ソロ30年目の衝動
CDのジャケットに貼られていたシールにはこんな言葉が書いてあった。
「ソロ30年目の衝動」
桑田佳祐が6年ぶりにリリースした最新アルバムの『がらくた』である。
サザンオールスターズでの活動はもちろん、ソロの楽曲でもヒット曲を多く生み出している日本のJ-POPシーンの超大御所。
そんな大御所が「ソロ30年目の衝動」とか言っちゃってるわけである。
CDリリース時に衝動という言葉を宣伝文句にするのはデビューしたての新人が多い。
桑田佳祐ほどの大御所が新人のようなフレッシュな気持ちであったり、衝動的な勢いでアルバムを作ったということだろうか。
というわけで聴いてみました。
桑田佳祐の最新アルバム『がらくた』。
でも、自分はそこから衝動は感じなかった。
衝動というよりも、むしろ丁寧に考えられて作られているように感じた。
なぜ桑田佳祐は今作で「ソロ30年目の衝動」とキャッチコピーをつけたのだろうか。
区切りが良い記念年だからだろうか。
そんな単純でもないとは思う。
今作の収録曲すべての感想とレビューと、なぜ作りこまれたアルバムで「ソロ30年目の衝動」とキャッチコピーをつけたのか考えてみた。
01.過ぎ去りし日々 (ゴーイング・ダウン)
アルバムの最初にふさわしいようなロックンロールな曲。
自分はなんとなく70年代あたりのエルトンジョンぽさも感じた。
ピアノの演奏がシンプルでロックな演奏をしていて気持ちいい。
演奏が全体的にロック聡明期を意識しているような感じがする。
02.若い広場
ミドルテンポの聴いていて心地よい曲。
コーラスがなかなか面白い。
70年代の歌謡曲と言った雰囲気。
懐かしさを感じるんだけど、どことなく新しさも感じる。
それは現代でも様々な音楽を聴いて吸収している桑田佳祐が作ったからだろうか。
メロディはサザンや桑田佳祐に詳しくない人でも、1回聴いただけで桑田佳祐が作曲したのかと気づくぐらいに桑田ぽさが前面に出ているように感じる。
03.大河の一滴
オルガンの音から90年代のサザンの曲の雰囲気を感じる。
こういった曲は桑田佳祐が手癖で作れそうにも感じるけど、安心して聴くことができる。
この曲のメロディは歌謡曲的だけど、ところどころはやはり桑田ぽさが出ている。
04.簪/かんざし
ピアノの演奏が特に印象的な落ち着いた雰囲気の曲。
ジャズも取り入れているのか、お洒落な雰囲気もある。
楽器を複数使っているが、その楽器同士が重なって演奏する部分はそれほど多くなく、それぞれの楽器の音を必要な時に必要なだけ無駄なく音を出しているように感じる。
そのためか一つ一つの楽器に印象的なフレーズがある。
05.愛のプレリュード
最初のイントロが印象的で編曲もメロディも明るくてポップ。
メロディを聴くとかわいらしさすら感じる。
80年代のアイドルが歌っていても違和感がなさそうなメロディ。
個人的にはホーンの演奏が好き。
あとサビでさり気なく弾かれているエレキギターが地味ながらもかっこいい。
06.愛のささくれ~Nobody loves me
この曲はギターが特に印象的に感じる。
暗めの曲なんだけど、それがクールにも感じてかっこいい。
若手のミュージシャンには出せないような凄みや雰囲気を感じる。
サビのベースラインが特に好き。
歌詞のメロディへの乗せ方が字余りがあっても強引に乗せるような部分もあってそこもかっこいい。
07.君への手紙
アコギの弾き語りから始まるけれども、弾き語りでもしっとりと聴かせるわけではなく、心地よいノリを感じる。
曲が進むにつれ他の楽器の音も重なっていき、後半へと盛り上げていく。
音が増えていくタイミングも絶妙で、どの楽器が増えたか、どんな音を出しているかを聴いているうちに自然と曲の世界観に入り込んでしまう。
08.サイテーのワル
歪んだギターの音がかっこいい。
編曲は重めのロック。
このアルバムの中では最も重い音を出している編曲かもしれない。
ドラムはシンプルなリズムパターンなんだけど、しっかりと曲を支えているのでいい感じのノリを出している。
歌詞も面白くて、現代社会を風刺しているような内容。
09.百万本の赤い薔薇(Album Version)
朝に聴いたら心地よさそうな爽やかな曲。
ストリングスが印象的なフレーズを弾いている部分が多い。
でも実はこの曲の要はピアノではとも感じる。
シンプルで特別難しいわけでもないフレーズを弾いているようにも感じるし、似たようなフレーズをループして弾いているようにも感じるけども、それが曲を支えているように感じる。
少し変わった演奏をしている楽器があるときに、この曲のピアノのようにシンプルながらもしっかりと支えるような演奏をしている楽器があると、曲全体が散らからずにまとまるように感じる。
10.ほととぎす [杜鵑草]
ドラムのシンプルでもぶれない演奏が心地よい。
使われている楽器の数は少なく感じるけども、歌はよく聞こえる。
歌の良さは特に感じれる編曲になっているように感じる。
でも音がスカスカなわけでもなく、音の隙間はほとんどない。
最小限の音で最大の演奏をしているように感じる。
11.オアシスと果樹園
