何を観ているのだろうか?
「100均で買える食材だけでバターチキンカレーが作れるんですよ!それも素早く簡単に!」
そう言って慣れた手つきで食材をフライパンに入れて調理を始めるフジファブリックの金澤ダイスケ。食材や作り方について丁寧に説明しながら調理を進める。
横ではスペシャルゲストのASIAN KUNG-FU GENERATIONのドラマー伊地知潔が一緒に料理を作っている。「小さじ2杯ですね」と金澤ダイスケの説明をサポートするように話しながら調理をする。途中でカレー粉を床に落としてぶち撒いたりとお茶目さもある潔だったが、バランスの取れた名コンビに思う。
料理だけして去っていった。ミュージシャンなのに料理のためだけにゲスト出演したのだ。
バターチキンカレーが調理される様子はカメラで撮られており、ステージ後方のスクリーンに生映像が流れた。それを会場に集まった1,700人の観客が眺める。
金沢と伊地知が調理をしている間、他のメンバーがBGMとしてしっとりとした演奏をする。アジカン『君という花』のカバーだ。雑貨屋で流れていそうなボサノバ風でオシャンティな編曲。まさかカバーするとは思わなかったので、これは青天の霹靂。
【料理を作っている時の金澤ダイスケとアジカン伊地知の会話】
— むらたかもめ🌏音楽ブログ (@houroukamome121) 2020年2月9日
伊地知「ライブ中に料理するとかみんな許してくれたの?」
金澤「普通に良いよって」
伊地知「みんな優しいんだね」
金澤「アジカンのライブでもやったら?」
伊地知「やるわけねーじゃん」#フジファブリック#金澤ダイスケ生誕祭
金澤と伊地知が楽しそうに会話をする。メンバーや関係者の優しさも垣間見ることができるエピソードを披露する。
調理時間は10分ほどだろうか。本当に素早く簡単にバターチキンカレーが完成した。
調理方法は材料をフライパンに突っ込んで温めるだけ。これは自宅でも作ってみたい。料理が出来上がった時、会場からは歓声と大きな拍手が2人に贈られた。
ライブの中盤に行われたクッキングコーナー。なぜか料理を行なっていることに全く疑問を感じなかった。「あぁ、次は料理をするのね」ぐらいのテンションだ。
ライブ終演後に「なんだったんだ、あれは?」と催眠術が解けたかのように不可解な気持ちになった。クッキングライブではなく、音楽のライブを観るつもりで来たのだから。

2020年2月9日に行われたフジファブリックのライブ。『金澤ダイスケ生誕祭』と名付けられたバンドのキーボーディストの誕生日に行われたライブ。そしてフジファブリック史上、最もカオスだったライブ。
カオスすぎたからステージ上で料理が始まってもファンは受け入れてしまったのだ。最初から最後まで、ずっとカオスだったので、カオスさに慣れてしまったのだ。
最初からカオス
開演前から様子はおかしかった。
ステージ後方のスクリーンに5分に1回ほどのペースで金澤ダイスケの実家のファイミリーレストラン『くれしぇんど』のCM映像が開演前に流れていた。この日のために制作されたCMらしい。

フロアも最初はざわめいたり笑ってはいたが、何度も流されるので慣れてくる。「またご実家のCMが流れているなあ」ぐらいのテンションになってくる。カオスなライブに耐えさせるための免疫を開演前からつけさせようとしていたのかもしれない。
開演時間を過ぎてフロアが暗くなる。フロアから期待に満ちた歓声が聴こえる。その歓声はすぐに動揺によるざわめきと笑い声に変わる。
メンバーが登場する前にバックスクリーンに映像が流れる。
金澤ダイスケが飛行機の機長のコスプレ姿でスカイダイビングに挑戦する映像が流れる。スカイダイビングに挑戦するために誓約書に記入する様子や、なぜかその場に居合わせた山形県のアナウンサーと一緒に説明を真剣に聞く様子。
