こんにちは、山本(@hiro_o918)です。 この記事はAI・機械学習チームブログリレー 2 日目の記事です。 1 日目は北川さんの「gokartに型を入れるためにspotifyやfacebookのOSSにコントリビュートした話」でした。

はじめに
AI チームでは、LLM を活用した AI プロダクトを開発しています。 こうしたプロダクトでは LLM の推論に時間がかかるため非同期処理が必須になったり、機能ごとに独立した API として切り出したりすることが多く、自然とサービスが分割されていきます。
サービスが分割されると、API の定義だけでなく PubSub のメッセージスキーマなど、サービス間で共有すべきスキーマが増えていきます。 Protocol Buffers や OpenAPI Specification で定義をコード化するのがベストプラクティスですが、これらの定義ファイルをリポジトリ間でどう管理・共有するかという問題は意外と明確な解決策がありません。
そこで今回は、この課題を解決するために自作した CLI ツール「skem」を紹介します。
マイクロサービスにおけるインタフェース共有の課題
なぜインタフェース共有が難しいのか
マイクロサービスでは、サービス A がサービス B の API を呼び出す際に、その定義(proto ファイルや OpenAPI spec)を参照してコード生成を行うことが一般的です。 これらの定義ファイルをサービス B のリポジトリで管理している場合、サービス A からどのように参照するかという問題が生じます。
よく採られるアプローチとその課題をまとめると、次のようになります。
| アプローチ | 課題 |
|---|---|
| 手動コピー | バージョンの不整合が発生しやすい。コピー忘れや、どのバージョンを参照しているかが不明瞭になる |
| Git submodule | 仕組みとして重く、更新忘れや detached HEAD 状態でのコンフリクトが起きやすい。チームへの習熟コストも高い |
| buf | proto ファイルの管理には便利だが、OpenAPI spec など任意の定義ファイルを管理するには不向き |
| monorepo への移行 | インタフェース共有の問題は解決するが、既存の開発フローを大きく変える必要があり、移行コストが大きい |
理想の要件
これらの課題を踏まえると、求められる要件は次のとおりです。
- リポジトリ全体ではなく、特定のファイル/ディレクトリだけを取得できる
- 特定のツールや環境に依存せず、任意のファイルを管理できる
- 取得後にコード生成等の後処理を自動実行できる
skem の概要
skem は、リモート Git リポジトリから特定のファイルだけをダウンロードし、hooks を実行できる Rust 製の軽量 CLI ツールです。
主な機能は次の3つです。
- Sparse checkout によるファイル取得: Git の sparse checkout を使い、必要なファイルだけを効率的に取得。リポジトリ全体をクローンしないため高速
- lockfile による再現性の担保:
.skem.lockに取得時のコミット SHA を記録し、同じバージョンを再現可能 - hooks による後処理の自動化: ファイル取得後に任意のシェルコマンドを実行できる。proto ファイルや OpenAPI spec のコード生成など、取得と連動した処理を自動化
skem のシンプルさについて
skem が担うのは「指定したファイルを取得すること」と「hooks を実行すること」だけです。 コード生成やビルドは hooks に委ね、ツール自体はシンプルに保つ設計にしています。
protoc や openapi-generator など既存のツールと自由に組み合わせられるのが利点です。
使い方
インストール
curl -fsSL https://raw.githubusercontent.com/hiro-o918/skem/main/install.sh | bash
cargo が使える環境であれば、ソースからもインストールできます。
cargo install skem
設定ファイル(.skem.yaml)
まず skem init でサンプルの設定ファイルを生成し、プロジェクトに合わせて編集します。
deps: - name: proto-schemas repo: "https://github.com/hiro-o918/skem.git" rev: "main" paths: - "examples/schemas/proto/" out: "./vendor/proto" hooks: - "echo 'Proto files updated'" - name: openapi-schemas repo: "https://github.com/hiro-o918/skem.git" rev: "main" paths: - "examples/schemas/openapi/" out: "./vendor/openapi"
設定の各フィールドは次のとおりです。
| フィールド | 必須 | 説明 |
|---|---|---|
deps[].name |
✓ | 依存の識別名 |
deps[].repo |
✓ | Git リポジトリ URL |
deps[].rev |
ブランチ、タグ、コミット SHA(省略時は HEAD) | |
deps[].paths |
✓ | 取得するパスのリスト |
deps[].out |
✓ | ファイルの出力先ディレクトリ |
deps[].hooks |
各依存の同期後に実行するコマンド | |
post_hooks |
すべての依存の同期後に実行するコマンド |
同期の実行
設定が完了したら skem sync で同期します。
$ skem sync Synchronizing 2 dependencies... openapi-schemas is up to date, skipping. Successfully synchronized 1 dependencies. Lockfile updated: .skem.lock
lockfile と比較して変更があった依存のみを取得するため、不要なクローンが走りません1。
インタラクティブモードで依存を追加
リポジトリ内のどのファイルを取得するか分からない場合は、インタラクティブモードが便利です。
skem add --repo https://github.com/hiro-o918/skem.git
--paths と --out を省略すると、リポジトリのファイル一覧が fuzzy select で表示され、対話的に取得したいファイルを選択できます。
選択後、出力先ディレクトリを入力すれば .skem.yaml に設定が追記されます。
lockfile による再現性と CI での活用
同期が完了すると .skem.lock が生成・更新されます。
locks: - name: proto-schemas repo: "https://github.com/hiro-o918/skem.git" rev: "main" sha: e6f5da00c99fdfc6b746a4bb4e288a0cac66135a - name: openapi-schemas repo: "https://github.com/hiro-o918/skem.git" rev: "main" sha: e6f5da00c99fdfc6b746a4bb4e288a0cac66135a
lockfile をコミットしておくことで、チーム全員が同じバージョンのファイルを取得できます。
skem check を使うと、lockfile とリモートの差分を確認できます。
更新がある場合は非ゼロで終了するため、CI で定期実行すれば lockfile の更新漏れを検知できます。
$ skem check
hooks の活用例
hooks には同期後に実行したいコマンドを記述します。
環境変数 SKEM_SYNCED_FILES に同期されたファイルのパスが渡されるため、変更があったファイルだけを対象に処理できます。
deps: - name: proto-schemas repo: "https://github.com/hiro-o918/skem.git" paths: - "examples/schemas/proto/" out: "./vendor/proto" hooks: - "protoc --go_out=./gen $SKEM_SYNCED_FILES"
典型的な使いどころは次のとおりです。
- proto ファイル取得後に
protocやbuf generateでコード生成 - OpenAPI spec 取得後に
openapi-generatorでクライアント生成 buf lintやspectral lintでスキーマのバリデーション
すべての依存の同期が完了した後に実行したい処理は post_hooks に書きます。
「各依存のバリデーションは hooks、全体のビルドは post_hooks」という使い分けができます。
まとめ
AI プロダクト開発では、サービスの分割が進むにつれてスキーマ管理の煩雑さが増していきます。 skem はそこに対して「ファイルの取得と hooks の実行だけを担う」というシンプルな解を提供しています。 まだ発展途上のツールですが、同じ課題を感じている方の参考になれば嬉しいです。 使ってみた感想や改善提案は GitHub の Issue や PR でお待ちしています。
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初回実行時や
--forceオプション使用時はすべての依存を同期します↩