始まりから凄い
開演時間の定刻を5分ほど過ぎた頃。開演前のBGMが少しづつ大きくなった。場内の照明も少しづつ暗くなる。NHKホールを埋め尽くす3800人がざわつく。

女王蜂 全国ホールツアー「十」ーSerenadeーの千秋楽であるNHKホール公演。
これほど客がざわつきながらはじまるライブは久々だ。それだけライブへの期待が大きいのだと思う。
薄暗いステージにメンバーが出てくる。一瞬で空気が変わる。
ボーカルのアヴちゃんはまだ出てきていないが、メンバーが出てくるだけで女王蜂にしか作れない独特な空気になる。ゾクゾクする。自分はこのバンドでしか体験できない「この感覚」を求めてライブに来たのだ。
女王蜂は他のバンドにはないオーラがある。個性と言うよりも世界観と呼ぶべきに思う。不思議な魅力がある。音を鳴らす前に、それが伝わってくる。
メンバーがそれぞれのポジションにつく。ドラムのソロから演奏が始まる。1曲目は『失楽園』。女王蜂はルックスだけでなく楽曲も個性的だ。それを感じるような演奏。技術もあるので演奏も上手い。
女王蜂のルックスやキャラクターにも惹きつけられるが、1番の魅力は音楽が持っている個性だ。
演奏に合わせてステージ真ん中の床が少しずつせり上がる。そこからボーカルのアヴちゃんが出てくる。さらに歓声が大きくなる。悲鳴にも近い歓声。
女王蜂はライブハウスが似合うロックバンドだと思っていた。それは勘違いだった。ホールも似合う。ホールでもライブハウスと同じようにオーディエンスを魅了する。
メンバーが全員登場した時点で、1曲目の途中で、すでにNHKホールの3800人を魅了していた。
悲鳴をあげた
何度か悲鳴をあげてしまった。自分でもこんな声が出るのかと思うぐらいに興奮してしまった。
最初に自分が悲鳴をあげたのは2曲目の『空中戦』。ライブ開始10分ほどで悲鳴をあげた。
「カモン東京!空中戦」
曲の中盤にアヴちゃんの言葉と話し方が色気に溢れていた。
もともと音源でも「空中戦」と言うセリフはあるのだが、ライブだとこれほど色気があるのかと思う。ここでいう色気はロックボーカリストだけが持っているような「ロックな色気」だ。
その色気を感じた時、カッコよすぎて、うっかり悲鳴をあげた。余談だが自分は普段は悲鳴をあげることはないアラサーの男だ。これが自分にとってこの日最初の悲鳴。
2回目の悲鳴は『デスコ』の曲始まり。
『売春』をしっとりと歌い終わった後、ピアノだけが響く。ピアノの音に合わせて暗い照明の中で妖艶に動くアヴちゃん。その姿に引き込まれる。客席も静かに集中している。
その静寂を切り裂くようにアヴちゃんが叫ぶ。バンドの演奏も突然激しくなる。それに鳥肌が立つ。
「ディー!」
アヴちゃんがアルファベットのDを叫ぶ。
その瞬間、カッコよすぎて悲鳴をあげた。アルファベットを言うだけでカッコいいボーカリストが他にいるだろうか。これが自分の2回目の悲鳴。
「渋谷!」
『デスコ』の途中でアヴちゃんが煽り、ひばりくんのギターソロが叩きつけれる。その時もまた悲鳴をあげた。1曲で2回悲鳴をあげる。一粒で二度美味しい。
アラサーの男はまだまだ悲鳴をあげる。新曲の『BL』を演奏した時も叫ぶ。
新曲の披露への驚きと喜びで歓声をあげる客席。まだ悲鳴ではない。
スローテンポから少しづつ盛り上がっていく展開に少しづつテンションがあがる。しかし途中で「ストップ!」と叫び曲を途中で止めるアヴちゃん。どうやらミスをしたようだ。
「こんなのらしくなさすぎる!」
ミスをした時にこのように話す姿は「女王蜂らしいな」とニヤリとしてしまう。
「初めて聴いたつもりで」
そう言うとニヤリとアヴちゃんは笑い演奏をやり直す。再開方法が女王蜂らしさとカッコよさに溢れている。
カッコよすぎて、悲鳴をあげた。
本人も「10年間の活動で初めてのレアな体験」と言っていた。こんなレア体験をしたのだから悲鳴をあげても仕方がない。悲鳴をあげない方が失礼だ。
最も大きな悲鳴をあげてしまった時は『火炎』の曲始まり。
『先生』からつながるように始まった『火炎』。『先生』の曲が終わる時に、アヴちゃんがステージの真ん中に立ちポーズをする。
