今までと違う
SHISHAMOの6枚目のアルバムが、明らかに今までと音が違う。今までとは違う曲調が多い。
『SHISHAMO6』というタイトルの最新作。
過去作と違い演奏や音色が渋い。1音1音が落ち着いている。今までとは違うタイプのカッコよさが滲み出ている。
SHISHAMOはポップな曲や明るい曲調も魅力だとは思う。そのような曲で人気を獲得したと思う。
もちろんそれだけではないが、少なくともアルバムの1曲目はキャッチーな曲や疾走感のある曲だった。
『SHISHAMO6』の1曲目『天使みたい』はミドルテンポ。3人の奏でる音からブルースのような渋みを感じる。
こんな曲は今までなかった。シックな演奏に酔いしれそうな楽曲だ。
今までにないタイプの楽曲が揃っている作品だが、新境地と呼ぶのは違うとも思う。むしろ今までの延長線にあると思う。
バンドがこれまでのキャリアで培った演奏力や表現力が最も伝わる曲を揃え、作品としてまとめたように思う。
演奏が魅力的なアルバム
前作『SHISHAMO5』ではメンバー以外の音を積極的に取り入れた、J-POPに寄り添うような作品だった。
今作『SHISHAMO6』はメンバー以外の音は控えめな楽曲が多い。外部の音があっても、それはあくまでメンバーの演奏を際立たせるためのサポート的な使い方だ。
『君の大事にしてるもの』でもシンセサイザーの音は入っているが、印象に残るのはメンバーの演奏。
音を増やすよりも音数を減らして3人の演奏を聴かせようとしたり、「間」を意識してそれによってノリや心地良さを作ろうとしている。
メンバー1人ひとりの演奏が印象的に聴こえるよう編曲された曲も多い。
『二酸化炭素』ではメロディを奏でるように弾くベースの音だけをバックに歌う箇所がある。『フェイバリットボーイ』ではベースソロから曲が始まる。
『またね』はドラムの音から始まり、中盤ではドラムだけをバックに歌う部分がある。そこからギターの音だけをバックに歌い、また全員の音が重なる展開になる。
疾走感のある曲は過去作品よりも少ない。1人ひとりの演奏を聴かせるならミドルテンポやスローテンポの曲が向いているのかもしれない。
しかし『真夜中、リビング、電気を消して』のように疾走感のある曲も収録されている。
『真夜中、リビング、電気を消して』は3人の演奏だけで成り立っている。そしてこの曲も「間」がある事でそれぞれの演奏が際立つ。それによって気持ちの良いノリが生み出される。
3人のグルーヴの良さを感じるし、それがしっかり伝わるような編曲になっているのだ。
新しい音楽への挑戦
編曲が今までと違うだけでなく、ジャンルとしても新しい音楽に挑戦している。
『ひっちゃかめっちゃか』ではラップのように言葉を詰め込んでいる。今までになかったタイプの楽曲だが、サビではSHISHAMO節とも言えるキャッチーなメロディに変化する。この展開が新鮮。
『忘れてやるもんか』ではレゲエのリズムと演奏を取り入れている。そこから曲調やテンポが変化し、サビの演奏はロックになる不思議な曲。
新境地とも言える楽曲は収録されているが、最終的にはSHISHAMOとしてのロックやポップスに落とし込んでいる。
バンドとしての軸はぶれないように新しい挑戦をしている。
バンドとして自信があるから軸がぶれないのだと思う。バンドとして貪欲で音楽を楽しんでいるから新しい挑戦をするのだと思う。
これがSHISHAMOの強みのうちの1つだ。
何かが吹っ切れたような歌詞
全員漏れなく死ねばいいのに
嘘ついたり隠したり
うまいことやろうとすんなよ(忘れてやるもんか)
『忘れてやるもんか』を聴いて久々にSHISHAMOの歌詞で背筋がゾクッとした。
もともと宮崎朝子は毒気のある歌詞を書いていたが『明日も』のヒット以降、そのような歌詞は減っていた。それが今作では尖った歌詞や毒気のある歌詞が増えている。
怒鳴り散らかす君の喉仏
思わず私を殴る君の大きな手
それが、私の大事なもの。
ライダースもジョーダン6も
ヴィンテージのTシャツも
あのギタリストのサイン入りのエフェクターも
GTO全25巻も
君のレスポールと一緒にぶっ壊してあげる
君のそばには私がいればいいでしょう?