「本当に飛べるんだなと、興奮しています。頑張ります。これからも大きく飛躍するという意味を込めて飛びたいと思います」
アスリートが試合に挑む前のようなクールなコメントをしてから飛ぶ。
何を観せられているのだろうか。頭が混乱する。普段のフジファブリックのライブとは雰囲気が違う。メンバーが登場し1曲目が始まった時、いつもと違うライブであることを確信した。
1曲目は『恋するパスタ』。金澤ダイスケが作詞作曲した楽曲。音源では山内総一郎が歌っているが、この日は金澤ダイスケ本人がハンドマイクでステージを駆け回りながら歌った。これは今までなかったことだ。しかも歌が上手い。
この日はエンターテイメント要素の強いライブになるのだと理解した。現在行なっているツアーはキレッキレでストイックなライブをやっているので、それとは対称的なライブという位置付けか。
1曲目ではライブの展開について、このように予想し期待していた。しかし、違った。
エンターテイメントというよりも、金澤ダイスケが好き勝手にやり放題するカオスなパーティーだった。
平井堅の偉大さについて
「始めて観た人はフジファブリックってこんなバンドだったのと思っているかもしれないですが、ツアーではストイックでかっこいいライブやっているので・・・・・・」
序盤のMCで山内総一郎はこのように話していた。本人がこのように話すぐらい、ツアーでのライブとは全く違う雰囲気である。
このMCの後は映像で金澤ダイスケが誕生からフジファブリック加入までの人生を写真で振り返る映像が流れる。
生まれたての頃から幼稚園や小学校時代の写真がスクリーンに映される。正月に実家に帰った時に甥っ子の写真を見せられている気分になる。中学生から高校生の写真では友人と一緒に昔の写真を見返しているような気分になる。映像の最後にはワードアートで作られたようなポップなフォントとカラフルな色使いの「お誕生日おめでとう!』という文字が浮かび上がる。
なぜか映像のBGMは平井堅の『大きな古時計』だ。
決して作り込まれた映像でもない。ただ写真を並べられただけだ。それなのに少し感動してしまった。メンバーも「なぜか感動しちゃったんだけど」と話していた。
中学の頃の写真の中には文化祭でバンドをやっている写真も含まれていた。もちろんキーボードを弾いていた。その写真には「音楽を仕事にすることを決心した」とコメントが書かれていた。
そこでなぜか涙が出そうになった。夢を叶えたんだな。平井堅の歌声は素晴らしいなあと。
金澤ダイスケが過去に行ったコスプレを振り返る映像では平井堅の『POP STAR』が流れる。コスプレのクオリティはお世辞にも高いとは言えないレベルのものばかり。なぜ自分はこれを見せられているのかと不思議な気持ちになったが、平井堅の歌声とメロディによって金澤ダイスケのコスプレが輝いて見えてくる。平井堅すごい。
ファン以外が観たら面白くないであろう映像かもしれない。しかし金澤ダイスケが多くの人に愛されていることが伝わる映像ではあった。
そして平井堅の素晴らしさが伝わる映像でもあった。
あの子を解き放て!あの子は人間だぞ!
暗くなったステージの上に何かいる。会場から悲鳴にも近い歓声が聞こえる。

ワイヤーで吊るされた金澤ダイスケが米良美一のコスプレをして登場したのだ。そのまま美しい裏声で『もののけ姫』を歌う。
歌いながら少しづつワイヤーで上に登っていく金澤ダイスケ。フロアがざわめく。動揺せずに気持ちよさそうに歌う金澤ダイスケ。見上げるように金澤ダイスケを観るファン。
『もののけ姫』を歌い始めてから、金澤ダイスケ私物のドローンがステージや客席を飛び回っていた。ライブ中にドローンを飛ばすことが夢だったので飛ばしたらしい。は?
