KID FRESINO『20,Stop it.』
自分はヒップホップについて、それほど詳しいわけではない。
好きなヒップホップアーティストはいるが、文化については理解できない部分や理解したくない部分も多い。
自分がヒップホップを聴くようになったきっかけは、RIP SLYMEやKICK THE CAN CREW。最近ならばCreepy Nutsやchelmicoが好きだ。つまりJ-POPと親和性があり、メジャーど真ん中で活躍するアーティストが好きである。
だから文化を含めてまで好きなわけではないので、ヒップホップだとしても大麻を吸うよりもタピオカをストローで吸って欲しいと思うし、ディスるよりも褒めあって欲しい。
静岡生まれ茶畑育ちの自分は悪そうな奴とはだいたい距離を置くし、自分が洗濯物を干しても家事でしかない。〈ヒップホップは歌えない 俺はリアルじゃないからさ〉と歌う瑛人に共感してしまうし、今でもkjには同情している。
そんな人間なのでヒップホップについて深く語ることはできないし、語るべきではないのかもしれない。それでも語りたくなるほど好きなヒップホップアーティストやアルバムもある。最近も語りたくなるほどハマったアルバムがリリースされた。
KID FRESINO『20,Stop it.』である。
カネコアヤノと長谷川白紙とのコラボレーション
KID FRESINOの名前は以前から知ってはいたが、きちんと聴き始めたのは最近である。
2020年の5月にカネコアヤノを客演として招いた『Cats & Dogs (feat. カネコアヤノ)』を聴いたことがきっかけだ。この曲は『20,Stop it.』にも収録されている。
KID FRESINOのラップはドープなヒップホップとしか思えないクールが楽曲なのに、カネコアヤノが歌い出した瞬間にフォーキーな雰囲気に様変わりしてしまう。
かといってお互いがぶつかり合っているわけではない。綺麗に混ざり合って一つの音楽として成立している。それが最高なのだ。
楽曲はKID FRESINOのラップから始まり、カネコアヤノの約2分間の歌で終わる。
だからか不思議な音楽に感じた。
前半はクールなトラックやラップに痺れてしまうのに、聴き終わった時はフォーキーなサウンドやメロディの温かさに包まれてしまう。前半と後半で印象が180度変わるのだ。
それが不思議でクセになる。絶妙なバランスで別ジャンルの音楽や全く違う個性を組み合わせることで、ヒップホップに囚われない新しい音楽を作っているように思う。過去にもヒップホップアーティストが他のジャンルとコラボをすることはあったが、この曲は特に組み合わせの妙を感じるのだ。
他のコラボ楽曲でも同じように、双方の新しい魅力が生まれている。
長谷川白紙とのコラボ楽曲『youth(feat.長谷川白紙)』も素晴らしい。
長谷川白紙も作曲に参加していることもあり、彼の作曲作品で見られる繊細で複雑な楽曲構成がここでも生かされている。長谷川白紙の個性が強い楽曲だ。
しかしKID FRESINOのラップが加わることで、いつもの長谷川白紙とは違う魅力が生まれる。そしていつものKID FRESINOとは違う魅力も生まれる。これも組み合わせの妙。お互いの才能を尊重し合うことで、お互いの魅力が倍増している。
ラッパーとのコラボでも感じる凄さ
『dejavu (feat. BIM, Shuta Nishida)』では、コラボ相手のBIMによる歌うような滑らかでメロディアスなラップが聴ける。
KID FRESINOは言葉の響きやリズムを特に大事にするラップだと思う。それはBIMとはタイプが違うラップだ。しかし両者がぶつかり合うことがなく、綺麗に混ざり合っている。
『 Incident (feat. JAGGLA) 』もコラボ相手との個性が綺麗に混ざり合っている楽曲だ。
客演として参加しているJAGGLAとKID FRESINOは声質もラップのスタイルも全く違う。そんな二人が交互にラップをしていく。それなのに競うのではなく、協力しあって一つの音楽を構築しているように感じる。
『Girl got a cute face (feat. Campanella)』も同様に見事だ。
こちらもKID FRESINOとCampanellaが掛け合うようにラップをする部分がある。それでもお互いの個性がぶつかることなく引き立っている。シンプルなビートの曲だからこそ、二人のラップより印象的に感じるのだ。