アコースティックギターのカッティングが良い仕事している。
カッコいい。
アコギはシンプルにカッティングを続けているけども、エレキギターは自由に様々なフレーズを弾いているように感じる。
サビになるとクラップの音が入ってくるんだけど、そのリズムが心地よい。
アップテンポの曲だけど速すぎるわけでもなく、盛り上がりよりも心地よさを感じる。
12.ヨシ子さん
タイトルもインパクトがあるけども、最初のイントロが1度聴いたら忘れられないほど印象的。
決してキャッチーなわけでもない不思議な雰囲気のイントロなのに印象に残って忘れられない。
シタールのような楽器の音も聞こえるし、どことなく中東の民族音楽やアジアの民族音楽のような雰囲気もある不思議な演奏。
演奏がサビに向かって盛り上がっていく感じではなく、不思議な雰囲気の演奏で音を重ねたり変化をさせて曲が進んでいく。
曲も不思議な雰囲気があるけども、歌詞もなかなかシュールで不思議な感じ。
しかもこれシングル曲だったからね。
個人的にはJ-POPとしてはかなり異質な楽曲で、名曲だと思う。
13.Yin Yang(イヤン)
ホーンの音が印象的。
グループサウンズのような演奏と歌謡曲を感じるメロディ。
どこか懐かしさを感じる曲。
歌よりもホーンの演奏が印象に残る。
歌のメロディよりもホーンの演奏するフレーズが耳に残る。
個人的にはホーンが主役ではと思っている曲。
14.あなたの夢を見ています(Album Version)
ミドルテンポで心地よいリズムの曲。
90年代のJ-POP的なシンセの音とドラムの音作りが印象的。
歌が入るタイミングでドラムのリズムパターンが変化する部分が面白い。
歌が入るタイミングでの演奏の変化で自然と歌の方に耳を傾けてしまうような編曲になっている。
15.春まだ遠く
しっとりとした落ち着いた曲。
オーケストラアレンジだが、壮大というわけではなく歌のバックで静かに鳴っているような感じ。
歌を引き立てるためになっている楽器の音のように感じる。
そのため歌がすんなりと入ってきて、歌詞も耳に残る。
途中からアコースティックギターのカッティングも入ってくるんだけど、それがかなり素朴な演奏。
しかし、他の楽器の演奏がかなり考えられて丁寧に演奏されているので、それが良いアクセントにもなり、この曲の個性にもなっている。
最後にアルバムの余韻を残すような曲。
衝動を感じなかったけど衝動だということは理解できる
このアルバムは桑田佳祐の作品だけあって流石のクオリティだと思う。
桑田佳祐も凄いとは思うけども、収録曲の殆どの編曲に関わっている片山敦夫も凄いセンスと才能と実力だと思う。
でも「ソロ30年目の衝動」というものは自分は感じなかった。
衝動というよりも成熟された深みを感じた。
衝動よりも丁寧に作りこまれた曲や音に感じた。
つまり、衝動的な「これはすごい」とか「これは新しい」とか「これは面白い」と聴いた瞬間感じるものはないように思う。
その代わりに勢いで出てきた若手には絶対に真似ができない凄みや深みを感じた。
今作は本作はロック、ジャズ、ドゥーワップ、サイケデリック・ミュージック、フィリーソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、歌謡曲と、あらゆるジャンルをブレンドした桑田にとっての意欲作らしい。
正直、ほんの少しそういったニュアンスが入ってるのかなというのはあったけども、歌謡曲の要素が最も強いように感じた。
お馴染みの桑田佳祐の作るメロディを感じる曲も多かった。
しかし、桑田佳祐が「30年目の衝動」と言った理由もなんとなくはわかる。
もう60歳を超えるソロだけで30年、バンドを含めると40年近くキャリアのある超ベテランの超大御所ミュージシャンだ。
超大御所になった今でも新しい音楽を聴いて、ワクワクして衝動的に自分の曲のエッセンスを取り入れたということではと思う。
あまりにも自然に歌われているから気にもしていなかったが、”ヨシ子さん”をシングル曲としてリリースしたことはなかなか冒険ではと思う。
それ以前のシングル曲を聴くと、どれもJ-POP的なわかりやすさがあった。
衝動と言うと勢いや力技のようなパワーや荒々しさなどを想像してしまう。
しかし、衝動という言葉の意味はそれだけではないとも思う。
例えばロックに衝撃を受けてそれを衝動として表現するならば、BPM早めで荒々しさも感じるロックンロールになるかもしれない。
しかし、例えばジャズに衝撃を受けて衝動に変えるならばそうはならないだろうし、HIPHOPの衝撃を衝動に変えるとしてもそうはならないだろう。
あまりに自然に自分のものにしていたので衝動に気づきづらかった部分はあるが、確かに『がらくた』は衝動を受けて作られた作品なのかと感じる部分はあった。
このアルバムにはその衝動を衝動と感じさせないぐらいの作りこまれ方がされている。
そのため衝動よりも完成度の高さを聴いていて感じたが、それらが作られるきっかけや過程には確実に『衝動』があったのではと思う。
というわけでまとめると、桑田佳祐の『がらくた』、良い作品ですよ。