モロ「いかにも人間らしい手前勝手な考えだな。サンは我が一族の娘だ。森と生き、森が死ぬ時は共に滅びる。」
アシタカ「あの子を解き放て!あの子は人間だぞ!」
モロ「黙れ小僧!お前にあの娘の不幸が癒せるのか?森を侵した人間が、我が牙を逃れるために投げてよこした赤子がサンだ!人間にもなれず、山犬にもなりきれぬ、哀れで醜い、かわいい我が娘だ!お前にサンを救えるか!?」
間奏では『もののけ姫』の名シーンを一人二役で演じきるモノマネも披露した。セリフも完璧だ。美輪明宏のモノマネも似ている。見事なモノマネだったのでフロアから拍手が起こる。
歌い終わるとワイヤーに上に吊るされたまま、ワイヤー移動でステージ袖へ消えていった。そして元の服装に戻し何事もなかったかのステージ袖から出てきて、キーボードの位置に戻る金澤ダイスケ。
「フジファブリックをサポートするって、こういうことなんだね......」
MCで話を振られたサポートドラムの伊藤大地はこのように話していた。
人体切断マジックを初めてみた
ライブの後半に披露された『Magic』。久々のライブ披露。これも普段のフジファブリックとは違った。
間奏でステージ中央前方に踊りながら出てきた金澤ダイスケ。頭には大きなハットを被っている。手には赤いハンカチ。
『Magic』の最中にマジックを始めたのだ。
赤いハンカチを帽子の上にかぶせて、帽子に念を込める。帽子の中からおもちゃの鳩を取り出す。
大きな帽子だったので最初から鳩を入れていただけだ。タネがバレバレのマジックを披露し、客から盛大な拍手をもらう。それに満足するとキーボードの前に戻り演奏を再開する。
2番の間奏になるとまたステージ前方中央に踊りながら出てくる金澤ダイスケ。今度はステージ袖に目をやり手招きする。ステージ袖から男女2人組が大きな機材を持って登場する。

人体切断のイリュージョンマジックを始めたのだ。しかも本格的。今度のマジックはお遊びではない。
金澤ダイスケが箱の中入れられる。箱の蓋が閉められる。マジシャンがギロチンのような大きな刃物を取り出し、箱に刺していく。悲鳴をあげるファン。驚いた表情をする金澤ダイスケ。
2枚の刃物を差し込み箱の真ん中をズラす。金澤ダイスケの胴体が切断される。悲鳴をあげるファン。驚いた表情をする山内総一郎。
悲鳴を確認したマジシャンは、胴体が入った部分を元の位置に戻す。2枚の刃物を抜き取る。そして箱を開ける。
切断されたはずの胴体を元に戻した金澤ダイスケが箱から出てきて、両腕を上げる。歓声と拍手を贈るファン。微笑んでいる加藤慎一。
何事もなかったかのようにキーボードの位置へ戻り演奏を再開する金澤ダイスケ。
音楽を聴きにきたはずなのに人体切断のイリュージョンマジックに感激していた。カオスなステージが続いたせいで感覚が麻痺していた。
演奏だけはいつも通り
カオスなライブではあったが、演奏だけはいつも通り素晴らしかった。カオスな催しが多かったため2時間半で『もののけ姫』を含む13曲しか披露しなかったものの、演奏の満足度は高い。
この日は金澤ダイスケが作詞作曲した楽曲を演奏されるセットリスト。
その中には『プレリュード』や『フラッシュダンス』など滅多に演奏されないレア曲も披露された。それだけでもコアなファンにとっては観る価値のあるライブだったとは思う。
『かくれんぼ』では演奏力を見せつけるような後半のセッションで圧倒させられる。『星降る夜になったら』での盛り上がりは演奏や楽曲の素晴らしさによって巻き起こったものだ。『SUPER!!』で「君を忘れはしないよ」のフレーズで山内総一郎が上を見上げて指差した時は、志村も向こうでお祝いしてくれてるのかもと想像してほっこりした。
カオスなライブではあった。もう一度観たいような、観たくないような、不思議な気持ちになる部分も多かった。でもカオスな部分が目立つライブだったからこそ、フジファブリックの楽曲や演奏の素晴らしさが際立っていたようにも思う。
その対比でカオスさも際立ってはいたけれども。
ヤバイのは金澤ダイスケだけではない
金澤ダイスケがブッとんでいるからカオスな催し物になっていると思いがちだが、ブッ飛んでいるのは金澤ダイスケだけではない。フジファブリックのメンバーは全員ぶっ飛んでいる。
アンコールで加藤慎一が「ここで発表があります!」と話す。
『加藤慎一生誕祭〜もしも願いが叶うなら〜 開催決定!』
バックスクリーンに文字が浮かぶ。加藤慎一まで生誕祭を行うらしい。
