悪くねえ
されど宣戦布告はやめられねえ
手と手合わせて幸せだけ
願いたけりゃ目をつむりな(DISH//『ルーザー』)
北村匠海の描いた歌詞には、バンドの想いを代弁しているようにも感じる。
DISH//は今年で結成10年目。全てが順調に進んだわけではなく、悔しい思いも沢山して来たはずだ。「大敗」と「宣戦布告」を繰り返して、去年ようやく多くの人に知ってもらうきかっけを手に入れたのだ。
だから『ルーザー』はDISH//が歌い演奏するべき楽曲に思う。そこにロックバンドとしての魂を感じる。
他の曲からも「ロックバンドDISH//の魂」を感じる曲が多い。ロックな部分を前面に出しているアルバムだとも思う。
『Seafull』には〈ロックンロール〉という言葉が歌詞にあるし、バンドが作曲した『rock'n’roller』というストレートなタイトルの楽曲もある。
「ロックンロール」という言葉は厄介だ。
定義がはっきりしていないし、それに対する考え方も人それぞれ違う。それなのに「ニセモノ」は簡単にバレてしまう音楽ジャンルだ。
だから音や存在感でロックアーティストは自身がロックであることを示さなければならない。歪んだエレキギターを弾けばロックになるわけではない。歌詞に「ロックンロール」と入っていればロックを感じるわけでもない。
しかしDISH//は歌や演奏で自らがロックバンドであることに説得力を持たせている。彼らにしかできない個性的で力強い演奏で堂々と表現している。
まさに音と存在感でロックバンドであることを示しているのだ。
DISH//にしか出せない音
今作『X』も多くのアーティストや作曲家が楽曲提供をしている。
楽曲提供陣はマカロニえんぴつや緑黄色社会、Nulbarich、GLIM SPANKYなど、一歩間違えれば「人気アーティストの楽曲を歌わされてる」と思われても仕方がないぐらいに個性の強いアーティストばかりだ。
しかしどれもDISH//の個性を感じる楽曲になっている。クレジットを見て「この人が楽曲提供しているのか」と気づくぐらいに、バンドの個性を感じるのだ。
それは『X』に提供された楽曲の方向性について、メンバーがディレクションをしているからだ。
例えばNulbarichが作曲した『QQ』もディレクションした橘柊生の考えや想いが大きく反映されている。
「Nulbarichのスタイリッシュさ、グルーヴとDISH//の融合」をテーマに制作が進められ、作詞は柊生が行った。
レコーディングでは「日本語を英語っぽく歌って欲しい」と柊生から匠海へと指示があったりと、細かい部分にまで拘っている。柊生は『THE 魂』でおバカな発言を繰り返している姿だけではなく、音楽に対して真摯に向き合う姿も持っているのだ。
つまり楽曲提供というよりもコラボレーションに近い。提供アーティストの才能や個性を生かしつつも、それをDISH//の音楽として表現する方法をメンバー自身が模索して提案して作り上げているのだ。
またメンバーがディレクションはしていないものの、『僕らが強く。』にもメンバーの想いや個性が詰まっている。
楽曲提供者のはっとり(マカロニえんぴつ)がワンコーラスだけ歌ったデモをメンバー聴いて、感じたことやコロナ禍でファンに伝えたい想いをはっとりに伝え、その言葉を元に歌詞が創られた。
笑ってたいんじゃなくてね、笑いあってたいのだ
(DISH//『僕らが強く。』)
作詞作曲の名義は「はっとり」となっているが、そこにはDISH//の言葉や想いも詰まっている。特にサビの歌詞は一度聴いたら忘れられない。胸にぶっ刺さる。今のDISH//だから発することができる、想いのこもった重いメッセージだ。
メンバーとの曲順の話し合いにて、アルバムラストを飾る曲だけど、始まりを感じさせる「バースデー」を最後に持ってきました。
— DISH// OFFICIAL (@dish_info) 2021年2月26日
(staff)#DISH_X#DISH_バースデー
〈勇気を出して踏み出した一歩が大いなる旅の始まり〉というフレーズから始まる『バースデー』。この曲を最後にしたことにも、メンバーの想いが込められている。
楽曲の制作だけでなく曲順などアルバムとして一つの作品を作る上で重要な部分でも、メンバーの想いや意志が反映されているのだ。積極的に制作に参加する姿は、一部の音楽ファンが持っている「ただ歌っているだけのバンド」という偏見とは真逆である。
たしかにDISH//は自分たちで作詞作曲することは少なかったが、今までの曲は全てに「DISH//としてどのように表現するか」を意識して演奏し歌ってきた。彼らが歌い演奏するべき楽曲ばかりだった。
だからメンバーがアコースティックアレンジを行い、北村匠海がエモーショナルに歌った『猫』がヒットしたのだ。
『X』は「どのようにDISH//として表現するか」だけでなく「どのようにDISH//として制作していくか」も重視して作られたアルバムである。だからDISH//がバンドや音楽を行う上での想いが、今までのアルバム以上にわかりやすく伝わるってくる。
今まで「大敗」してきたDISH//による「宣戦布告」とも言える作品で、これを聴けばDISH//の凄さや魅力も伝わるし、偏見を持っていた人は見直すのではないだろうか。
そして今まで応援してきたファンは、優しくて温かいメッセージのこもった作品を聴いて、自然と笑みがこぼれるだろう。音楽によってDISH//と笑い合っているはずだ。
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- アーティスト:DISH//
- 発売日: 2021/02/24
- メディア: CD