君の大事なもの ゴミにしか見えないし
私がそばにいれば何もいらないと、言って(君の大事にしてるもの)
『君の大事にしてるもの』の歌詞は物語形式になっている。そこには純粋であり歪んだ愛の形が表現されている。
キスをちょうだい どこでもいいから
あなたの唇が好きだから
キスをちょうだい どこでもいいけど
エッチなことは考えないでね(キスをちょうだい)
『キスをちょうだい』は可愛らしい曲調で、3人で歌うポップなサビが印象的な曲。しかし歌詞は子どもには聴かせられないような色気がある。
聴く人を選ぶような、万人には共感されないような歌詞が多い。その代わり主人公の感情の深いところを表現するような歌詞が多い。
真夜中リビング電気を消して
大好きなもの並べてみた
君がいなくても 私を私たらしめるものは
こんなにたくさんあるってのに
明日からはもう一人で大丈夫
自分の機嫌は自分でとる
笑ったり泣いたりできるんだよ
ほらね、君がいなくたって。(真夜中、リビング、電気を消して)
『真夜中、リビング、電気を消して』の歌詞は全編通して複雑な感情を繊細に表現している。
『明日も』や『OH!』のようなリスナーにメッセージを贈ったり、共感させて感動させる歌詞が今作は少ない。
それよりも主人公に寄り添って歌詞の物語として深い表現をしているものが多い。
多くの人が共感する歌詞よりも、一部の人に深く突き刺さるような歌詞が多い。何かが吹っ切れたように今まで以上に自由な表現をしているように思う。
女性ミュージシャンへの差別
『SHISHAMO6』について宮崎朝子が語っているインタビュー記事を読んで驚いた。いまだに女性差別があるのかと。
ここ1、2年くらい、テレビを観ている人たちが思っているSHISHAMOと実際の自分たちとの間でズレが出てきて、しんどいと思うことがあったんですよ。極端に言うと、楽器を弾いていないんだろうとか、自分たちで曲を作っていないんだろうとか。そんなことを思われるなんて、思ってもみなかったんですが、女の子が3人並んでバンドをやっていると、そう思う人もいるんだなって、逆に驚いたり。そう思われるだけならまだいいんですけど、そういうイメージを持たれることで、SHISHAMOの音楽を聴いてもらえなかったりするのは嫌だなって。だったら、自分の作りたいものを作って、何のイメージもないところで評価されたほうが、どういう結果であれ、音楽をやってる身としてはうれしいかなって。ここ何年か、音楽以外のところでのこだわりを持って作っていたところもあったので、シンプルな状態に戻そうと。自分たちがいいと思うものを自然に作ろうということですね。
女性ミュージシャンに対して偏見を持っているリスナーは少なくないのだと思う。差別をする人もいるのだろう。
SHISHAMO以外にもこのような差別や偏見を持たれた女性ミュージシャンもいて、それによって潰れてしまったり潰されてしまったミュージシャンもいるのかもしれない。
SHISHAMOは「自分の作りたいものを作って、何のイメージもないところで評価されたい」と開き直ることで作品を作ることができた。
『SHISHAMO6』は傑作だと思うし、個人的にSHISHAMOで最も好きな作品になった。
『SHISHAMO6』はガールズバンドへの偏見がなかったとしたら別の方向性の作品になっていたかもしれない。
いや、最初から偏見や差別がなければ、メンバーはしんどい思いをせずに、常に自然な状態で作品を作れていたのかもしれない。
「自分で言うことじゃないかもしれないけど、今SHISHAMOはすごく良いんです。我ながら今すごく良いバンドになっていると思います」
2020年1月25日に行われたワンマンライブでは、ドラムの吉川がこのようにMCをしていた。
「吉川が言った通り、すごくバンドが良い状態になっていると思います。自分でSHISHAMOのことが好きだなと思えると言うか。別に今まで嫌いだったわけではないけども(笑)」」
朝子も共感してこのように話していた。
自分はMCを聞いて、演奏の表現力が上がったことや、自信作を作れたことからの発言だと思っていた。
もしかしたらそれ以上に、特別な想いや意味があったのかもしれない。
差別や偏見はなくすべきことだ。女性差別も男性差別も両方なくさなければならない。
そもそも「ガールズバンド」という呼び方も無くすべき言葉だと思う。ミュージシャンのことは「音楽」できちんと評価するべきだ。
性別や年齢や国籍など音楽と関係ない情報で評価するべきでは無い。それで評価することは不可能だ。
『SHISHAMO6』を自分は素晴らしい作品だと思う。名盤だと思う。改めて良いバンドだと思った。
だから“純粋に”音楽が好きな人には『SHISHAMO6』を聴いて、“純粋に”音楽としてどう感じたのかを評価して欲しい。
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