「今日ほどのことには......いやそんなことない!すごいことになります!」と話す加藤慎一。何をやらかすつもりなのだろうか。
「今日で金澤ダイスケの誕生日は終わりだ!今から俺の時代だ!」
叫ぶ加藤慎一。普段は最も落ち着いているメンバー。こんなに意気揚々と叫んでいる姿は初めてみた。心の中には燃えたぎるヤバさがあるのだろう。彼も『もののけ姫』を歌うのかもしれない。
【金澤ダイスケとアジカン伊地知が作ったバターチキンを食べた山内総一郎の反応】
— むらたかもめ🌏音楽ブログ (@houroukamome121) 2020年2月9日
山内「これ美味しいね!入ってるのはタケノコ?」
金澤「鶏肉ですね......」
山内「鶏肉でした......」
#フジファブリック
#金澤ダイスケ生誕祭
これはバターチキンカレーを食べた時の山内総一郎の反応である。鶏肉とタケノコを間違えていた。ヤバイ。
愛に溢れたライブ
コアなファン向けのライブではあったかもしれない。しかし楽しいライブではあった。終わった後みんな笑顔になっていたと思う。それはカオスでありつつも、愛に溢れたライブだったからだ。
アンコールではメンバーから金澤ダイスケへメッセージが贈られた。
「君と出会って人生の半分ぐらいは一緒にすごしているじゃないですか。苦楽をともにしてきたわけだけど、僕は本当に金澤さんに会えてよかったと思っています」
加藤慎一は「金澤さんに伝えたいことがあるのだけど」と言ってから、金澤ダイスケへの想いを語った。そして熱い抱擁を交わした。
山内総一郎は「普通に喋ったら話がまとまらなそうだから手紙を書いてきた」と話し、手紙を読み上げた。
出会った時、初対面の僕に優しく接してくれたことを昨日のように覚えています。ダイちゃんは嬉しい時は誰よりも笑い、悲しい時は人目をはばからず泣くような素直な心を持っています。だからみんなあなたのことを愛するのだと思います。フジファブリックが温かいバンドになれているのはダイちゃんのおかげだと思っています。40歳はオジさんなので健康には気をつけてください。
手紙を読み上げ熱い抱擁を交わしていた。「この手紙は額縁に飾ります」と冗談を言いつつも嬉しそうな金澤ダイスケ。
それに対して大きな拍手と「おめでとう!」という声を贈り祝福するファン。ファンからも愛されている。
「空を飛んでみたいと言ったら、スカイダイビングをさせてくれて、イリュージョンやりたいと言ったらマジックをやらせてくれて、スタッフには感謝していますし夢のようです。生まれてから40年。音楽を仕事にできました。空も飛べました。マジックもできました。みんなのことを元気にできたり喜ばせたりもできたと思います。今日来れなかった人も含めて、もっと喜ばせていきますので、これからもよろしくお願いします」
金澤ダイスケは最後のあいさつでこのように話していた。
スタッフからも愛されているのだと思った。メンバーはファンのことを大切にしているのだと実感した。だからカオスなことも面白がって実現してくれるスタッフが付いていて、それを楽しんでくれるファンがついているのだと思う。
『金澤ダイスケ生誕祭-Flyaway-』は音楽のライブとしてはヤバすぎることをやっている。フジファブリックだから成立させられたライブだと思う。
このライブが最もカオスな部分は、コスプレも宙吊りも料理もマジックもしているのに、想いがこもっていて、それがしっかりとファンに伝わって、音楽のライブとしても成立させてしまったことかもしれない。
フジファブリック金澤ダイスケ生誕祭-Flyaway-
セットリスト@EXTHEATER六本木 2020.2/9
1.恋するパスタ(Vo.金澤ダイスケ)2.スワン3.ポラリス〜平井堅『大きな古時計』BGMで金澤ダイスケの歴史を振り返る映像〜4.かくれんぼ5.プレリュード6.robologue〜平井堅『POP STAR』BGMで金澤ダイスケの過去にやったコスプレまとめ映像〜7.もののけ姫(Vo.金澤ダイスケ)8.フラッシュダンス9.バタアシParty Night〜アジカン伊地知と一緒にSESSION IN THE KITCHEN〜※BGM『君という花 (フジファブリックによるカバー)』10.Magic ※人体切断マジックあり11.星降る夜になったら12.SUPER!!EN1.ゴールデンタイム
- 出版社/メーカー: SMA(SME)(D)
- 発売日: 2020/02/26
- メディア: Blu-ray
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