秋元康プロデュースでも低音が響く曲がある
秋元康の持論に「ヒット曲に大事なのは田舎の漁港のスピーカーから聞こえるかどうか」というものがある。筆者がかつて『別冊カドカワ 総力特集 秋元康』の制作を担当していた時に聞いた話だ。かつて80年代に『ザ・ベストテン』の構成作家をやっていたときに、鹿児島の漁業組合の拡声器のような小さなスピーカーで、音が割れるようなひどい音質で田原俊彦の「NINJIN娘」を聴いた。その時に「これが歌謡曲なんだ」と思った、という話。
その後もテレビなどいろいろな場所で語っているので有名なエピソードだと思うのだが、その時に秋元康がいつも“仮想敵”として語るのが低音域なのである。「スタジオではミュージシャンやディレクターから『このベース、格好いいでしょ』と言われる。確かにJBLのいいスピーカーで聴いたら『お、いいね』となるけど、あの漁港のスピーカーからは聴こえない。だから『いいから、一番小さなラジカセを持ってきてくれ』と僕は言うんです」――てな具合に話が続く。
先日このような記事をみつけた。
記事を読んでからAKBGや坂道Gの楽曲を改めて聴くと、たしかに低音が削られている楽曲が多いように思った。
それは戦略でもあるし他のアイドルやアーティストとは違う音色になるので、サウンドの個性にもなっているのかもしれない。個人的には低音がしっかり鳴っている方が立体的な音になるので好みではあるが、それも1つの手法として優れているとも思う。
しかし低音がしっかり鳴っている曲も少数だご見つけた。ほとんどの楽曲が大胆に低音がカットされているので、秋元康関連の曲では珍しい。
そして「低音を出すこと」にも理由があって、そこにも戦略があるように感じた。
低音が出ている秋元康プロデュース楽曲
おそらくAKBGと坂道Gで最も低音が目立っているのがAKB48の41枚目のシングル曲『ハロウィン・ナイト』だ。ヘッドフォンで聴くとより低音の鳴り方がわかりやすいと思う。
代表曲『恋するフォーチュンクッキー』のように70年代のディスコサウンドを感じる楽曲。
この曲はよりディスコサウンドを忠実に再現するためか低音が強めだ。この低音が楽曲にとって最も魅力的な部分に思う。
『ハロウィン・ナイト』はAKB48の楽曲で初めてアナログ盤がリリースされた楽曲でもある。音質にこだわっていることの現れかもしれない。
つまり「新しいこと」に挑戦した楽曲でもある。今までとは違うサウンドと販売方法を行う実験的な要素があったのかもしれない。
『ハロウィン・ナイト』は前作シングル『僕たちは戦わない』より売上枚数を30万枚ほど落とし、一般層に拡がるほどのヒットにはならなかった。
その後リリースされた楽曲でファン以外にもヒットした楽曲は『翼はいらない』や『365日の紙飛行機』などフォーク調の楽曲だ。そちらは低音が抑えられている。
そのため「低音を響かせる実験」は成功とは判断されず、その後のシングル曲は今まで通り低音をカットしたのかもしれない。
欅坂46『語るなら未来を』は低音が響いている。
シングル曲ではなくカップリング曲だったこともあり、秋元康の「ヒットの持論」に当てはめなかったのかもしれない。曲始まりで低いバスドラムの音が鳴っている。それによって楽曲の世界に引き込まれる。低音がこの曲の要に思う。
Aメロは音数が少ない編曲になっている。そのため低音を削ってしまったらスカスカな音になってしまう。「漁業組合の拡声器のような小さなスピーカー」で聴いたとしても低音がなければ成立しないと感じる。
つまり実験的な要素がある曲や、音数が少ない編曲がされている場合やヒットを考える必要がないカップリング曲やアルバム曲の場合、低音を強めることが稀にあるのかもしれない。
しかしだ。ほぼ全ての楽曲で低音をガンガン鳴らしている秋元康プロデュースのアイドルがいる。
それはJKT48だ。
低音をガンガン鳴らすJKT48
JKT48はインドネシアのジャカルタを中心に活動しているアイドルグループだ。AKBグループに所属しており、プロデュースも同じく秋元康が行っている。
それなのにJKT48は低音がしっかり鳴っているのだ。むしろ意識的に低音を強めている楽曲もある。AKB48の楽曲と聴き比べるとそれがわかりやすい。
JKT48はAKB48の楽曲をいくつかカバーしている。それも本家とは低音の鳴り方が全然違うのだ。
ディスコサウンドが特徴的な『恋するフォーチュンクッキー』はJKT48も歌っているが、AKBよりも低音が強く響いている。
それによって歌のメロディが際立っているAKBバージョンと違い、ダンスミュージックとして踊れるようなカッコ良いリズムのサウンドになっている。
ロックサウンドの『ヘビーローテーション』もAKB48とJKT48とでは全く違う音色だ。
AKBバージョンは低音が削られているため、ポップで可愛らしいサウンドになっている。しかしJKTバージョンは低音がAKBよりも強めでバンドサウンドが際立っていてクールだ。
特に違いが大きいのは『RIVER』に思う。
この曲はクールなダンスチューン。AKBのバージョンも他の楽曲と比べると低音は強めではあるが、それでも他アーティストの似た方向性の楽曲と比べると低音が抑えられている。
「秋元康のヒット曲に大事な持論」に当てはまるサウンドになっているのだ。
それが理由なのか『RIVER』はAKB48にとって初のオリコン週間ランキング1位楽曲となり、当時のAKBで最高売上枚数になった。
しかしJKT48はゴリゴリの低音が響いている。AKBよりもクール。歌よりもバックトラックの印象が強い。
JKT48には秋元康の「ヒットの曲に必要なもの」の持論を当てはめていないのだ。もしかしたらサウンドに対しての意見をJKTには伝えていないのかもしれないが、国によってヒットに大事なものは違うと判断した可能性もある。
日本のヒット曲とインドネシアのヒット曲
日本人は日本の音楽を中心に聴く。洋楽を聴く人はどんどん少なくなっている。
Spotifyの日本トップチャートや日本バイラルチャートではほとんどの楽曲が日本国内のJ-POPである。海外ではヒップホップやR&Bが主流だが、日本はそれらとは違う独自の方向性の楽曲やサウンドが多い。
しかしインドネシアではWeild GeniusやPamungkasなどの国内アーティストだけでなく、ドレイクやアリアナ・グランデ、ザ・ウィークエンド、Powfuなど国外のアーティストもチャートインしている。
そしてインドネシアのシーンの中心もヒップホップやR&BやEDMが中心に思う。そのサウンドには低音がしっかり響いている。インドネシアで流行っているジャンルやサウンドは世界的なトレンドと近いものだ。
インドネシアで大衆に求められている音楽は、日本の大衆が求めている音楽とは方向性が違う。秋元康の指示があるのかは不明だが、それもありJKT48はAKB48とは違うサウンドを目指しているのかもしれない。
しかし最近は日本でも漁業のスピーカーで音楽を聴くことはほとんどない。最も身近で小さなスピーカーはiスマホのスピーカーに思うが、それでも低音がしっかり聴こえる曲もある。
スマホのスピーカーでも聴こえる低音でも強いインパクトを残す楽曲もある。海外アーティストならばビリー・アイリッシュがそれに当てはまる。日本の最新ヒット曲ならば平井堅『怪物さん feat.あいみょん』も当てはまるだろう。
そのことについて秋元康はどう感じているのだろうか。おそらく価値観をアップデートさせているとは思うが、今後も日本では「漁港組合の拡声器から聴こえる音」を目指すのだろうか。少し気になる。
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