「マッチを」
そう言ってマッチをつける仕草をする。その瞬間、真っ赤な照明でステージ全体が染まる。そのまま曲が始まる。
演出が素敵すぎて悲鳴をあげた。この日1番の悲鳴をあげた。令和になって一番大きな悲鳴をあげた。そもそも令和になって初めて悲鳴をあげたのがこの日だ。カッコよすぎて失神するかと思った。
ライブ中にアラサーの男が4回悲鳴をあげてしまった。恥ずかしいが悲鳴をあげるぐらい素晴らしいライブだったと理解してほしい。
いやちょっとまてよ。もっと悲鳴をあげているかもしれない。
『ヴィーナス』の曲始まりや『催眠術』の後半でも悲鳴をあげた気がする。『くちづけ』で衣装替えして出てきたときも悲鳴をあげていた。
数えたらきりがないぐらい悲鳴をあげていた。
しかし、まったく悲鳴もあげず、歓声も贈らずに観ていた時間もある。曲終わりに拍手すらできなくなるぐらい、集中してしまった時間がある。
3800人が静まり返る
『火炎』の次に披露された未発表の新曲で空気が変わった。
ベースのやしちゃんとサポートキーボードのみーちゃんが、楽器から離れ前方に出てきてコーラスをしていた新曲。音楽の世界に吸い込まれるような気分になる幻想的な楽曲。スローテンポで演奏される演奏に心をつかまれる。
そのまま次の曲が演奏される。『Q』と『十』だ。スローテンポの楽曲でさらに女王蜂の世界に引き込まれる。
圧倒させられた。演奏の表現力と歌声の表現力に。それを支えるような幻想的な照明も美しかった。心地よくて、音に酔ったような気分になる。
女王蜂は音楽で盛り上げてくれるだけではない。パフォーマンスで魅了させてくれるだけでもない。
音楽を使って異次元に連れて行ってくれるような、他では体験できない世界を体験させてくれる。
NHKホールは物音一つなかった。客席全体が静まり返っていた。さっきまでアラサーの男に悲鳴をあげさせていたとは思えない景色を作り出している。
これは女王蜂のライブでなければ体験できない空間かもしれない。
自分はこの感覚を求めて女王蜂を観にきたのだ。
あっという間に終わった
アヴちゃんが頭を下げる。その瞬間、またフロアの雰囲気が変わった。
幻想的で吸い込まれそうだった空気が、パッと明るくなった。そして『聖戦』『金星』『Serenade』を連続で演奏する。
この3曲はホールが特に似合う楽曲に思った。壮大な楽曲。むしろホールでも小さいぐらいだ。音で包み込んで圧倒させるような演奏。
さっきまで静まり返って集中していた客席も、序盤と同じように盛り上がる。多幸感溢れた空間だ。明るい照明の中で演奏し歌う女王蜂。その姿はカッコよかった。でも自分は悲鳴をあげなかった。その代わり、笑顔で音楽を聴いていた。
MCらしいMCもなくひたすら演奏を続け、音楽の魅力で惹きつけたライブ。女王蜂にしかやることができないライブ。
あれだけロックバンドとしてカッコいい姿を見せつけられたのに、終演後の余韻はカッコよさに痺れたというよりも、温かい気持ちになっていた。不思議だ。
終演後に時計を確認すると、開演から1時間15分ほどしか経っていなかった。
ワンマンライブにしては短い。女王蜂の2倍以上の時間ライブをやるアーティストも珍しくはない。
それでもまたすぐにでも、女王蜂のライブを観たいと思った。
それは時間が短くて物足りないからではない。短くても濃厚な時間を体験できたから、また観たいと思った。もう一度あの時間を体験したいと思ったのだ。
もしかしたら濃厚なライブだからこそ、これ以上長くはできなかったのかもしれない。最初から最後まで女王蜂だけが持っている魅力に魅了された、1時間15分だった。
女王蜂 全国ホールツアー「十」ーSerenadeー
NHKホール
▪️セットリスト1.失楽園
2.空中戦
3.魔笛
4.催眠術
5.一騎討ち
6.ヴィーナス
7.売春
8.デスコ
9.BL
10.くちづけ
11.先生
12.火炎
13.新曲
14.Q
15.十
16.聖戦
17.金星
18.Serenade
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