聴いていて動揺した
チャットモンチーのラストアルバムがCDリリースに先駆けて配信でリリースされた。『誕生』というタイトルの作品。
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配信を知ってからすぐにダウンロードして聴いた。好きか嫌いかで言ったら自分は好きな作品。しかし聴いていて動揺してしまった。不思議な気持ちになった。
アルバムの音作りは世間のイメージするバンドサウンドのチャットモンチーとは違う。もしかしたらファンの期待していたものとも違うかもしれない。チャットモンチーの持っていた個性や強みを活かしているわけでもない。
それでもチャットモンチーにしか作れない作品にも感じるし、チャットモンチーぽさも感じる。
全く知らなかった新しいバンドの作品を聴いているようなのに、聴いているとチャットモンチーの魅力を感じる。
一言で『誕生』がどのような作品なのか説明できない。でも、今までのチャットモンチーにはなかったタイプのアルバムで、このアルバムが魅力的な作品だとはわかる。チャットモンチー、最後の最後にとんでもない作品を作ったのだ。
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チャットモンチーがバンドではなくなった?
チャットモンチーの魅力の1つは個性的な生楽器のバンドサウンドだと思う。それは初期のスリーピースの頃からずっと特徴でもあり魅力でもあった。
チャットモンチーの演奏はテクニカルだったり難しいことをしているわけではない。シンプルな演奏が多い。しかし、シンプルながら骨太な音だったり、簡単なフレーズなのにキャッチーで耳に残るフレーズが多かった。
2人になってからも様々な楽器を2人で弾きこなし、唯一無二のチャットモンチーの音楽を作っていた。
サポートメンバーを迎えて活動していた時も、サポートメンバーの個性を活かしつつもチャットモンチーの2人が中心に魅力的な演奏をしていた。
ずっと”演奏が魅力的”なことがチャットモンチーの個性でもあり強みだったと思う。
しかし、『誕生』はバンドサウンドではない。打込みがメインの編曲だ。楽器の音は少ない。チャットモンチーに限らず、多くのバンドが打ち込みやメンバー以外の外部の音を取り入れた作品は作っている。バンドが打ち込み音源を使用することは珍しくはない。しかし、今作は「打ち込みの音を取り入れた」ではなく、「打ち込みの音にした」作品とも言える。
『誕生』を一聴しただけだとバンドの作品とは感じないかもしれない。しかし、聴いているうちに何故か「バンドサウンド」も感じるのだ。
それが新しい「チャットモンチーのバンドサウンド」にも思える。それはなぜなのか?
今までにない編曲
『誕生』は打ち込み音源を取り入れたのではなく、打ち込みの音がメイン。しかし、楽器が全く入っていないかと言うと、そううわけではない。
ギターの音は橋本絵莉子の弾いた音が使用されている。その音はもちろん打ち込みではないし、橋本絵莉子の個性を感じる演奏。
ベースの音は打ち込みの音源も使用されている。しかし、打ち込みだけでなく福岡晃子の弾くベースの音もしっかり使われている。
ギターとベースの演奏を取り入れたことは、編曲において隠し味のような役割かもしれない。
しかし、メンバーの演奏はいつも通りにみんなが知っているチャットモンチーの演奏。もちろんボーカルは橋本絵莉子。それらの楽器の音が打ち込みの音に加わると、今までのチャットモンチーとは違う音なのに、チャットモンチーの強い個性を感じる。
メンバーの演奏する楽器も隠し味のように使用されていること。それが今までと違う音作りでも、チャットモンチーの個性を感じたり、バンドのグルーヴ感がある理由の1つかもしれない。
しかし、理由はそれだけではない。
楽曲が当たり前に良い
チャットモンチーが今まで発表した楽曲で共通していることがある。それは、曲も歌詞もめちゃくちゃ良いことだ。
それはデビュー当初から変わらない。3人組の頃も2人になってしまった時もサポートメンバーを迎え入れていた時も、ずっと名曲を作り続けていた。それは活動形態は変わっても、一貫して変わらなかった部分だ。
チャットモンチーの最期のアルバムでもある『誕生』も過去の作品と同様だ。収録曲が全て良い曲。
特にメロディはチャットモンチーの個性もある上でキャッチー。そのメロディセンスはより洗練されているようにも思う。
例えば、リードトラックの「たったさっきから3000年までの話」はサビに歌詞がない。ウォウウォウ言ってる。例えるならバンプがオーイエイヘイアハンをサビでずっと歌っているような感じそれでもそのメロディは印象的で心地よい。歌詞がないことでよりメロディの力強さを感じる。
それ以外の楽曲もメロディが良い。特に後半に収録されている「砂鉄」は歌詞のインパクトも相まってよりメロディが引き立てられている。
「たったさっきから3000年までの話」ではサビに歌詞がないことでメロディの魅力が引き立てられていた。しかし、「砂鉄」は歌詞があることによってよりメロディが魅力的になっている。チャットモンチーは歌詞も含めてどのように表現すれば最も魅力的に楽曲を届けられるのかを真剣に考えているとのだと感じる。
なぜ打ち込みを多用したのか?