この3曲はKID FRESINOが作曲している。つまり彼の個性が特に詰まった曲だ。そのためコラボ相手は個性の面では負けてしまっても仕方がない。
しかし楽曲に参加した善意の個性が十二分に発揮されている。彼らがメインと言われても違和感がないぐらいに馴染んでいる。
それはKID FRESINOがコラボ相手の個性が伝わるような楽曲を制作しているからだろう。
あくまで個人的な感覚ではあるが、KID FRESINOは自身が前に出るのではなく、一歩引いているように思う。しっかりとコラボ相手に見せ場的な部分を与えているように聴こえるし、魅力が引き立つような曲展開にしていると感じた。
メッセージよりも音の気持ちよさ重視
ヒップホップはメッセージを伝える役割が強い音楽だと思う。それはアンダーグラウンドでもオーバーグラウンドでも変わらない。
例えば2020年に話題になったMoment Joon『Passport & Garcon』にはメッセージの強烈さに衝撃を受けた人が多いだろうし、THA BLUE HERB『2020』収録曲の言葉が胸に突き刺さった人も多いだろう。
メジャーど真ん中で活躍しているCreepy Nutsも、キャッチーなだけでなくメッセージを真っ直ぐと伝えようとしている。RIP SLYMEやKICK THE CAN CREW、スチャダラパーにだってメッセージを重要視するリリックは多かった。
でもKID FRESINO『20,Stop it.』からはメッセージをあまり感じないのだ。
KID FRESINOは「自分のラップは全然内容がない」と明かし、「意味がないことをやっているという自覚があるし、意味があることをあまり言いたくない」と語る。
KID FRESINO:人工知能がパッと一瞬で考えたようなセンテンスを自分の頭の中で考えたりして歌詞を書きます。
クリス:たまたま昨日、YouTubeで人工知能が作ったショートフィルムを観て。文脈みたいな部分はあるんだけど、内容は全く見えない。どこに感情が入っているのかっていうのが見えない。表現方法はすごくカッコいいんだけど意味は持たなくて、それが不思議でしょうがなかった。(KID FRESINOさんのラップも)どちらかというと、そういうコラージュ系ですか?
KID FRESINO:まさに、そうなんです。どういうアルバムを作ったんだって訊かれたら、あらゆる要素を切り取って貼り付けたコラージュみたいな作品と言うことができるかなと思います。
本人が語っているとおり、メッセージ性を重要視しているわけではないのかもしれない。
歌詞には日本人ラッパーとしては珍しいぐらいに英文が多い。日本で活動してメッセージを伝えるラップをするのならば、日本語をメインにした方が良いはずだ。
おそらく英語と日本語を組み合わせることによって、メッセージよりも言葉の響きの心地よさを重視しているのだろう。
フロウの区切り方も文章や言葉の途中で区切っていたりと、音の響きやリズムを重視している。音として気持ちの良いラップを行なっているのだ。トラックは音がスッキリしていて心地よい。音を重ねて装飾するのではなく、音の響きやリズムを大事にしている。
そんなラップとトラックの組み合わせが自分にとって新鮮で刺激的で、それでいて気持ち良い。
つまり自分と同じようにヒップホップに詳しくない人でも、純粋に音楽として楽しめる作品になっていると思うのだ。むしろヒップホップを今まで聴いたことがなかった人が、音の心地よさや楽曲の凝り方に唸ってしまう作品かもしれない。
違うジャンルのアーティストとのコラボ作品もあるので、『20,Stop it.』を「ヒップホップのアルバム」としてジャンルにカテゴライズすることも不毛にすら思ってしまう。それぐらいに普遍的で完成度の高いアルバムだ。
自分はヒップホップというジャンルについて詳しいわけではない。ヒップホップに造詣が深い人からしたら、違う評価や感想が出てくるかもしれない。
しかしヒップホップに詳しくない人も魅了するほどの魅力のある作品であることは確かだ。もしかしたら心のベスト10 第1位になるかもしれないので、是非とも悪そうな奴と友達になれない人にも聴いてもらいたい。
↓関連記事↓
- アーティスト:KID FRESINO
- 発売日: 2021/01/09
- メディア: CD
