
「摘み草」とは、春の初め頃、
春の野に出て雑菜や草花を摘むことです。
春の野で草などを摘む「摘み草」は、
古代から春の行事として親しまれてきました。
『万葉集』にも、「摘み草」の様子を詠んだ
歌が収録されています。
「春日野に 煙立つ見ゆ 娘子(をとめ)らし
春野のうはぎ 摘みて煮らしも」
春野のうはぎ 摘みて煮らしも」
春日野に煙が立っている。
乙女達が春のうはぎ(=嫁菜)を摘んで
煮ているのだろう。
乙女達が春のうはぎ(=嫁菜)を摘んで
煮ているのだろう。
平安時代の貴族は、
自然を愛でる遊びとして楽しむだけでなく、
野草を体内に取り入れることで
1年の健康を祈願しました。
江戸時代になると庶民にも広がり、
郊外の野原に日帰りでお弁当を持って出掛け、
摘み草を楽しんだ後は、
お弁当を食べたり、お酒を飲んだりしました。
ただ庶民にとっての「摘み草」は、
風流な遊びというよりも、
食料として、葉菜類は野草に依存し
飢餓に備えて空腹を満たすことの出来る
根菜類や果菜類を栽培していたようです。
江戸の摘み草スポット
現在、都市近郊では
野原は見られなくなりましたが、
江戸でも少し足を延ばして郊外に行けば、
野生植物の豊富な自然環境がありました。
広尾原(ひろおのはら)
現在の広尾からは想像も出来ませんが、
昔は、土筆 (つくし) が生えていたことから、
「土筆ヶ原」(つくしがはら) と呼ばれていました。
その後は、広々とした丘陵地であることから、
「広尾原」(ひろおのはら) と呼ばれるように
なりました。
そして「広尾」と改称されたのは、
1688~1703年に行われた「元禄検地」の頃
だそうです。
この「広尾原」(ひろおのはら) は
「江戸一番の野原」と言われ、
春は「摘み草」、夏は「蛍狩り」、秋は「虫の声」を
楽しみました。
十二社熊野神社
現在は、「新宿中央公園」に
組み込まれたようにある
「新宿十二社熊野神社」は、
「中野長者」と呼ばれた鈴木九郎が、
故郷・紀州の熊野三山より12の神様、
十二所権現を勧請して建てた神社です。
当初は「十二所」(じゅうにしょ) と呼ばれたが、
呼びやすいように「十二社」(じゅうにそう) と
呼ばれるようになったそうです。
江戸時代には、十二社の地域は、
境内西側に農業用のため池が作られ、
「十二社」の池や滝が有名な景勝地で、
春は桜、桃、杏、山吹などの花が次々と咲く、
人気の行楽スポットでした。
どんな草を摘んだのか?
春の野の「摘み草」では、
蓬(よもぎ)、芹(せり)、土筆(つくし)、
野蒜(のびる)、嫁菜などを摘みました。
春の野草には、冬の間に体に蓄積した
毒素や老廃物の排出を促進する栄養素が
含まれています。
そのため、春の野草を食べる習慣は、
旬の味を楽しみながらも
体に必要な栄養素を取り入れられる、
体が喜ぶ習慣でもあったのです。
寛永20(1643)年に刊行された
『料理物語』第7章の青物(野菜)の部に、
これらの野草のそれぞれに適した料理法が
紹介されていました。江戸時代には野菜は青物と呼ばれていましたが、『料理物語』(1643)の青物の部には、現在では野草の、たんぽぽ・よめがはぎ(よめな)・よもぎ・はこべ・なづな・せり・つくつくし(つくし)・わらび・すべりひゆ・あかざなども入っています。
蒲公英(たんぽぽ)
黄色の花の蒲公英(たんぽぽ)は、
日当たりの良い原っぱなどに生えています。
食用として楽しむ場合は、アク抜きをしてから
天ぷらやお浸しにするのがおススメです。
嫁菜(よめな)
本州から九州の山野や畔道に自生する
キク科の多年草です。
春の摘み草の代表格であり、摘んだ若菜を茹で、
嫁菜飯やお浸しにして食べると美味しいです。
よもぎ
日当たりの良い原っぱや道端に
群生して生えているヨモギは、
高さは10cmくらいまでの柔らかい若芽を
天ぷらやお浸し、炊き込みご飯の他、
餅に練り込んで食べるのがおススメです。
野蒜(のびる)
ネギの仲間である野蒜(のびる)は、
日当たりの良い土手や道端に生えています。
ネギのような葉の根元にある
直径2cm程の玉葱のような形をした鱗茎を
掘り取って洗えば、
その場で食用となるため、
摘み草の際のお弁当のお菜ともなりました。
香りは「ニラ」に似ており、
味は「にんにく」と「らっきょう」の間くらい
だそうです。
せり
清流の流れる沢や川辺、田の脇に
群生しています。
三つ葉に似ていますが、セリは5枚葉です。
「春の七草」にも含まれていて、
お浸しや鍋の青味にぴったりです。
土筆 (つくし)
土筆(つくし)はスギナの胞子茎で、
日当たりの良い原っぱや、田の脇道などに
生えています。
「ハカマ」と呼ばれる
茶色い葉のついた茎の上に
穂がついているため、
食べる時にはハカマを取り除きます。
アク抜きをして、
お浸しで食べることが多いです。
すべりひゆ
日本各地の日当たりの良い、田畑、道端など
至る所に生えています。
若い葉や茎を茹でて水にさらした後、
和えもの、お浸し、汁の実にして食べます。
藜(あかざ)
若い芽や出たばかりの葉先を
手で摘み取って採取します。
味はほうれんそうと似ていて、
天ぷら、お浸し、和え物にして食べます。
「摘み草」をする際に
注意すること
他人の土地に入って、
勝手に採取することは出来ませんので、
田んぼや畑の脇、すぐ横に他人の庭がある
場合などは注意しましょう。
野草の中には、食べられる品種と
見間違えやすい、毒性のある草もあります。
また現在は、場所によっては、除草剤などの
農薬が撒かれている可能性がありますので
注意しましょう。