上記にも書いた通り、チャットモンチーは表現の方法にこだわり、楽曲やアルバムごとにどのように表現することがベストなのかを考え抜いて制作していると思う。
『誕生』はミドルテンポの楽曲が多い。その楽曲が打ち込みの編曲と相性が良いのだ。ラストアルバムの収録曲は初期の頃のようにスリーピースバンドとしての表現では魅力を引き出せないようにも感じる。2人で様々な楽器を弾いて表現することも難しかったのかもしれない。
個人的にラストアルバムの収録曲がバンド演奏されている編曲を想像してみたが、あまり合わないような感じもした。実際打ち込みを使用することで楽器では表現しきれないニュアンスを音で表現できている。最後に収録されている「びろうど」からは特にそれを感じる。
チャットモンチーは『誕生』の収録曲の魅力を最大限に引き出すには、打ち込みを多用した編曲がベストだと判断したのではないだろうか。そして、それは実際にベストな判断だったのだと思う。
その根拠は『誕生』を聴けばわかる。このアルバム、とても良いアルバムになっているんだ。
本当はずっとチャットモンチーを続けて欲しかった
『誕生』を聴くと思う。まだチャットモンチーを続けて欲しかったなと。
チャットモンチーはラストアルバムで新しい方向性で音楽を作り、新しいチャットモンチーの音楽を聴かせてくれた。もしも今後も活動を続け次のアルバム制作がされるのだとしたら、ファンが想像もしなかった、もっと凄いアルバムを作ってくれた予感もする。それを聴いてみたかった。
しかし、本人たちはインタビューなどで「やりきった」と語っている。
スリーピース時代、ガールズバンドとしては頂点ともいえるぐらい評価もされた。2人になった時も2人だけでステージに立ち様々な楽器を演奏したライブやアルバムも個性的だった。サポートメンバーを迎え入れて完成度の高いアルバムも作りライブも行った。そして、『誕生』では打ち込みメインによるアルバム制作を行った。
チャットモンチーは様々なことに挑戦して多くの名曲を作ってきた。様々なバンド形態で素晴らしいライブを何度もやってくれた。確かに「やりきった」と言えるほどの密度の濃い活動だったのだろう。
これだけ様々なことを行ったチャットモンチーだから、やりきったことが理由のでバンドを辞めることは納得できる部分もある。でも、やっぱり悲しい。最後に『誕生』という名盤を作って完結することも悔しい。
タイトル通り、新しいチャットモンチーの誕生ともいえるような作品だから、この先ものチャットモンチーも観たくなってしまう。
本当はチャットモンチーをずっと続けて欲しかった。『誕生』はラストアルバムなのにそんなことを感じさせるようなアルバム。悲しいし悔しいけど、ありがとうと言いたくなるようなアルバム。
チャットモンチーが最後に残した名盤を多くの人に聴いてほしいと思う。
